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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第二章 剣呑なるダンジョン
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第二章5『謎の声が聴こえたら』

「つ、疲れる……」


「ヒロトさーん……いつもこんなに歩いてるんスか? すごいッスねぇ……」


 ヒロト達は現在、平原を超えた先にあるお馴染みの紅森にやって来ていた。 それも、今回はアリシアとルーンを引き連れて。 


 理由は簡単だ。

 それは、今日がダンジョンに潜る日だからである。


「でも、二人ともここまで休まずに付いてこれてるなんてすごいよ!」


 酒場でダンジョン探索が決まった翌日から、アリシアとルーンの二人は今日までの一ヶ月間、ずっと体力を作り続けてきた。

 わかりやすいことで言えば、ルーンが廃教会からギルドまでの長い距離をペースを落とさず走り続けられるようになったことだろうか。

 そのおかげで、二人はヒロト達と同じように草原を超え、紅森まで付いてくることができているのだ。


「ま、一ヶ月もあったんだしそれくらい体力つけてもらわなきゃ困るからね」


「今から行くダンジョンはもっともっと先なんだ、これくらいでへばっていてはどうしようもないぜ」

 

 褒めるヒロトとは対照的に、ベルカとマレッカはやたらと他人に厳しい。 無論、それが二人の性格なので仕方ないのだが。

 

「というか、このでっかい荷物なんとかならないんスかぁ? すっごく疲れるんスけど!」


「アンタね……ベルカ達が行くのはダンジョンとかいうわけのわからない危険地帯なんだよ!? アンタのバッグに入ってるのは全部飲み物と即効性のある薬! すっごく重要なんだから!」


 そう、これから赴く場所は未知なるダンジョンなのだ。 そこで何をするのか、それすらも未知に覆われている場所だ。

 だから安全に安全を重ね、その上で万全を期すために大量の水、食料、薬を抱え込んでいるのだ。


「それを買うためにめんどくせぇ依頼を毎日二回はこなしたんだからな……しっかりと持ちやがれ」


 頬を伝うドロドロとした汗が森の隙間から零れる日差しに照らされる中、五人の行進は続く。


「なんかさ、今日はすっごく暑いよね……メルタリアから離れるほど暑さが増してる気がするよ」


 メルタリアは春を過ぎようとしている時期でもあり、これから暑くなっていくことに間違いはないのだが、この日に限っては季節外れにも程があるくらい暑いのだ。

 

「森を超えさえすればダンジョンはすぐなんだよね……?」

 

「ああ、そこから見える大滝の裏に大樹が隠れている。 それがダンジョンだ」


(大樹……? 大滝の裏には何も無かったはずだけど……)


 紅森の大滝といえば、ヒロトとベルカも何回か見たことのある場所だ。 実際にあの近くで色々なことを体験してきたわけだが、周りの木々よりも大きな樹木の存在など、二人は見たことがなかった。


「アンタ、それ嘘の情報じゃないでしょうね?」


「そんなはずはない。 ちゃんと存在を確認した奴だっているんだ」


 マレッカの情報力が再度疑われる中、五人の目指すべき場所が着実に近づいてきた。


「この辺だと……そろそろ滝が見えてくるね」


 ヒロトとベルカが始めて紅森に来た時、ディノスの群れに襲われた場所だ。

 ベルカがヒロトを抱きしめ、崖を転げ落ちた場面を二人はぼんやりと思い出した。


 流れる川に沿うように並ぶ草木がひた隠しにしていた景色がもうじき姿を現す。

 ディノスが現れなかったことを神に感謝しつつ、ヒロト達は例の大滝の姿を確認した。


「うわぁ……すごく綺麗、というか……なんだか壮大な……」


「この向こう側に大樹なんてあるんスかぁ? 全然そんな雰囲気無いッスけど」

 

 雲一つない快晴の空の下には、紅の森や黄金の山々に大量の水を打ち付ける大滝以外存在しない。

 裏側ということなのだから、その大滝の裏に大樹の全てが隠れているという可能性も無いわけではないが、やはりマレッカを元にした情報にはメンバー全員が疑いを持ってしまう。


