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四時限目の終了を告げるチャイムと同時に、カズヤの机の横に人影が現れた。
顔を上げると、そこには隣の席の委員長が自分とカズヤの机を接触させ、一緒に昼食を取ろうとしていた。
「高木くん。宣言通り今日からあなたの生体エネルギー補給……いわゆる『昼食』を監視させてもらうわ」
「あれ、冗談じゃなかったんだ……」
「当然よ! 異星の工作員が公衆の面前で何を摂取し、どのような代謝を行うのか。そのデータこそが、この星の平穏を守る鍵になるんだから!」
ヒカリは至極真面目な顔で、膝の上に白手帳とペンを構えた。
カズヤは深く溜め息をつき「やれやれ」と思いながらも観念してレナお手製の弁当を広げる。
蓋を開けると、彩りは完璧、栄養バランスは細胞レベルで計算し尽くされている。
何より、米一粒の潰れもなく、おかずの詰め方が物理演算で最適化されたような、不自然なまでの美しさを放っていた。
ヒカリのペンが猛烈な勢いで手帳を走り出す。
「信じられない……この色彩、そして配置。これ、保存料なしで鮮度を維持するために、容器内で特殊な磁場でも発生させているの? 地球の家庭料理の範疇を、物理的に超越しているわ!」
「いや、訳分からんし……それに磁場とか言うな」
カズヤは無視して箸を伸ばそうとしたが、ヒカリの鋭い制止が入った。
「待って! これは『検食』よ! 異星の劇物がクラスに蔓延するのを防ぐため、私が毒見をするわ!」
カズヤが「なんでだよ!」とツッコミを入れるより先に、レナ特製の鶏の唐揚げを一つ、素早く奪い取った。
ヒカリは疑り深い目でそれを見つめた後、思い切って口に運ぶ。
次の瞬間、彼女の身体がビクンと跳ねた。
レナが細胞レベルで旨味を凝縮させ、隠し味に仕込んだ未知のスパイス(※レナ的には普通の調味料)が作用。
ヒカリの脳内に、地球上の単語では形容しがたい快楽物質がスパークしたのだ。
「くっ……! み、味覚から私の脳内物質を直接書き換えようというのね! 恐ろしいバイオ攻撃だわ、高木くん!」
「いや、バイオ攻撃ってなんだよ……委員長が勝手に奪って食ったんだろ……」
ヒカリは、なんやかんやと意味不明な理屈をこねながら二口目、三口目と容赦なく唐揚げを口に運ぶ。
「ただの食いたいだけだろっ! あーあ……レナ特性の唐揚が……」
悲痛な叫びをあげるカズヤを尻目に、ヒカリは荒い息をつきながら自分の持ってきた鞄を探った。
取り出したのは、ラベルの一切ない、透明なパウチに入った業務用ゼリーだった。
「……ふう。私はこれで『完璧なこの星の生命体』に擬態しているのよ。あなたのような、周囲を惑わす過剰な補給は目立って仕方ないわ……一口、交換してあげてもいいけれど?」
「いや、一口どころか既に三口強奪されてるけどな! あと擬態とか言うな、少しは隠せ」
結局、無理やりゼリーを押し付けられ、カズヤは最後の唐揚げも没収された。
渡されたゼリーを吸ってみるが、驚くほど味がしない寒天を無味無臭の水で固めたような代物だった。
「これ……味が全然しないんだけど……」
「それが『無』を愛するこの星の嗜みよ! でも、その、あなたの母星の補給物質も悪くはないわね。明日も毒見してあげてもいいわ」
「そんな嗜みはねーっ! そしてもう勘弁して下さい」
満足げに去っていく委員長の背中を見送りながら、カズヤはぐったりと机に突っ伏した。
(レナ、お前の料理が美味すぎるせいで、変な委員長に餌付けされちまったぞ……あと委員長……お前がこの星の人類から一番遠ざかってんだよ!)
結局、監視のせいで全く食べた気がしないまま、午後の予鈴が鳴り響いた。




