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深夜二時。

カズヤは数学の教科書を前に、魂が口から漏れかけていた。


「終わった……サイン・コサインの段階で、俺の脳内メモリはパンク寸前だ……」


そこへ、レナが夜食の「特性おにぎり」を持って現れた。


「兄さん。脳の処理能力が限界値に達しています。一時的な効率化を提案します」


「効率化? エナジードリンクならもう三本飲んだぞ」


「いいえ。神経伝達物質の分泌を調整し、思考速度を強制的に引き上げます」


そう言うな否や、レナは小声で何かをつぶやく。

すると、カズヤは脳内に冷たい電流が走ったような感覚を覚えた。

視界が驚くほどクリアになり、今まで「暗号」にしか見えなかった数式が、まるで意味を持った物語のように頭に流れ込んでくる。


「……解ける! 解けるぞレナ! 数学が、面白いように理解できる!」


カズヤは取り憑かれたようにペンを走らせた。

この全能感なら、明日のテストは満点どころか、数学の歴史を塗り替えられるとさえ確信していた。


翌日。


テスト開始のチャイムが鳴り響く。

カズヤは余裕の笑みで問題用紙をめくった。


(くっくっく。昨日のあの感覚で容赦なく片付けてやるぜ!)


悠然と構えながら一問目を見た瞬間、カズヤの指が止まった。


「……あれ?」


昨夜、あんなに輝いて見えた数式たちが、今はただの「曲がった棒と記号」に戻っている。

レナの処置は、あくまで「一時的なオーバークロック」に過ぎなかった。

テスト本番、カズヤの脳は通常スペックへと戻されていたのだ。


「う、嘘だろ……。公式……公式が一個も思い出せねぇ……!」


冷や汗が止まらない。

昨日解いたという確かな記憶はある。

だが、その「解き方」にアクセスするための鍵を、今のカズヤは持ち合わせてはいなかった。


結果。


放課後、返ってきた解答用紙には、真っ赤な「12点」の文字。

そこへ隣の席にいるヒカリに点数を目撃された。


「あら、高木君。こんなテストで赤点なんて、あなたの星の知能もたかが知れてるわね」


ドヤ顔をしてる委員長の机を見ると、そこには95点の解答用紙があった。


(委員長……抜けてる割には地味に頭良かったんだな……)


カズヤはふらふらとした足取りでレナの教室がある1階へ足を運ぶ。

何気に壁に目をやると、そこには今回1年のテスト上位成績者が貼り出されている。

そのリストに目をやったカズヤは、さらに絶望に突き落とされた。


学年1位:高木 レナ 100点


妹の名前が最上段に君臨していた。


(あいつ……いつ勉強してたんだよ……)


そこへ、レナが教室から出て来た。


「……兄さん。顔色が優れませんね。栄養補給が必要ですか?」


いつの間にか隣に立っていたレナが、無表情に問いかけてくる。


「レナ……次からは、せめてテストが終わるまで……持続させてくれ……」


カズヤは自分の解答用紙を丸めてポケットに突っ込み、夕暮れの廊下で力なく項垂れた。

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