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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第二章 剣呑なるダンジョン
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第二章15『星空のもとで思考する』

 想像していたダンジョンというのは、頭を悩ませる謎解きや、心臓を冷やすような強いモンスターとの戦いがあったりと、とにかく壮大なものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。


 実際に死を覚悟するようなモンスターには出会えたし、理屈のわからない転送装置もあったし、そればかりか五人をを閉じ込めた木の壁や、異次元のスピードで二人を救ったメフィレストの存在。

 沢山の『異常』を体験できたのだが、それらはヒロトの心を今ひとつ踊らせきれなかった。


 何が違うのか、何を求めているのか。 違和感の理由は分からないが、とにかく思っていたのと違うというのが彼の心境だ。

 彼の想像していたダンジョンというのは壮大で、或いは雄大なものだという漠然としたものだったので、そんな違和感も仕方ないかもしれない。





───────────────────────





 何の成果も得られないまま寂れた教会へと帰ってくるや否や、五人による完全なお疲れムードが教会を埋め尽くした。

 あんなに金を稼ぐと息巻いていたのにこの有様で、終いには死にかけていたところを他人に助けられたとあれば、いくら初心者と言えどもハンター失格なのではないだろうか。


「無駄骨、無駄骨、マジで無駄骨」


「ベルカ、もう普通にモンスターを殺すだけでいいや……」


 あの場所へ向かって得られたものは何一つなかったのに、とにかく元気や自信ばかりが奪われていくのはやはり、彼らの弱さも原因なんだろう。


「そういえばさ、ギルドでご飯食べてる時に聞こえたんだけど」


「何がですか?」


「僕達が見つけたダンジョンをギルドが調査するんだってさ」


「はぁ? だったら俺達は本当に無駄骨だったわけじゃねぇか」


 一行が発見したあの大樹がどうやらダンジョンであるという情報がどこからか流れ出し、その真偽を確認するためにギルドがそこへ向かうというのだ。

 

「でも、ベルカ達はそのこと話してないよ? あのナヨナヨイケメンが報告したの?」


「いや……なんか噂だけっぽいんだけどさ、それが本当かどうか確かめるためだけにギルドが動くって」


「よっぽど重要視されてんだな、ダンジョンってのは」


 例えば、日本で未知の古墳が見つかったという噂だけが流れても宮内庁が動かないように、普通は噂程度の情報に対してギルドが動くはずはないのだが、話が"ダンジョン"ともなれば何科が変わってくるようだ。


「そんなに重要なの?」


「ああ、ヴェルメア教にも関わってくるしな」


「…………なにそれ?」


 "ヴェルメア教"というのだから、恐らく宗教的なものではないかとヒロトは想像した。

 確かに、中世や近世なんかでは宗教関連のものや出来事は特に重要視されるし、とてもデリケートなものとして扱われることがほとんどである。

 だがこの世界にも宗教が存在していたという事実に、ヒロトは少し驚いた。


「知らねぇのかよ、お前ってもしかして世間知らずか?」


「うん、まあね」


「ハッ、なんだよそれ……ヴェルメア教ってのは世界で一番信者の多い宗教だ。 この帝国の国教でもあるぜ」


 異世界人なのだから、当然ヒロトはこの世界の知識に疎い。

 今いる国が帝国であるということも少し前に一度だけ聞いたくらいで、今では忘れかかっていたほどなのだから。


「主神のヴェルメア様ってー、確か自分のことを救世主とか言ってた人ッスよね?」


「えっ、なにそれ。 神様って結構イタいんだね」


 ヒロトの肩からひょっこりと顔を表したアリシアが、主神のことについてそう語った。

 

「古代に生きていた神よりも偉い神、それがヴェルメア」


「古代に生きていた神よりも偉い神?」


 ベルカが急にわけのわからないことを話だし、ヒロトは思わずそれをオウム返ししてしまった。

 無理もないだろう、"古代"の"神"よりも"偉い神"、その全ての知識がないのだから。


「それも知らねぇのかよ。 俺達が生まれるもっともっと昔にはな、人や動物を自由に生み出せる生き物がいたらしいんだ。 ほとんどの人間はそいつらを"神"って呼んでる」


「そうッスそうッス! それで、その神自体を創ったのがヴェルメア様らしいんスよ!」


「話が壮大すぎてわかんない……もういいや」


 理解することを放棄し、ヒロトはまたダンジョンのことについて考える。

 ダンジョンの噂が流れ、ギルドがそこへと向かうのだったら、恐らく二人を襲った怪物とも遭遇するだろうし、その存在を予めギルドに伝えるべきなのかどうか。


「──あれ、そういえばマレッカ」


「?」


「どうやってあそこにダンジョンがあるってわかったの?」


 五人があのダンジョンを初めて出現させて、それを後から見た人達が噂しているというのならば、何故マレッカはあの地にダンジョンがあると前から豪語していたのだろうか、なんて疑問が湧き出てきた。