「そっ、そのはずなんだが……もしかしたら何か間違った情報でも掴まされたか……?」


「大樹って言ってもさ、もしかしたら他の木よりあんまり大きさが変わらないかもしれないよ! この辺の樹木がそもそも大きいし」


 ヒロトがそれとなくフォローして、とりあえず滝の裏までは行ってみようということでその場は収まった。

 仮にそこまで行って目的の大樹が見つからなかったとしたらマレッカはベルカ辺りに責められることが確定するだろうが、それは滝の裏に行って大樹の存在を確認してからでいいだろう。

 

「滝の裏ってことは二層だよね? あのリフトに乗るの怖いからあんまり好きじゃないんだけど」


「ベルカちゃん……高い所が怖いんだ?」


「えっ、そうだったの?」


 再び移動を始めた五人が最初に赴くべき場所は、滝の裏へと繋がる二層へと行くために乗る必要があるリフトの置かれた場所だった。

 しかし、ここに来てベルカが高所恐怖症であるという事実に五人は驚かされた。


「うん、ヒロトに手を握ってもらわないとちょっと無理」


「なんだそれは……嘘じゃないのか?」


「うっさい、嘘じゃないっての」


 そんなキャラでもないのに、ベルカはヒロトに対して積極性を見せ始めた。 彼女に恋愛感情があるのかは誰にもわからないが、心の中ではアリシア達よりもヒロトの方を特別扱いしているだろう。


「へー、手を握ってもらわないとダメなんスか。 それもヒロトさんに?」


「な、なに? それがどうしたの……?」


「うーわー、照れてる。 キャラに合わないッスねー」


 なんとなく照れているせいなのか、今日のベルカはいつもよりも妙におとなしい。

 いつも怒っているような彼女だが、やはり照れる時は照れて、女の子の一面を見せたりもするのだろう。

 よくよく考えてみれば、虐待を受けて育った彼女はあまり人を信用しなくなったのだ。 それが他人に対して攻撃的な性格になった原因だと考えるのならば、もしかするとまともに育っていれば彼女もしおらしい女の子になっていたのかもしれない。


