樹.Last Hope Island 第2章第6節【太陽への渇望】
8年前 ポセイドン神殿の庭園
「カイコ、これを見てごらん。何だと思う?」前人魚族長のアルは、興奮した様子で言った。
「これ、小さな苗木? 人間の絵本で見たことがあるよ!」人魚のカイコ(3歳)は不思議そうに言った。
「大正解、賢いね! これはガジュマルの苗木さ。いつか必ず、この薄暗い海底にこんな大木を育ててみせる。そして、太陽の光が海底まで届く方法を絶対に見つけ出すんだ。俺たち一族は、永遠に海の片隅でひっそりと生き続けるわけにはいかないからな!」前人魚族長のアルは、自信に満ちた表情で語った。
「うん、お父さん! 僕も光に満ちた海が見たいな。もうこんな薄暗い海底に住むのは嫌だよ!」カイコは目を輝かせ、期待に胸を膨らませた。こうして、前人魚族長のアルは海底に光をもたらす方法を探すため、一人で人間の世界へと旅立った……。
1ヶ月後 北大西洋の海底 嵐の夜
「おや? どうして急にこんなにたくさんの木材や荷物が落ちてくるんだ? 海水が激しくうねっている。どうやら上が大嵐で、船が沈没したみたいだな」前人魚族長のアルは、北大西洋の猛烈な嵐を避けるため岩の隙間に身を潜めながら、降ってくる残骸の理由を考えていた。その時、一人の人間の男が、ガラクタと一緒に水底へと落ちてきて、苦しそうに激しくもがいているのが見えた。突然現れた人間に、アルは激しく動揺した。人間と接触したことなど一度もなく、恐怖心が込み上げる。しかし同時に、人間は水中では少しの間しか生きられないことも知っていた。今助けなければ、この男はすぐに死んでしまう。恐怖と慈悲の間で葛藤した末、アルは見捨てる強さを持てず、その男を救い上げた。こうして、運命の歯車は静かに回り始めた……。
1日後の昼 アソーレス諸島
アルは海中から救い出した人間の男を、近くの島へと運び上げた。
「ケホッ……ゲホッ……ハァ……ハァ……」人間の男は目をパチクリと開け、目の前にいる人魚のアルを見た瞬間、言葉を失った。この世に本当に人魚が存在するとは、到底信じられなかったのだ。しかし、激しい嵐に一晩中弄ばれたせいで体は極限まで衰弱しており、驚く気力さえ残っていなかった。男は、乾ききって火がつきそうな自分の口を指さし、水を飲みたいという仕草をしてみせた。言葉は通じなかったが、アルはすぐに男の意図を察した。そして近くでヤシの実を見つけ、魚を数匹捕まえてきて男に与えた。
半ヶ月に及ぶ看病の間、その人間の男はアルに対して常に深い感謝を示し、何度もひざまずいて拝むような仕草を繰り返した。太陽、月、星の位置と方角を頼りに、二人は協力して小さな木造船を作り、食料を蓄えた。準備が整うと、男は西の方角を指さし、次に二人を指さして「一緒に行ってほしい」と懇求した。男の誠実そうな態度を見たアルは彼を信じることにし、小さな船を海中で引きながら、7日間の航海を経て、ある夜ついにアソーレス諸島へと到着した。
島に到着すると、二人は手を取り合って喜びを分かち合った。男はすぐにアルの手を引き、食べる仕草と飲む仕草をしてみせた。アルは、男が自分にご馳走をして恩返しをしたがっているのだと理解した。同時に、人間の世界への好奇心もあったため、男の後について島へと上がった。男は道中で大きめの外套を見つけてきて、アルの体をすっぽりと覆い隠し、そのまま一軒の賑やかな酒場へと足を踏み入れた。
二人は酒場の隅の席に腰を下ろした。騒々しい店内の様子にアルが興味津々で見渡していると、男はカウンターへ向かい、バーテンダーと何やら一言二言交わした。やがて男は、なみなみと注がれたラム酒と、湯気の立つ牛肉をたくさん抱えて戻ってきた。男から熱心に勧められるがまま、お酒を飲んだことのなかったアルは、あっという間に酔いが回り、意識を失うように眠り込んでしまった。
翌朝、アルが激しい頭痛とともに目を覚ますと、自分の体が何本もの太い鉄の鎖で、冷たい柱にきつく縛り付けられていることに気がついた……。




