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放課後。


家に帰る前にレナに話があるため、カズヤはレナと中庭にいる。

先ほど、委員長から「文明レベル」などという不穏な単語をぶつけられた恐怖が、まだ尾を引いている。

カズヤは深刻な面持ちで切り出した。


「いいかレナ。お前の『座標干渉』とか『量子化』とかいうSFっぽい単語は、今から一切禁止だ。あんな言葉を日常で使ってたら、いつか絶対ヤバい奴だと思われる」


レナは瞬きもせず、感情の読めない瞳でカズヤを見つめた。


「……了解しました。専門単語を封印。対象、兄さん、および一般人類への出力を『日常的な単語』へと再定義します」


(うーん……それを禁止って言ってんだが、分かってんのかなあ……)


カズヤは多少の不安を覚えながら溜め息をつき「試しに今の天気を『普通』に言ってみろ」とテストを課す。

以前のレナならば「上空の積乱雲による降水確率が八十パーセントまで上昇、湿度計数に異常を検知」などとほざいただろう。


レナはしばらく沈黙した後、たどたどしく口を開いた。


「……水が、降ります。たくさん、濡れます。傘、いります……たぶん」


「片言の外国人かっ!」


専門用語を避けようとしすぎて、まるで感情を学習し始めたばかりの初期型ロボットのような、不自然な片言になっていた。

そこへ、中庭を通りがかった見知らぬ生徒が、地面に落ちていたペンを拾って声をかけてきた。


「あ、これ君たちの?」


以前のレナなら「個体の紛失物を分子結合エネルギーの維持された状態で回収しました。感謝します」などと、無機質な長文をほざいたはずだ。

だが、新しい設定を適用したレナは、相手をじっと見つめ、ボソリと呟いた。


「……モノ。あった。うれしい。ありがとう……ございます。……死なないでください」


「だから片言の外国人かっ!」


拾ってくれた生徒は、ひきつった笑いを浮かべながら逃げるように去っていった。


「怖いわ! なんで最後に不吉な呪いみたいなこと言うんだよ!」


カズヤの絶叫に、レナは無表情で首を傾げる。


「『いつまでもお元気で』という慣用句を、最短経路で翻訳しました……だめ、ですか?」


「ダメだよ! 訳し方が間違ってる!  お前、SF用語で喋ってる時の方が、まだ『理屈っぽい天才キャラ』で誤魔化せたぞ!」


レナは感情の消えた瞳で、じっと自分の手のひらを見つめた。


「低知能生命体の言語は難解です……」


「あ、うん、なんかごめん……とりあえず、ゆっくりやっていこうか……」


(俺もその低知能生命体とやらの一員なんだけど……)


言葉足らずになったことで、逆に「得体の知れないヤバさ」が跳ね上がってしまった妹を前に、カズヤは頭を抱えた。

普通の女子高生への道は、超科学で宇宙を書き換えるよりも遥かに険しいようだった。

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