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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第二章 剣呑なるダンジョン
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第二章4『非戦闘員、冒険の準備』

「なんなの、こいつ」


 様々なハンターの声が支配する空間で、ヒロトたちのテーブルに響いたのはベルカのその一言だった。


 ベルカがキレ気味でこんなセリフを吐く状況など、一つしか考えられない。


「この子はマレッカ。 えっと、新しい仲間……」


「は?」


 言いづらそうにしながらもそう伝えたヒロトは、やはり後悔する。 予想の通り、ベルカの顔色が悪くなるからだ。

 その洗礼を受けた経験のあるアリシアとルーンはベルカの背中を嫌そうな目で見つめていた。


「俺はマレッカ……持ち前の知識で貴様らを知恵者にする……」


 あの山から逃げ出す時に触られたお尻がずっと気になっているのか、今までずっと赤面しながらお尻の近くで手をモジモジとさせている。


「『俺』って……こいつ変なやつね、女のクセして一人称が『俺』だなんて」


「マレッカは男だよ。 『男の娘』って感じなのかな」


 ヒロトがそう言った途端、ベルカとその後ろにいたアリシアとルーンの表情が固まった。

 見た目はどこからどう見ても、どう調べても美少女であるのに男なのだ。 そんなこと、思いもしなかったのだろう。


「へー、なんかすごい感じッスね! これは見世物小屋で高く売れるッスよ!」


 意気揚々と前に飛び出し、マレッカの身体全体を見たアリシアは良からぬ考えをみんなの前で声高々に公表した。


「アリシアちゃん……そんなのもう現代にはないよ……」


「んなことどうでもよくてっ! なんで新しい仲間なんか来てんのさ!!」


 ルーンが小さな声で入れたツッコミを無常にも消し去る勢いでベルカは叫んだ。 桃色のショートボブが揺れに揺れ、どうやってこの場を収めようかと悩むヒロトを追い詰める。


「この子僕に似ててさ! 仲良くなれると思ったんだ!」


「そんな理由で増やすのやめてくれる!? 全員分の生活費とかどうすんのよ! 言いたくないけどベルカ達は結構な貧乏人なんだよ!?」


 正論中の正論にヒロトは頬に汗をかいて黙ることしか出来なかった。 邪魔者扱いされているマレッカが隣にいることでより一層ヒロトの気分は落ち着かない。


「金持ちになれる方法ならある……ぜ」


 マレッカの俯いた顔から飛び出した言葉に、その場にいた全員が注意を向けた。


「ダンジョンなら……金儲けができる」


「その話詳しく」

 

 マレッカは儲け話に一瞬で食いついたベルカを見つめて笑った。 自分を必要としてくれることに喜んでいるのだろうか、とヒロトは心の中でそう呟く。

 すっかり調子を取り戻したマレッカはその話を詳しく語り出した。


「ダンジョンはほとんどが謎に包まれ、そのクセ名前ばかりが知れ渡っている妙な存在だ。 だからその中の情報とかがあればその筋の情報屋に高く売れるってわけだ」


「あなたの身体よりもッスか!?」


「黙れぇ!!」


 マレッカをからかって遊ぶアリシアに比べ、ヒロト、ベルカ、ルーンはその話を真剣に聞いていた。 彼らは総じて儲け話に弱いようである。


「あの、そんなお金になるんだったら……どうして誰もダンジョンに行かないんですか……?」


「貴様一体どこから出てきた……気配でも消せるのか?」


「ひっ……!」


 真面目な質問を全く関係の無い皮肉で返されたルーンは驚き、泣きながら酒場の隅で座り込んだ。

 側でルーンを慰めるヒロトを尻目に、ベルカとマレッカは話を続けた。


「でも、確かにわからない……どうして誰もダンジョンに行かないのよ?」


「それは……ダンジョンに入ったやつらのほとんどが帰ってこないからだ」


 その言葉は誰よりも大きく聞こえ、誰の声よりも耳に入ってきた。

 ベルカの嬉しそうな顔もその瞬間から次第に消え去り、テーブルから乗り出していた体を椅子に戻した。


「やるんスか?」


「…………」


 常人ならば悩む暇もなく話を止めるのだが、どうもベルカは金に弱い。 断る儲け話があるとすれば、身売りの話くらいだろうか。

 無論、ベルカにとって一番大切なのは自分の身なのだが、それ以外にも大切な命が増えてしまった。 そう考えると、いくら儲かるからと言っても、そんな理由で隊を危険には晒せないと考えているのだ。

 

「もしダンジョンに行って危険な目に会ったらヒロトさんの失敗を繰り返すだけッスよ!」


 その言葉を遠くで聞いていたヒロトは身体を震わせ、聞こえないフリを続ける。

 

「…………どういう人たちがダンジョンに行くわけ? それが知りたいわ」


「それはちょっとここでは言えない」


「じゃあどこで言うのよ!?」


 マレッカのおちゃらけた言葉にベルカはキレる。 怒ってばかりのベルカに、アリシアは安心感すら覚えた。


「落ち着けよ……! 情報を売れば儲かるっつっても大型モンスターを一体倒すくらいの稼ぎだからわざわざ赴くのは弱っちい雑魚ハンターどもなんだよ!」


「っていうことは、ダンジョンに行くハンター達がもし【シノス級】だったら死んだりしない程度の難易度ってことッスか!」

 

