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三年生の教室。
放課後のチャイムが鳴ると同時に、カズヤは進路希望調査票を机の奥へ押し込んだ。
第一志望の欄は相変わらず真っ白なまま。
カズヤはカバンを手に取ると、一階の一年生フロアへと向かう。
放置しておくと何をしでかすか分からないレナを回収して帰るのが、最近のルーチンになっている。
レナの教室から少し離れた廊下で待っていると、無表情なレナがゆっくりと歩いてきた。
カズヤが声をかけようとレナを見ると、レナの背後から不気味な視線を感じた。
金髪の髪を左右で高く結い上げたツーサイドアップの髪形。
昨日の訳の分からん少女。
どうやら今日、レナのクラスに転入してきたのは彼女だった。
彼女は制服に身を包み、まるで最初からこの学校の生徒だったかのような振る舞いで、無表情にレナの後頭部を凝視していた。
カズヤは戸惑いながら彼女に話しかけた。
「……君は昨日の……」
カズヤが引きつった声を出すと、彼女ははゆっくりとカズヤを見た。
「お前は昨日の野蛮な低知能個体!」
ルルはカズヤの胸ぐらを掴む勢いで詰め寄ってきた。
昨日のラッキースケベへの羞恥心など微塵も感じさせない傲慢な態度だ。
「私は『ルル』。昨日あなたが余計な物理干渉をしてくれたせいで、私のメインデバイスの制御権は、この女に完全にロックされたんですよ! この落とし前、どうつけてくれるんですか!」
ルルは、流暢な言葉遣いで、一方的にカズヤを責め立てた
ルルの胸中にあるコア・デバイスは、今やレナの手のひら一つで封じられている。
本来の出力が出せない以上、ルルはレナに逆らうことができない。
その鬱憤を、元凶であるカズヤにぶつけているのだ。
「いや、あれは間に入ろうとしたら足がもつれて……」
「必要以上に私の感触を堪能しておきながら言い訳ですか? 今はサブ・デバイスしか使えませんが、それでもこの未発達な惑星を更地にするくらいは容易いんですよ? 今すぐあなたの髪の毛を一本残らず消去してあげましょうか?」
「……ルル」
それまで黙っていたレナは静だが、どこか迫力を感じるような声でルルの名を呼んだ。
レナの瞳からは感情が消え、ただ圧倒的な圧力がルルとカズヤを包む。
「……兄さんに対する暴言は許可しません。今すぐその無意味な威嚇をやめて三歩下がりなさい。そして兄さん……ルルの胸部を必要以上に堪能した理由を後で詳しく報告して頂きます」
ルルは屈辱に顔を歪めながらも、それ以上カズヤを攻めることはできなかった。
そして、カズヤは内心「こいつのせいで俺にまで飛び火した」と頭を抱えたが、レナの有無を言わせぬ視線に、ただ冷や汗を流すことしかできなかった。
レナはカズヤの隣に歩み寄ると、当然のような顔でその腕を掴む。
「……兄さん、帰りましょう。この個体は当面の間、私の管理下に置きます。野犬にでも噛まれたと思って忘れてください」
カズヤとレナは夕暮れの校舎を後にした。
また一人増えた宇宙人と思しき少女に不安を抱えるカズヤであった。