「ほんとにうっさいなぁ……もうリフト見えてきてるからさっさと行くよ」


 赤面した顔を桃色の髪で隠し、早足で前へと進んでいった。

 残りの四人も歩くペースを上げ、リフトの元へと急いだのだった。










───────────────────────












 透き通った大量の水が高所から強く打ち付けられ、辺りに会話もままならないような轟音が鳴り響く。

 こうしたスケールが大きい自然を地球人のヒロトが眺めると、元の世界と異世界とのギャップを感じることは避けられない。

 それによって恐怖を与えられるというわけではないが、安心感というものはちょっぴり心から奪われただろう。


「大滝の裏ってこの場所でいいんだよね? 地図にもそう描かれてるし……」


「はい嘘確定。 ヒロト、撤収」


「まっ、待ちやがれ……! ダンジョンはどこかに隠されているはずだ!」


 それらしい大樹など何処にもなく、見事に嘘情報を掴まされたマレッカに呆れたベルカは元来た道へ戻ろうとし始めた。

 マレッカは焦り、辺りの樹木を一本ずつベタベタと触って調べるが、虚しいことにどれもこれも何の変哲もないただの木だ。


「あれ……なんだ?」


 幸運と言うべきか、とある木に触れたマレッカは手のひらに妙な違和感を覚えた。 自身の名誉を回復させたいのなら、今ある手の違和感に希望を託す以外ないだろう。

 無駄な抵抗とでも言いたそうな目で見つめるベルカを尻目に、マレッカはその木をコツコツと叩いてみる。


「空洞っぽいな……」


 腰にかけた鞘から剣を取り出し、刃を木の幹に強く刺し込んだ。 ボロボロと幹の破片が崩れ落ち、切り口から隙間ができ始める。

 マレッカはその隙間に黒いグローブで覆われた指を突っ込み、力を込めてバリバリと剥がしてしまった。


「はぁ……? なんなんだよこれ」


 木の幹を剥がしてみると、確かにそこには大きな空間が存在していた。

 しかし、何も無かったわけじゃない。 中にはボロボロに錆び付いた篝火台が一つ、無様に置かれていたのだ。


「どうしたんスか……って、きたなっ!」


「それ篝火台かな? どうして木の中に入ってたんだろう?」


 この篝火台はどう見ても怪しいと、その場にいる全員がそう思った。

 何故わざわざ隠すように置かれていたのか皆目見当も付かないが、マレッカ自身はそこまで気にもしていない様子だった。 何故ならば、彼の心の中ではこれがダンジョンへの扉が開くカギとなっていたからだ。


「この篝火台、何かあるぜ」


「何かって……何が?」


「これはきっと俺達に課せられた試練だ。 謎を解けばダンジョンへの道が切り開かれる」


「アンタそれ本気で言ってんの?」

 

 異世界人のくせに重度のゲーマー病を患っているマレッカだが、彼の言うことにヒロトは心の奥底で同感だと呟いていた。

 というのも、ヒロト自身もそれなりのゲーマーであり、その篝火台を一目見た瞬間にマレッカと同じことを考えてしまったからだ。


 ここはヒロトにとっては完全なる『異世界』であり、更に今日はRPGに必要不可欠な『ダンジョン』に赴くというではないか。

 ここまでファンタジー系ゲームの世界観が用意されたとあっては、尚更のこと地球人はマレッカのような考えに着地せざるを得ないのだ。


「僕はそれ、いいと思うよ。 きっと間違ってなんかないよ」


 この世界の人間にとっては破天荒な考え方なのかもしれないが、そもそもこの世界にとってイレギュラーな存在である『転移者』が破天荒なのだ。

 こんな考えがバカにされるのは地球だけだ。 そう強く思い続けることによって、ヒロトはダンジョンへの道を切り開くための謎解きを開始することが出来る。


「ヘッ! 流石だな、話がわかるじゃねぇか!」


「ヒロト……本気なの? こんなの絶対何も無いよ!」


 ベルカの言葉を右から左へと聞き流し、ヒロトはその辺りに落ちていた太めの枝と都合よく置かれた倒木を組み合わせ、摩擦式の発火法で火を起こそうと試みた。


「あれ、結構原始的な方法で火を起こすんスね。 ワイルドでカッコイイと思うッスよ!」


「かなり腕力がいるけど……ここは男の見せどころってこと!」


「篝火台に火を灯すってことですよね……持ってきたマッチじゃダメなんですか?」


 マッチという単語を聞いた瞬間、ヒロトの顔は燃えるような勢いで赤く染まった。


「そ、そうか……そういえば僕が買ったんだよね……ソレ使おうソレ」


 呆れたようにジト目で見つめてくるベルカの視線はヒロトにとってはとても痛いものであり、ヒロトはとてつもなく小さな声で笑って誰にも届かぬ誤魔化しを入れた。

 

「ねぇ、この篝火台動かないよ」


「固定されているとでも?」


「そうっぽいけど」


 マレッカは参ったとでも言いたげな表情で篝火台の一点を凝視した。 いくら空洞があるとはいえ、そのままの状態で火をつけでもすれば山火事になるかもしれないという懸念が拭えないわけではない。


「山火事でも起こしたら私達どうなっちゃうんでしょう……」


「別にいいんじゃないッスか? というか、もう自分がつけちゃいましたし!」


「…………っ!?」


 誰も気付かないうちに事を済ませていたアリシアに対し、その場にいるアリシアを省いた全員が目を見開いて絶句した。


「消せ! 今すぐ消すんだ!!」


「わかりましたよーっと……イテテ!」


 マレッカがそう叫ぶと、アリシアは渋々その篝火台が設置された木に近付くが、何やら足のバランスを崩してその場に倒れてしまった。


「何をやってるんだ! 貴様相当ドジなようだな……!」


「違うんスよ! なんか足元がグラグラーって揺れた感じがして!」


 責め立てるマレッカに対してアリシアはバカっぽい反論で返す。

 揺れた感覚などマレッカやベルカは感じなかったのだが、アリシアの近くにいたヒロトからすれば、アリシアが嘘を言っているなど微塵も思わない。 何故ならば、地面は本当に揺れているからだ。

