第3話 魔術は素晴らしい!
「…………」
男は先ほどまでの余裕を完全に失っていた。
額には脂汗を浮かべている。
さっきまで見下していたガキが、自分の魔術を片手間のように防ぎ続けているのだ。無理もない。
「お、おい……お前、本当に何者だ?」
「ん? お前が言ったさっき言った通りただの無能種だけど?」
「んなことを聞いてんじゃねぇ!!真面目に答えろ!!」
真面目に答えろと言われても俺自身も自分が何者か分からないから答えようがない。
というか、ようやくまともに会話できた気がする。
「お、おい……ボス。あいつやばくないですか……?」
いつの間にか気絶していたはずの手下の一人が目を覚まし、青ざめた顔でこちらを見ていた。
「うるせぇ! んなわけあるか! あんなのただのハッタリだ!」
ボスの男は叫ぶが、その声には先程までの余裕がない。
まあ、無理もない。
魔術が使えないはずの俺が、魔術を正面から防いでいるのだから。
「いやだから結界だって」
「だから結界を個人で使えるわけねぇっつってんだろうが!」
「えぇ……?」
そんなに難しいのか、結界。
俺的には“魔力の塊を圧縮して前に置く”くらいの感覚なんだけど。
すると、それまで怯えていた少女が、おそるおそる口を開いた。
「あ、あの……本当に魔術が使えないの……?」
「使えないよ?」
「で、でもさっきの……」
「あれ魔術じゃないし」
「…………はい?」
少女が固まる。
後ろの盗賊たちも同じように呆けた顔をしていた。
まあ、そうなるよな。
術式も使ってないし、詠唱もしてない。ただの魔力の放出と魔力操作によるものにすぎないんだけど。
「というか、ようやくまともに喋ってくれた気がする。」
「え?」
「いやだって君、さっきからずっとオロオロしてただけだったし。」
少女は少し恥ずかしそうに目を逸らす。
あれ、なんか悪いこと言った?
「まあいいや。君の魔術も後でちゃんと見せてほしいな。君が使う魔術は風系統なんだよね。速いし綺麗でいいよね。」
「は、はい……?」
また、困惑してる。反応が面白いからなんかからかいたくなってしまう。
まあ突然現れた知らない奴が魔語り始めたらそうなるか。
すると、
「ハッ……ハハハ。」
盗賊のボスが急に笑い始めた。
「なるほどなぁ。分かったぜ。」
ん?
「確かに防御は大したもんだ。だが結局お前は壁を出してるだけじゃねぇか。」
男はニヤリと笑う。
「しかも結界なんざ魔力消費が馬鹿みてぇに激しい。そんなもん何枚も維持できるわけねぇんだよ。」
あー、なるほど。
馬鹿そうに見えてそういう発想できるのか。
「このまま魔力切れまで追い込んで殺しゃいいってわけだ。簡単な話だろ?」
そう言って男は下卑た笑みを浮かべながら、腰の剣を抜いてこちらへ歩いてくる。
どうやら今度は直接やる気らしい。
でも――
「別に、攻撃できないわけじゃないよ?」
「あぁ?」
男が眉をひそめる。
俺は軽く手を上げた。
すると、男の目の前に半透明の壁がもう一枚出現する。
「なっ――」
突然現れた結界に全員が驚いた、その瞬間。
グンッ!!!!
「がっ!?」
結界が凄まじい速度で横へ動き、男の身体を吹き飛ばした。
まるで巨大な見えない槌で殴られたみたいに、男の体が宙を舞う。
数メートル先の木へ叩きつけられ、枝葉を激しく揺らした。
「がはっ……!?」
結界でふっとばされた男は白目を剥いて気絶してしまった。
どうせなら、もっと魔術の腕を磨いてきてほしい。詠唱有りの下級だけではとてもじゃないが満足できない。
ついでに手下もぶっ飛ばしておいた。後々面倒になりそうだから早めに処理をねってやつだ。
とまあ、とりあえず、邪魔者は去った。これで思う存分少女が扱う魔術を見ることができる。
「あ、あの...」
「ん?どうした?」
「た、助けてくれてありがとう、ございます。」
助けたつもりはなかったのだが、結界的にそうなってしまった。少し疲弊していた様子から追われていたのだろうか。
「どういたしまして。それでお願いなんだけど君の魔術見せてくれ!」
「ま、魔術...?そんなので良かったらいくらでも見せますけど...」
まじか。この子めちゃくちゃ気前がいいじゃないか。さっきの男じゃなくて最初からこの子に聞いてればよかった。
「ほんと!?じゃあ遠慮なく風系統魔術見せて!」
少女は手を前方にかざし詠唱を始めた。
「じゃあ、いくよ。
[風よ、我が目の前を撃ち抜け!
【風系統下級魔術:風弾】]」
「おおぉぉぉ!!!」
やはり魔術は良いな。さっきは下級程度じゃ満足できないと思ったけど訂正しよう。下級でも十分俺の心をくすぐってくれる。
土系統と比べて詠唱が簡素であるが故に、詠唱有りでも十分の速度だ。そして、さっきの男と違い魔力も良く込められてるし、普通の風弾より少し威力が高い気がする。
おそらくさっきの男と同じ属性系統の魔術を使ったら打ち勝つのはこの子であろう。
「ど、どうですか?貴方の期待に応えられました?」おずおずと少女が聞いてくる。がそんなおずおずしないで堂々として欲しい。こんな立派な魔術が使えるんだ。
「うん!とっても素晴らしいよ。さっきのやつとは魔力の込め方から違うし、効率も素晴らしいね。何よりロスが少ない。それに、少し特別な術式に変えてるのかな?威力が普通のものと比べて違ったように見えたけど。とっても気になる。たくさん練習してきたんだろうね。かなり練度が高いよ。さっきの男が言ってた会話から察するに、同世代の中ではトップクラスの実力なんじゃないかなと思うんだけど違うかな?なんにせよさっき言った通りの術式を解明するなら射出される瞬間を………ブツブツ」
気になる一度気になったことが出てきた瞬間また別の気になる所が出てきていくらでも飽きないぞ。フフフ…
「...の」
あの術式の感じ射出を少しいじってるのか?押し出す射出と言うより、圧縮に近い感じがする。そんな組み合わせもあるのか!?なるほど奥が深いじゃないか。
「あ、あの……?大丈夫?」
それに回転数と回転速度をいじってるな。右側だけ回転速度を落として左側の回転速度を上げてる。あれには何か意味が…?
「あ!そういうことか。だからこその命中不安定を解消するための…なるほど。」
「あの!!!」
「え!?何?何?」
「あ、その、なんかうつむいてずっとぶつぶつ言ってたから...」びっくりした。急に大きい声を出すものだから、とても驚いてしまった。
「君、素晴らしいよ。ここまで良いのを見たのは目覚めて初めてだよ」と言ってもまだ2人目だが。
「そうですか?それなら良かったけど...」
「それで、もしかしたら無詠唱も見せてもらえないかな...なんて。」
「無詠唱......」
いい魔術を使うこの子でもやはり出来ないのか?
「出来ますよ。」
「ま、まじか!?ほんとに?やったーー!!」
まさか使えるとは驚きだ。ん?と言うことはまさか上級魔術も見れる感じか。素晴らしすぎるぞ
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