第二章8『別行動』
「ねぇ、分かれ道だよ」
「この距離まで進むと二手に分かれた道がある……っと」
ダンジョン内にて発見した情報をメモするのはルーンの役目だ。
五人の目的はダンジョン制覇などではなく、とにかく誰も知らない情報を見つけて誰かに売りつけることなのだ。
「新情報なのはいいが、俺達はどっちに進めばいいんだ?」
「んー…………なんか右側からは水が流れる音が聞こえるッスよ」
「じゃ、そっちね」
「そんな簡単に決めていいんですか……」
ベルカは選ぶことが嫌いなのか、めんどくさそうな顔で進む道を適当に決めた。
ゲーム大好き少年であるヒロトからすると、どうせなら左側を攻略してから右へ進みたいという気持ちがあったが、そこは黙って前へと進むベルカに付いていく。
「水が流れるってことは……川かな? 滝壺から流れてるんだろうね」
「変なモンスターでもいなけりゃいいんだがな」
さっきのような土の中に潜むモンスターもいたのだから、水辺にモンスターがいる可能性も高いだろうと二人は考える。
「どんどん暗くなってくよ、誰かカンテラ」
「自分、持ってるッスよ。」
そう言うとアリシアはリュックにぶら下げていたカンテラを取り外し、その場に止まって特殊な油を容器に流し、綿糸に火を灯した。
アリシアが手に持つ優しげな明かりが、五人と洞窟の一部を照らす。
「うんうん、明るくていいッスね! 光あれ!」
湿り気のある薄暗いダンジョンから、明るくて穏やかな雰囲気の洞窟へと変わったことによってアリシアのテンションはアゲアゲだ。
洞窟を進むにつれて道の幅は広がりつつあり、暗くて見えない範囲が生まれたりもするが、それでも明かりがあるのと無いのとではやはり違う。
「ちゃんと壁ありますか? 暗すぎて見えません……変なところに行ってなきゃいいけど……」
「足元とそのちょっと前が明るければそれで大丈夫だよ」
暗闇が生み出す『見えない』という不安に恐怖を感じるルーンに対し、ベルカは優しさを含んだ言葉を投げかけた。
念のためにヒロトが暗闇の近くまで寄り、手でゴツゴツした壁の感触を確かめ、安全を確保する。
「一本道だよ、大丈夫。 ちゃんと戻れば帰れるよ」
そうですか、とルーンは安心したそぶりを見せ、曲げていた背中を真っ直ぐに伸ばした。
カンテラの明かりには頼るものの、四メートルほど先の距離は依然として暗いままだ。
もし、さっきのようにモンスターが地面から姿を現そうとも、きっと今回は素早い対応ができないだろう。
一行はそんな不安を胸に抱きつつ、それでも歩みを止めずに洞窟を探索し続けていた。
「おい、崖だぞ。 下には……川が流れてるのか?」
すると、カンテラ以外の青白い光に照らされた空間でマレッカがそう呟いた。
「ふあ……綺麗だね」
崖の遙か遠くに、無数のクリスタルのような宝石が壁に埋まって青白い光を放っていたのだ。
天然の照明にベルカの瞳は女の子らしい輝きを見せ、うっとりとした表情で崖の向こう側を見つめている。
「じゃあ、行き止まりってこと?」
「その足場を渡ればいいだろ、怖いから無理とは言うなよ」
マレッカがそう言って指さしたのは、岩壁と影の間に見える小さな足場だった。
角度を変えて眺めてみると、その足場はどうやら向こう側の崖へと繋がっているようなのだ。
「でも、これじゃ自分とルーンの荷物が渡らないッスよ?」
「それは……そうだな」
やはり引き返す以外ないのかと、クリスタルに夢中なベルカを省いた四人がそう考えていると、ヒロトがとあるものに視線を向けてこう言った。
「あっちの方の壁さ、頑張れば登れそうじゃない?」
狭い足場がある壁の反対側に、トレジャーハンターだったら登れそうな高さの壁があった。
しかし彼らは宝探しに来たわけじゃなく、ロープ的な物を用意しては来なかったのだ。
「無理そうならさ、僕とマレッカで上から引っ張るよ」
「おい、俺達はどうやってあそこに登るんだよ。 登れそうな壁って言ってるが、ありゃ普通に無理だぞ」
「じゃあ裏から回ろうよ、僕と二人であの足場を渡ってさ」
いつになく攻め気味なヒロトにマレッカは若干困惑したが、悪い気分ではなさそうだ。
この提案が聡明なものか、それともただの蛮勇かは結局のところ行動してみないことにはわからないだろう。
「向こう側の崖からその壁の上に繋がってるとは思えんが……いいだろう」
「じゃあ、僕達は行ってくるよ。 ベルカには上手く説明しといてね」
「了解ッス! 男同士の冒険を楽しんできて下さい!」
「断崖……壁……メモメモっと」
その場に残る二人にしばしの別れを告げ、マレッカを先頭に狭い足場を渡り始めた。
壁に背を預け、両腕を広げてバランスを取りながらゆっくりとカニ歩きで進んでいく。
下に落ちれば流れの激しい川の餌食となり、最悪の場合モンスターに襲われてしまうかもしれない。 この場では、そんな恐怖と緊張が毎秒付きまとうのだ。
「自分で提案しといてアレだけどさ、ヤバいねこれ」
「話すな、話すと落ちる。 多分な」
「ずっと胸がドキドキしてるんだけど……」
緊張をほぐすために深呼吸をしたいが、胸を膨らませるとその勢いでバランスを崩してしまいそうな感じがして、ヒロトの胸はいつまでもドキドキしたままだ。
移動する度に足がプルプルと震えていたが、なんとか二人は向かい側の崖に降り立つことに成功した。
「ふぅ、渡りきったね」
額から頬へと伝う汗を袖で拭い、恐怖から解放された喜びと、狭い足場を渡りきった達成感に気持ちが昂る。
「本番はこれからだぞ、俺達二人だけの力で向こう側に回らなきゃならないんだからな」
「うん! 二人の力を合わせて、頑張ろう!」
体全体に力を込め、二人はそんな意気込みで探索を開始した。




