15
放課後の校門前、張り詰めた空気が漂っていた。
カズヤを監視するために現れた委員長、五十鈴ヒカリ。
そして、そのカズヤの隣で無表情に佇む妹、レナ。
ヒカリは鋭い視線でレナを射抜き、手帳を構えたままカズヤに詰め寄った。
「……高木くん。その、やけに整った顔立ちの人類は誰? 私の監視を阻むために、現地で調達した協力者かしら?」
(なんだこいつ、いきなり……)
ヒカリは、目の前の少女が「カズヤに協力する優秀な地球人の女子高生」だと信じて疑っていない。
一方のレナは、ヒカリを一瞥するなり、その瞳の奥で淡々と解析を終えていた。
(バイオサイン確認。地球外生命体。知的レベル、低……現状、脅威度ゼロ。対象を不干渉モードに移行)
正体は一瞬で見抜いた。
だが、レナにとって「宇宙人であること」など些細な問題ですらなかった。
それよりも、今この場において優先すべきは、数日かけてインストールした「最新の女子高生プロトコル」の実践である。
「あ、いや、委員長。こいつは俺の妹で……」
カズヤが割って入ろうとするのを遮り、レナがヒカリの眼前に一歩踏み出した。
すると、レナの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「兄さん。このメス豚、さっきからマウント取ってきててマジ草。速攻で特定して炎上させますか?」
レナは女子高生の言語を完璧に再現したと言わんばかりのドヤ顔(無表情)でカズヤをみつめる。
しかし、レナの心境とは裏腹に、カズヤの心臓は止まりそうになっていた。
「ちょ、ちょっとレナさん!? 何言っちゃってるの!!」
一方、言われた方のヒカリは、顔面を蒼白にして戦慄していた。
「……メ、メス豚!?(私の擬態を豚レベルとでも言いたいの?)それに特定ですって!?(潜伏先まで暴くつもりなの!?)」
ヒカリはそれが単なる「ネットの悪口」だとは夢にも思わず、自分の正体を的確に射抜く、恐るべき宣戦布告だと解釈した。
「い、いい度胸ね! 私のステルス技術をそこまで正確に『特定』できるなんて……あなた、さては相当な情報収集能力を持つ『この星で選ばれし生命体』ね!」
「情弱の分際で高度な情報戦を語らないでください。垢バンされたいのですか?」
レナは再び女子高生を完全再現した感をにじませたドヤ顔(無表情)でカズヤをみつめる。
「垢バン」を何らかの封印術か暗殺コードだと受け取ったのか、ヒカリはさらに身を固くした。
この時が止まったような状況をフォローすべくカズヤは必死に口を開いた。
「ちょ、二人とも待てって! 委員長、それはただのネットスラングだから! レナ、お前もその言葉を使うなと言っただろ!」
必死に叫ぶカズヤの声は、火花を散らす二人の耳には届かない。
「……兄さん。この低知能個体、会話のドッジボールが草。日本語でおk。さっさとROMってろ。です」
(いや、お前が何を言ってるか分かんねーよっ!!)
「草!? ロムってろ!?……さては、何かの精神攻撃ね! 面白いわ、受けて立つわよ!」
一向に引かないヒカリに対し、レナは心底面倒そうな溜め息をついた。
「……兄さん。この地雷女、メンヘラの気があります。早急なブロックを推奨します」
「ふん、今日はここまでにしてあげるわ。でも覚えておきなさい。高木くんの監視権は渡さないわよ!」
(いや、何を言ってるんだよこいつら……)
ヒカリは捨て台詞を吐き、全力の競歩でその場を去っていった。
後に残されたのは、無表情な妹と、精根尽き果てたカズヤだけだった。
「……もう、好きにしろよ……」
カズヤは校門の柱に手をつき、夕日に向かって深く、深く項垂れた。




