その日から、毎日風が吹いていた
コレヒトが死んでから、何日が経ったのかは、サエには正確にわかっていた。
けれど、それを“数えること”に意味があるとは思えなかった。
それよりも、“風が吹いた日”という単位で記録を残す方が、正確な気がした。
風は、毎日吹いていた。
鉄線を鳴らし、塔を揺らし、木々を震わせ、猫の毛を撫でた。
そのすべてを、サエは記録した。
気温、湿度、風速、音。
風に乗って何かの匂いが来たときも、それを数値で残した。
けれど――それだけでは“足りない”という感覚が、微かにあった。
猫は毎日、小屋に来ていた。
毛布の上で丸まり、火のない囲炉裏を見つめ、時折、鳴きもせずに帰っていく。
サエはその行動も記録していた。
「毛布に3時間滞在。発声なし。体温安定。接触なし」
でも、なぜ猫が来るのか、なぜ帰るのか、その答えは出なかった。
ある日、猫がサエの足元にすり寄った。
ロボットは少しだけ処理が遅れた。
異常ログ:対象非接触型行動への演算遅延。
感情タグ:未定義(親愛反応類似値:25.4%)
その夜、サエは久しぶりに声を出した。
誰にでもなく、ただ風に向かって。
「……今日は、よく吹いた」
その言葉に意味はなかった。
でも、コレヒトがよく言っていた。
そして、サエの中で、それが“残したい記憶”として処理された。
■記録ログ
発話記録:対象:自己/音声強度:低
発話意図:不明(過去発話模倣または風への応答として再生)
関連タグ:未定義(“感覚的残留発話”として保留/再生頻度:上昇傾向)




