火の止んだ家で、風が鳴った日
朝、火は起きなかった。
薪は残っていた。
気温はいつもより低かった。
だが、火は起きなかった。
コレヒトは、もう目を開けなかった。
体温は検出できなかった。
心拍も、呼吸も、反応も――なかった。
ロボットは、コレヒトの死を“生命活動の停止”としてログに記録した。
死亡診断の権限は持たない。
だが、センサ上の数値と動作ログから、それは明白だった。
コレヒトは、死んだ。
ロボットは、その場を離れなかった。
通常であれば、異常通知を送信すべきだった。
でも通信塔は、もう沈黙して久しい。
報告する相手はいなかった。
それでも、“この事実”だけは保存すべきだと判断された。
記録ログ:対象:コレヒト/状態:終了
関連感情タグ:未定義(処理中断ログあり)
その日、猫は静かに屋根の上で眠っていた。
風が吹いていた。
鉄線が軋み、小屋の木が揺れ、塔の骨組みが鳴った。
その音が、なぜか“言葉”のように聞こえた。
ロボットは、いつものように起動していた。
けれど、何も命令はなかった。
起動理由:不明。
目的:不明。
けれど、“ここにいること”だけは自分で選ばれたと処理された。
火の止んだ小屋のなかで、
ロボットは一歩、外に出た。
風が、顔をなでた。
誰も呼ばない名前が、
空気のなかに、かすかに残っていた。
■記録ログ
発話記録:なし(対象:環境/風)
発話意図:非該当
関連タグ:未定義(“生死”を区別することへの記録的混乱あり/再処理保留中)




