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日曜日の昼下がり。

カズヤはレナを連れて、近所の商店街へと買い物に来ていた。

目的は、レナに「本物の対人コミュニケーション」を学ばせること。

学校での大惨事を繰り返さないための、いわば実地訓練である。


「いいかレナ。今日は買い物だ。余計なことは言わず、愛想よく『こんにちは』と『ありがとうございます』これだけで乗り切れ。いいな!」


カズヤの念押しに、レナは無表情に頷いた。


「了解しました、兄さん。状況に応じて、柔軟な『女子高生プロトコル』を適用します」


(そのプロトコルとやらが一番不安なんだけどな……)


カズヤが胃のあたりを押さえていると、八百屋の威勢のいい親父さんが声をかけてきた。


「そこの可愛いお嬢ちゃん! ほら、この大根、今日の一押しだよ!」


レナは大根をじっと見つめ、一瞬だけ瞳の奥でスキャンした。

そして、カズヤを振り返ってこう言った。


「……兄さん。この個体、鮮度のマウント取ってますね。水分含有量、神回避レベルで保持。ポチり推奨です」


「……? よく分からんが、目利きがいいねえ! サービスしちゃうよ!」


八百屋の親父さんは「マウント」を「山ほど良い」とでも解釈したのか、ホクホク顔でおまけのネギまで袋に放り込んだ。


続いて訪れたのは魚屋だ。


「お嬢ちゃん、今日はいいマグロが入ってるよ! 脂が乗ってて最高だ!」


レナはマグロの切り身を指さし、店主に向かって淡々と言い放つ。


「……この脂の乗り、飯テロ確定。特定して通報……ではなく、買い占めを提案します。親父さん、この切り身、草生えるほど美味そうです」


「おうよ! 草が生えるほどか! ガハハ、嬉しいこと言ってくれるねえ、お嬢ちゃん!」


魚屋の店主もまた、豪快に笑いながらマグロを包んでくれた。


カズヤの心配をよそに、レナのズレた物言いは「都会の若者の最新の褒め言葉」として、商店街の懐の深さにスポンジのように吸収されていく。


「あれ……俺より馴染んでないか? 結局、言葉の壁を超えてるのはレナの方なのかよ……」


複雑な心境になりながらも、両手に買い物袋を下げ、少しだけ打ち解けた雰囲気で帰路につく二人。


「……兄さん。今日のコミュニケーション、如何でしたでしょうか?」


「えっ、あ、うーん……まぁ、喜んでもらえたならいいんじゃないか?」


夕暮れ時、オレンジ色に染まる住宅街。

カズヤがふと、背後に違和感を覚えて足を止めた。


だが、振り返ってもそこには電柱の長い影が伸びているだけ。

二人のやり取りを、電柱の陰からじっと見つめているヒカリの姿があることには、カズヤはまだ気づいていなかった。

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