謎の四人
目を開けたネイベルは、首を動かしながら周りの様子を見て、自分の置かれている現状を確認した。
両手両足を変な縄で縛られている。隣にはカルーダが寝ているが、同じように両手両足を縛られている。リンとミネルヴァも近くに座っているが、どうやらこちらも同じ状況のようだ。
そしてわずかに距離をあけ、槍をこちらに向けながら立っている人間が四人もいる。
腹筋に力を入れてから起き上がると、リンが声をかけてきた。
「ネイベル! 目を覚ましたのね」
声色に、少し怒気をはらんでいる気がする。ミネルヴァは、ちらりとネイベルを見ると、視線をカルーダの方にやってから、小さくため息を吐き出した。
「ああ……でも、これは一体――」
ネイベルが言い終わらないうちに、リンが言葉を重ねてきた。
「この人達が私の言う事を信じてくれないのよ。それで、あなたを取り調べるって言ってきかないの」
リンは頬を少し膨らませながらそう言った。正直、ほかの事がどうでも良くなる位には可愛い。
すると、四人の中でも一際目立っていた、黒い短髪の女性……でいいのだろうか、彼女は乱暴な言葉を投げかけてきた。
「へっ、御伽噺の神獣を倒しただとか、伝説の地底人の国を訪れただとか、適当な事ばっかぬかすからだぜ」
いい加減にしなっ! と言って、腕を組んでいる。なかなかご立腹の様子だ。周囲の三人は、槍をこちらに向けたまま、微動だにしない。やや、冷や汗をかいているようにも見受けられる。
すると、そのうちの一人が言った。
「姫様、何度言えば分かるのです。言葉使いに気をつけなされ」
「うるせえクソ爺。さっさと必要な情報を吐かせろ。怪物が来たら命がねぇと思えよ」
「はぁ……どうしてこうなってしまったんじゃ――」
クソ爺と呼ばれた人物は、大きなため息をつきながら肩を落としている。
四人とも、何かの鱗を革に張り付けたような鎧をつけている。頭部にも、そして篭手や脛当ても、同じような装備をしていた。
黒く光沢のあるものを姫様と呼ばれていた女性が、青黒いものを残りの三人の男性が装備している。槍は恐らく鉄製では無さそうだ。見かけない色をした金属であったし、先端も見慣れない形状をしていた。先で三叉に別れている。
「手荒な真似をして申し訳ない。しかし、少々尋ねたいことがあるのだ。正直に答えてくれ。ならば命までは奪わないと約束しよう」
「勝手な約束してんじゃねーよ!」
女性は尚も乱暴な物言いをやめない。なんとなくカルーダの喋り方に似ている。やや浅黒い肌にそばかすが見える。
「ネイベル、どうするの?」
リンが不安そうに、そう尋ねてきた。
「命までは取らないそうだから、素直に答えようと思うんだけど、リンとミネルヴァはそれで良い?」
そう言いながら、カルーダに一瞬視線をやった。相手の力量は恐らく全く大した事がない。リンだけでも殲滅できる気がする。しかし、油断するのはよくない。マトージュだって、真正面から叩けば多分勝てたくらいには戦闘力自体に差はあったと思うのだ。
今回の敗戦でネイベルは、真正面から力ずくで戦うだけが勝負ではないと、痛いほど学んだ。故に、ここは丁寧に、そして正直に答えるべきかなと思った。
カルーダを見やることで、彼が寝たままの今は戦うべきではないという意思も、リン達には伝わっているはずだ。
「あなたがそう言うのなら、それでいいわ」
「わかった。さあ、聞いての通りだ。俺が知っている事なら何でも正直に答えると約束しよう。その代わり、こちらの人間には手をださないでもらいたい。仲間はまだ目が覚めないのだ」
「ふんっ、爺と大差ねぇ年に見えるぜ? もう死んでるん――」
「うるさいわね! 黙ってなさいよ! それ以上言ってごらんなさい。ただじゃおかないわよ」
なんと、相手の女性の挑発に、ミネルヴァが激怒している。今までに見たことのない表情だ。
