姐さん
誤字脱字や表現のブレなんかをたまに修正していますが、物語の本筋が変わるような変更は一切していません。単純に技量不足です。申し訳ありません。
「あれ?」
ネイベルは確かに床へ鍵を差し込んだ。しかし、うまくいかなかった。何度か試してみるも、コツコツと虚しい固い音が返ってくるだけだ。
「全然入っていかないや」
周りをみると、皆一様に不思議そうな顔をしている。
「それじゃあこの部屋は、呪具の鍵で移転するしか使い道がないってことかしら」
ミネルヴァが首をひねる。
「それも複数の行き先へと飛べる、という事になりますな」
ロンメルも難しい顔をしながら言う。
「えっ? まさか、直接ダンジョンの仕組みに手を加えられるってこと?」
ネイベルはなんだか少し恐ろしく感じる。
「そうよね、そうなってしまうわ。そんな事できるのかしら……」
「どちらにしろ魔法の鍵は使えなかったのですから、皆様が来たという隣の空間から上層を目指すのはどうでしょう」
ロンメルは落ち着いた雰囲気でそう言った。すぐに頭を切り替えられる所が、とても頼りになる。知り合って間もないが、ネイベルはもう彼を信頼していた。
「そうね、なるべく行動を急いだ方が良いと思うわ。すぐに――あら?」
リンの言葉を遮って、地面が青く発光した。
「うおっ眩しい……」
ネイベルは咄嗟に目を瞑ってしまった。
「これはまずいですね。他国の人間が来ます」
こんな時だというのに、カドは落ち着いて平坦な声でそう言った。
全員で出口の方へ殺到する。
やがて光が収まると、そこには五人組の軽鎧をまとった集団が姿を現していた。
ネイベルは念のために、全員を妖しい光で包み込む。
カルーダは剣を抜いて最前線へ。左右にロンメルとシュウが、ネイベルの背後には、女性三人を守る形でカドが護衛についている。言葉をかわさずとも、なかなか良い連携だとネイベルは思った。
五人組は周囲を見渡す。青みがかった金属の鎧は、細かい彫刻も施されていてとても見事だ。身分の高い人間かもしれない。男性は四人とも体躯が良い。一人は女性だ。こちらは、うっすらと赤味がかった金属の鎧を装着している。
「あら、先客がいらっしゃったみたいね」
少しかすれた声で話しかけて来た彼女は、ネイベル達をじっくりと見渡している。
「どうしますか、姐さん」
一際体躯の良い男性がそう声をかけると、目の前の女性はそちらへゆっくりと振り向いた。
「ジン」
凍り付くような温度まで周囲が冷えた気がする。
「――マ、マリーさん」
「そうよ、忘れないでね」
マリーと呼ばれた女性はこちらへ振り向くと、にこりと微笑んでから、ネイベル達に言った。
「それで、事情を説明してくださるかしら。私、あまり気が長いほうじゃないのよ。簡潔にね」
カルーダがネイベルを見る。
ここは俺が説明するしかないか、と思い前に出た。ロンメルとショウは、道を譲るように後ろへと下がる。なるべく情報を引き出そうと、ネイベルはマリーへと話かける。
「それで、あんた達はどこの――」
ネイベルがそう尋ねようとすると、鋭い殺気がとんできた。マリーの目が、細くなっている。体の周囲には、なにやら黒いもやがかかっている様だ。ネイベルと似たような魔法かもしれない。
「わかった、わかったから殺気は止めてくれ」
「気が長いほうではない、と言ったはずよ」
兜からのぞく長い髪は、鎧同様にやや赤味がかった茶色をしている。それをくるくると指でいじりながら、彼女はそう言った。
「それじゃあ、真祖の悪魔っていうのは知っているか?」
「ええ、もちろん知っているわよ」
「この地で異変があれば、それを知らせる魔道具のようなものがある。それは?」
「封印の石碑ね。そんなの一部の間では常識よ」
そうだったのか。ネイベルは知らなかった。国の中枢にいる人間のみが知っている類の情報だったのかもしれない。なんだか頭が痛くなってきた気すらする。
「それが異変を知らせたので、ここに調査へ来たということだ」
「そうなのね。それで、悪魔のほうはどうなったのかしら」
ちらりと棺を見ながら、マリーはネイベルへと尋ねる。
「ああ、残念ながら逃してしまった」
「あら、そうなの」
そういったマリーの横顔が、一瞬歪んだように見えた。
「この部屋の探索は?」
「一応見るだけは見たが……」
「ライズ、セット」
「へい」
それだけ言うと、二人は息の合った返事をし、棺へと手をかけた。
「お、おい。何をするつもりだ」
「あら?」
マリーは首をかしげながらネイベルと見つめると、背後にいるロンメルやカドの顔を確かめるようにぐるっと見渡して、ひとつ頷いた。
「そう、話していないのね。――それか、知らないだけかしら」
ネイベルは頭を全力で回転させながら言葉の意味を探る。
「いや、話は聞いている。どういったつもりで棺に手をかけたのか、と聞いているんだ」
――ふふふ。
マリーは寒気がするほどの笑顔で笑うと、ネイベルに言った。