 

「揺れてる……確かに揺れてるよね? なんだかどんどん大きくなってくような……!」


 その言葉を皮切りに、その場にいる全員が大地の揺れを確かに感じた。


「ヤバイヤバイヤバイ!!」


 軽い石ころなどは最早宙に浮いてしまう程に揺れは激しさを増し、地面の底に眠っていた地盤が蠢く音が微かに聞こえる。


「クソ……また俺が間違えたとでも言いたいのか……畜生が」


 辺りの木々は傾き始め、遠くの方では既に倒木と成り果てた物まであった。

 地震大国の日本で生まれたヒロトも、このレベルの地震は未だかつて経験したことが無い。 それほどまでに『異常』とも言える規模で地面が揺れているのだ。


「あそこを見てください! やたらでかい土煙が発生してます!」


 ヒロト達が地面に膝をついている場所から数百メートルほど離れた所で、これまた『異常』なまでに大きな土煙が発生したのだ。


「あそこから……出てくる……?」


 もしかしたら、もしかすると、あの土煙が止む頃には目的の大樹が生えていた、なんてことになるのだろうか。 期待と恐怖に支配されたヒロトの瞳はその土煙の根本を見つめるばかりだ。


 ヒロトは自分でも疑問を抱くほどその土煙から目が離せなくなっていた。 心の中でなぜ目を逸らせないかを自身に問い続けるが、答えは一向に返ってきやしない。

 まるで何者かに視線が固定されてしまったかのような、そんな感覚すらも覚える。 眺めていて楽しいわけではない。 気味が悪くなり、寧ろその土煙からいい加減視線を逸らしたいくらいなのだ。


(何これ……目玉が全く動かないんだけど?)


 だが、どうしても目を動かすことが出来ない。 段々と心臓にストレスが溜まっていく感覚がヒロトを襲い、鼻息が荒々しさを見せ始めた。

 心が弱っているのだろうか、ヒロトはこのストレスを到底耐えられそうに思えないと感じた。


(ストレスが……動けないストレスは……!)


 身動きの取れない状況というのがどれだけ生物に重いストレスを与えるのか、なんて妙に科学じみた問いかけを頭の中でグルグルと巡らせるのは決してヒロトの余裕や痩せ我慢などではなく、今自分を苦しめているストレスや恐怖から逃れようとする一種の自己防衛だろう。


 自分の身に起きていることを余裕のない頭で整理し、どうでもいい論理を積み上げていく。

 一見賢いように見えるが、整理するだけ整理して、論理を積み上げるだけ積み上げて、そこで終わる。 何にも打開策に繋げることもなく、『今自分は冷静なんだ』と思い込ませるだけの愚かな『遊び』だ、『逃げ』なのだ。


 考えることを放棄した人間はどの生物にも劣る。



 ──知恵も。



 ──力も。



 ──五感も。



 ──本能も。

 



『避けて!!』


 


(誰……なんて言ってるの?)


 他の皆は既にこの場から離れていたのだろうか。 それも、ずっとずっと遠くの方に。

 そう勘違いできるくらい、彼の耳は鈍っていた。


(避けるって……なに?)


 自分は誰かに何かを命令されているのだろうか。 それも、ずっとずっと偉い誰かに。

 そう勘違いできるくらい、彼の知恵は失われた。


(力が出ない……脚が動かない)


 自分は誰かに身体を押さえ付けられているのだろうか。 それも、ずっとずっと力の強い誰かに。


(どうして口の中が変な感じなんだろう?)


(どうして……みんな茶色なの?)


(揺れは収まってきた?)


(汗のニオイが取れた)







──────────────



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──



『辛そうだね、君』



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