普段は、知的好奇心を満たす問題以外、心底どうでも良いといった風で、こういった問題には全く関心を寄せないのだ。非常に珍しい。
そんな彼女を意思を感じ取ったかの様に、すぅっと風が吹き、青白い炎を揺らした。
「ほぉ……オレに向かってそんな口のきき方をする奴なんざ久しぶりだぜ。――後悔すんぞ」
女性が瞳を細くしながら鋭い眼光を向けている。
しかし、ミネルヴァの決意は揺らがなかったようだ。
「結構よ! あんたごときにやられるカルーダじゃないわ。絶対に私を守ってくれるんだから。あんたこそ後悔するわよ!」
彼女は顔を真っ赤にしながら、はっきりとそこまで断言した。
これはもう珍しいなんていう問題じゃない。前代未聞だ。あのミネルヴァが――誇り高く、人間は自分より下等な存在だ、と言って憚らないあのミネルヴァが――はっきりとカルーダの事について言及している。
言い返されると思っていなかっただろう女性は、一度目を大きく開くと、にやりと口をゆがめた。
「――言ったな? おい、爺。確かに聞いたな?」
「…………」
老騎士は、黙して答えない。
「おい、聞いてんのかよ! こいつは今、はっきりと、このオレに、反抗的な態度を取ったんだぞ!」
「それでは、姫様はどうしたいのです。情報を引き出したいのか、ここでこやつらを処分してしまいたいのか。一体どちらの道を進まれるですか」
老騎士は、ため息をつきながらそう言った。
「両方に決まってんだろうが! 情報を引き出せるだけ引き出したあとは、怪物の餌にでもなってもらってよ、オレ達が安全に小屋まで帰るために使うんだよ!」
「おぉ……なんと酷い……。そんなことをお考えになっていたとは」
爺は悲しいです、と言って泣き真似を始める。
――まったく、この茶番は一体何なのだ。
ネイベルは、意味が分からなかった。両手両足を結んでいるロープは、正直に言えば何も問題にならない。今すぐ解くことが可能だ。ただ、解くというよりかは、消すといったほうが正しいかもしれない。
それに、恐らくカルーダはもう目を覚ましている。先ほどから、鋭い殺気をビンビンと感じる。
話が進まないので、仕方なくネイベルは先をうながす。
「で、はやく聞きたい事をおっしゃってくれませんか。こっちも色々ありますので……」
すると、女性が勝気な表情を浮かべながら、意地悪そうにミネルヴァへ向かって言った。
「そこの小生意気なお譲ちゃんよ。ご友人は、早々に諦めているみたいだぜ?」
老騎士は大きなため息をついた。
ため息をつきたいのは、こちらの方だ。
「ため息をつきたいのは、こちらの方だ。――失礼」
ネイベルは、ついつい考えが声に出てしまった。
「んぷっ……し、失礼しました」
一人の若い騎士が、しまったという表情を浮かべている。
――ガツン!
彼の頭上から、槍が鋭く頭頂部へと振り下ろされる。火花が見えたと錯覚する程の鋭い一撃だ。
「ぐっ……も、もうしわけありません」
「次はねぇぞ。……おい、爺。はやくやれ」
短くそう言うと、いよいよ彼女は俺に対してはっきりと視線を合わせ、老騎士による質問の答えを吟味しようとしている。
「はぁ……まぁ良いでしょう」
老騎士のまとう雰囲気が、がらりと変わる。
ネイベルは一つ、つばを飲み込んだ。
直感で、槍に刺されたような感覚があった。
気配を上手に隠していたのか。なるほど、やはりただ老いているだけの兵士ではなかったようだ。
ネイベルも、しっかりと質問に答えるべく、姿勢を正した。
小説に出てくる老人は、大体凄い奴の法則。
なるべく毎日更新を続けたいとは思っているのですが、完結までのプロットを書き終えてしまいたいので、もしかするとその間は少しペースが落ちるかもしれません。そうなった場合は、いくつか短編を挟んでから、長編を更新しようと思っています。
宜しくお願いします。