「ああっと……それはさ」


「怪しいよ銀髪のオカマ」


「オカマじゃねーし、黙ってろ!」


「どこでダンジョンを知ったか早く言いなさいよ!」


 マレッカはコホン、と咳払いをして場の空気を整え、目を逸らしながらそのわけについて話し始めた。


「えっとな……俺は、そのさ」


「うん」


「占い師に教えて貰って、あの……」


 顔は熱を帯び、口角は釣り上がり、目元がヒクヒクとしているマレッカは見るに堪えなかった。

 ヒロトからすればそれなりな可愛く見えたのだが、そのマレッカの様子は共感性羞恥の発動にも一役買っている。


「え、占い?」


「そっ、そうだよ! 文句あっか!」


 "占い"というバカバカしい単語を理由に挙げたマレッカに対し、それを見る四人は呆気に取られた表情を浮かべた。

 五人がダンジョンに赴く原因となったのは貧乏なのもそうだが、マレッカがダンジョン探索を持ちかけたことも大きな要因となっているはずだ。

 その原因を持ち出した理由がまさか占いだとは思いもよらず、四人はこの後に続く言葉がなかなか思い浮かばないのだ。


「アホらし……でも当たるもんなんだね」


「うっ、占いは当たって当然だからな! 人生を歩んでいく中でなにかに迷ったら占い師に占ってもらう、これが世渡り上手ってことだ!」


「アホらし」


「はぁ!?」


 占いを信じてしまうほどに女性らしいものの考え方をしているマレッカに、ヒロトは少し驚いていた。

 顔は完全に女性だし、声や背丈、髪質といったもの全てが女性らしいのは承知なのだが、それでも彼は男であって、実際に男らしい性格だとヒロトは思い込んでいたが故に、初めて見るその女性っぽさに妙なギャップを感じているのだ。


「あんまり、アテにしない方が、いいと思う……よ?」


「うっせえな、全然喋んねぇクセしてよ」


「──ひゅうっ!」


 どストレートなマレッカの物言いに、ルーンの胸全体が強ばった。

 今にも泣き出しそうな顔を安物の毛布で隠し、他の三人はただそれを笑いながら見つめるだけだ。




 睡眠の時刻になり、カンテラの明かりが消え失せた薄暗い廃教会の中でヒロトはただ一人、考え事をしていた。


(あの怪物がいること、やっぱり知らせた方がいいよね……いや、でも行ったら行ったでどうせ見るだろうし別にいいかなぁ)


 ほんの少しの怠惰が、彼の親切心を蝕んでいた。

 ギルドにその事実を教えることがいくらか面倒で、それでいて恥ずかしい。 彼の気持ちはこんなものだ。


(ダンジョンって宗教的なことに対する結びつきが結構強いんだよね……? だったら、無闇に事実を吹き回ってもかえって危険かもしれない……)


 宗教が盛んな時代では、それがどれだけの影響力を持っているのかを彼はよく理解している。


 もし、自分が見た怪物がヴェルメア教にとって存在してはならない存在だったのだとしたら──キリがない考えだが、可能性としては考えうることだ。

 そして、こんな近世ファンタジー世界なら、その程度の理由で逮捕されるリスクも存在する。


 彼の意外なところとしては、地球の歴史をそれなりに好んでいるという点だ。 特に好きなのが近代史であり、あまり宗教とは絡んでこない部分なのだが、それでも魔女狩りなんかの出来事は知識としてしっかりと身につけている。


 彼が自身のことを過大評価していたり、または自惚れたりしているわけではないが、もし狩りにおいての主力であるヒロトがなにかしらのアクションを起こしてそれが宗教的な理由で捕まり、狩人としての活動ができぬようになったら──無論、残されたメンバーの四人はこの先で食べていくことが難しくなることだろう。

 ヒロトはそれをよく理解しており、人当たりの良い善意でそんかリスクを犯すことが、どうしてもできずにいたのだ。

 無論、面倒だという人間的な理由も少なからずあるのだが。


(──また明日考えよう)


 星が降る夜空をヒロトはボロボロの窓から眺め、そしてゆっくりとまぶたを閉じた。




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