第七章 東京
俺は店を貸し
家族の食いぶちを残しつつ東京へ出た。
大学時代の友人が、
「こっちで働けばいい」
と言ってくれた。
単身赴任。
家族を残しての生活。
ホテルのような小さな部屋。
コンビニ弁当。
一人の食事。
仕事が終われば、誰もいない部屋へ帰る。
大阪にいた頃は、家に帰れば誰かがいた。
東京では、鍵を開ける音だけがする。
俺は何を守り 何を失い
そして何がしたかったんだろう?
優花との再会
ある夜、大学時代の友人から誘われた。
「たまには飲みに行こう」
二人はクラブへ行った。
酒、笑い声、光、音楽、若い女性
懐かしく少し場違いな様な気もした。
「もう俺こう言うとこ卒業したで」
「ウソつけお前が卒業するわけ無いじゃん!」
永淵が学生時代のノリで笑った。
その時俺たちのテーブルに
若い女性が座った。
年齢差は、親子どころではない。
最初は単純に驚いた。
なぜなら、彼女の顔が優花に似ていたからだ。
目元。
笑い方。
首を少しかしげる癖。
そして名前。
「こんばんは、優花です、初めてですよね?」
その瞬間、俺の心臓が一度、大きく鳴った。
同じ名前。
偶然だ。
そう思った。
ただの偶然。
彼女は若かった。
俺はもう若くない。
それなのに、話していると不思議なほど気が合った。
何度か店へ通うようになった。
やがて二人で会うようになった。
彼女は俺の話を聞いた。
昔の恋愛のこと
家業のこと。
子供のこと。
失敗した結婚のこと。
彼女は笑わなかった。
否定もしなかった。
ただ、
「ずっと頑張ってきたんだね」
と言った。
その言葉が、俺の胸に刺さった。
ずっと誰かに言ってほしかった言葉だった。
俺は次第に考えるようになった。
人生をやり直せるのではないか。
普通なら恋愛対象になるはずのない相手だった。
だが俺の心の中で
もう一度、誰かを好きになってもいいのではないか。という強い炎が燃え上がり出した。
家族を捨てることになる。
子供たちを傷つける。
分かっている。
それでも。
俺は、優花と一緒にいる未来を夢見るよう
になった。