「嘘は良くないわよ。あなたは今、自分は何も知らないって断言したも同然なんだから」
そう言った後に、上半身を少しひねって棺の様子を確かめた。
ライズとセットと呼ばれた二人は、棺を奥へと動かしている。
重たい音が足元からその振動をネイベルへと伝える。壁の炎は不気味に揺れた。
「あら、やっぱりあったわね」
ゆっくりと動いていく棺の下には、階段が隠されていた様だ。ロンメルをちらりと見ると、わずかに目を見開いている。カルーダは、ほぉと息を吐き出した。
ネイベルは思わず舌打ちしそうになった。考えが足らなかったことを後悔している。何度も見ている小屋と同じじゃないか。当然、下りる階段が部屋に備わっているはずだ。今まで何度も下りてきたのだから……。
「あね……マリーさん、終わりました」
マリーは、一瞬で背筋が凍りそうな瞳を二人に向けると、すぐに笑顔で彼らをねぎらった。
「私達が先に見つけたの、当然私達が先に探索しても良いわよねえ?」
「……ああ」
ネイベルは頷かざるを得なかった。
「でもよ、どうせ下りる階段だろ? 別に良いじゃねぇか。後から追いかけるなり俺らも別の方面を探索するなりすれば良い話だ」
カルーダが小声で話しかけてくる。
「あなた達、本当に何も知らないようね」
それを聞き取ったマリーが、ちょっと可哀想になってきたわ、と告げてくる。
「あぁ? 階段なんて今まで何度も利用してきたんだ。先に行きたいなら好きにすりゃ良いだろう。その先が地獄につながっていても文句は言うんじゃねぇぞ」
カルーダはしっかりと殺気を込めてマリーを見据えた。
すると、あっはっはっは、と口を大きく開けてマリーは笑い出した。
「ここまでくると滑稽ね」
「確かに救いようがありませんね」
横に控えていた名前の分からない男がそう言う。
「良いじゃない。おかげで私達は助かるんだから」
「まぁそれもそうですが……ちょっと暇だったもので」
男は手に持った棍棒を動かしながら地面をひきずり、音をだして威嚇してくる。
「ホワイト、あんたもジンを見習いなさい。余計な面倒は起こさないでちょうだい」
「へい」
小さく首を下げると、彼を先頭にしてライズとセットも階段を下りていく。
「それじゃあ名残惜しいけれど、そろそろお別れね」
そういって階段を下りようとしたマリーは、急に足を止めてネイベルを振り返った。
「そういえば名前を聞いていなかったわね。私はマリーよ」
そう言って不適に微笑む。
「俺はネイベルだ」
マリーは横に視線をずらす。
「フンッ、カルーダだ」
「そう、良く覚えておくわ。――お馬鹿さん達」
それだけ言い残すと、彼女はジンを連れて階段を下りていった。
「おい、ロンメル」
カルーダは静かになった部屋の中で、開口一番、ロンメルへと食って掛かった。
「てめぇ、隠し事しやがったな」
「やめなさい、カルーダ。みっともないわよ」
ミネルヴァがすかさずたしなめる。いつもならリンの仕事だが、彼女はこめかみを指でグリグリと押している。
「どういうことだ」
「彼らは最初から知らなかったっていうだけよ」
「じゃあなんであいつらは知ってるんだ」
ロンメルが申し訳なさそうに口を開いた。
「私どもの国には、階段があるという言い伝えはございませんでした。下りた先がどうなっているのかも、皆目見当すらつきません」
「国によって情報がどう伝わるかなんて様々よ。たまたまアパドではしっかり伝わっていたってことね」
「なんだ、あいつらの出身まで分かるのかよ」
カルーダは少し驚いている。なので、ネイベルは丁寧に説明してやった。
「ああ、カルーダは知らなくても無理ないよ。一応確かめようとして殺気をとばされたけどね、彼らはおそらくアパドの人間で間違いない。あの色味がついた鎧が特徴なんだ」
あれは魔法の力が込められているという印で、現在はアパドにいる限られた人間しか作る事のできない装備だ。
「そうかよ。まぁ良い。ここでやつらをつぶせなかったのは仕方ないが、そろそろ追いかけて俺らも別方面から探索をしよう」
アルプーリ王女が背後にいる状況だったので戦闘を選ばなかった、という意味だろう。彼は重要人物の護衛任務に長けている。ロンメルさんも、きっとそうなんだろうな、とネイベルは思った。
「リン、口数が少ないけど大丈夫?」
階段を下りながらリンへと話しかける。
「ええ、問題ないわよ。ただちょっと……思い出せそうで思い出せない記憶が――」
「無理しないでも良いんだ。ゆっくり取り戻していこう」
ネイベル達は、どこか人為的な曲がり角を進むと、目の前にはやや広めの空間が見えた。それと同時に、大きな人の声が反響して聞こえる。
「おい、あいつらは一体、何を――」
先頭を行くカルーダの視線の先を追うと、さきほどの五人組が、狂喜乱舞している姿が目に映った。
「はぁ、そういう事だったのね」
ミネルヴァの顔色が少し曇った。
少し地上の登場人物をまとめて登場させていますので、覚えにくいかもしれませんね。




