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翌日の学校。
昨夜の「完敗」を経て、カズヤは、固く心に誓っていた。
もう、レナの正体なんて探らない。あいつが何者だろうと、俺は『普通の兄』として平穏な高校生活を送るんだ。
だが、その決意は五時限目の数学で、早くも脆くも崩れ去ることになる。
カズヤは黒板に書いある内容をノートに書き写しているとミスをしてしまう。
「やれやれ」と思いながら修正している、その時だった。
1階の教室にいるレナが、カズヤの「書き損じ」による微弱なストレス信号を検知。
良かれと思って、カズヤのペンに、黒板の文字をに正確に書き写す機能を付与したのだった。
その結果……
ペンはまるで意思があるかのように勝手に動き出し、黒板の文字をノートに書き写している。
(ぶふっ!? ぺ、ペンが勝手に動いてるっ!!)
周囲のクラスメイトに、それを気にする者はいない。
だが、たった一人。隣の席の委員長、五十鈴ヒカリだけは違った。
彼女はカズヤのペンが物理法則を無視して、勝手に動いているのを驚愕の目で見つめていた。
(間違いないわ……あれは、この星には存在しない力……不用心すぎるわ、高木くん)
放課後。
カズヤが鞄を持って帰ろうとした廊下で、ヒカリが仁王立ちで立ちふさがった。
彼女は鋭い視線でカズヤを射抜き、逃がさないと言わんばかりに距離を詰めてくる。
ヒカリはペンが勝手に動いていた事を問いただすと、カズヤは冷や汗を流しながら必死に誤魔化そうとする。
「あんな高密度のエネルギーを不用意に教室で使わないで。正体を隠す気があるの? あなた、この星の文明レベルを理解している?」
「は? 正体ってなんのことだよ」
(文明レベルって……委員長って何かレナっぽい事を言うんだな……)
ヒカリの追求は「カズヤが宇宙人であること」に向けられていた。
ヒカリは、カズヤ本人がペンに力を与えたものだと完全に勘違いしているのだ。
その時。1階の教室で、カズヤが「不審な女子」に絡まれていることを察知したレナは援護射撃を開始する。
委員長の記憶の一部を消去するため、ヒカリの脳細胞へ直接「忘却パルス」を放射。
だが、ヒカリの脳内にある異星種族特有のプロテクトがそれを弾き、目に見えない火花が散る。
ヒカリは思わず声を荒らげた。
「……!? 今、私の精神障壁に干渉しようとしたでしょ! 高木くん! 私を低知能なこの星の人類と一緒にしないで!」
(えええええっ!? 俺、何か委員長の気に障るような事したのかな……っていうか、低知能とかこの星とかって……委員長は宇宙人かっ!)
「いや、何か……ごめん……」
カズヤはレナの仕業とは知らず、訳の分からないまま謝るしかなかった。
「いいわ、あなたがこのクラスの平穏を乱さないよう、知的生命体の私が24時間体制で監視してあげる」
(ええ……何なんだよ一体……いや、それよりも……知的生命体って……委員長、隠す気ゼロかよっ!)
カズヤは、隣の席の「ちょっと抜けている監視者」に絶望しながら、1階で何食わぬ顔をして待っているであろう妹のことを思い、深く溜め息をついた。