「そういうことだっ……! 早く胸ぐらから手を離しやがれ!」


 マレッカは自分の胸ぐらを乱暴に掴む腕を力強く握り、なんとか引き離した。

 怒りの沸点が低いベルカには困ったものだと、遠くから見ていたヒロトはため息をつく。


「とっ、とにかく……俺様達がちょっと頑張りゃすぐに懐も暖かくなるんだ! 行かない手はないだろ?」


「こいつ、もうベルカ達の仲間のつもりなのね………… 」


 不満げのある顔でまた椅子に座ったベルカは、マレッカに向かって小さくそう言った。

 

「あ、あの……」


「なんだ? 部屋の隅にいたんじゃなかったのか?」


 なんとか立ち直ったルーンが恐る恐るマレッカに話しかけ、マレッカはその勇気をへし折るような物言いで反応した。

 キツイ言い方をされるが、なんとか耐えてルーンはマレッカに聞きたいことを聞いた。


「ダンジョンって……大きいんですかね……えっと、時間かかるのかなって……」


「不確かな情報だが、メルタリアに最も近いダンジョンはこの街ほどの広さを持った空間が地下に百階は続いてると聞く」


「なにそのバカみたいな情報。 信じられるわけないじゃない」


 馬鹿な小学生が考えたようなスケールに、ベルカは横槍を入れる。 当然、ルーンやヒロトもそんな情報はにわかには信じられなかった。


「この俺様が嘘を言っているとでも?」


「ヒロトから聞いたよ。 アンタ、ヒロトに間違えた情報を教えて危険な目に遭わせたんだよね? 信用できるわけないじゃない」


 ベルカはジト目でそう言い、ルーンもそれに同調するように首を縦に振る。

 それは正しく正論であり、今のマレッカにはこういうことに関する信用は全くない。 お人好しのヒロトですらそれを否定しきることが出来ないのだ。


「とにかく、行ってみる価値はあると言っているんだ! 貴様らが俺を信じようが信じまいが、それは確かだ。 他のハンターにも聞いてみると良い」


「自分は信じますけどねー! だって面白そうじゃないッスか! なんならここにいる全員で行きたい気分ッスよ!」


「それって酒場にいるハンター全員ですか……?」


 アリシアの放った急な提案にルーンが反応した。 きっと他のメンバーより長くいることが多い分、その内気な性格からしてもそれだけ話しやすい関係なのだろう。

 対してベルカは『何言ってんだこいつ』とでも言いたげな顔でアリシアを見つめていた。


「そうじゃないッスよ! 自分と、ヒロトさんと、ルーンと、マレッカちゃんと、ベルカの全員でダンジョンに行くってことッス!」


「流石に無理だと思うよ……私達はほら、体力ないし……」

 

 突拍子もない提案は冷静な考えによって却下される。 これが普通だ。

 ヒロト達はともかくとして、アリシアとルーンは決して戦闘に向いているわけではなく、そのダンジョンに赴いたところで足でまといにしかならないとルーンは考えたのだ。

 

「ならば体力作りでもしたらどうだ? いい機会じゃないか、健康になるぜ」


 鼻から捨てるように息を吐き、マレッカは二人を見つめてそう言った。 その言葉に含まれた意味がどれほどあるのかは分からないが、言っていることは悪いことでもなさそうだとヒロトは感じ取った。


「決まりッス! よーし、明日の朝からランニングするッスよ、ルーン!」


「ええ…………」












───────────────────────









 早朝、朝露の滴る音や小鳥のさえずりだけが響く時間。

 徐々に明るさを見せる暗く青い空に浮かぶ雲は、そよ風に吹かれてゆっくりと動いてゆく。


「うーん! やっぱり朝の独特な匂いはいいなぁ! 微妙に涼しいのも最高ッスよ!」


「本当にダンジョンに行くことになっちゃうなんて……怖いなぁ」


 朝イチで走っているため、二人は息を荒くし、大量の汗で身体中が濡れている。

 前日の夜に二人がベルカ達から言われたことは、一つは早朝のランニングで体力を作ること。 そしてもう一つは、毎日必ず筋トレをするということだ。

 アリシアのくだらない提案一つでここまで身体を動かされるのも災難だとルーンは思ったが、二人はいつもダラダラと毎日を過ごしていたので、良い機会だと自分に言い聞かせた。


「自分もルーンも、あんまりヒロトさん達の役に立ってなかったッスからねぇ。 これはチャンスだと思うッスよ! 自分達がどれだけ有能なのか、ちゃんと教えてあげるッスよ!」


 思い返せば、確かにこの二人は依頼を受けることも、料理を作ることも、隊のためになることも何一つやってきてはいないのだ。

 その機会がないからという理由もあるが、それが二人の罪悪感を消し去る要因にはなり得ない。

 

「ダンジョンってどういうところなんだろう……私に出来ることなんてあるのかな……」  


「少なくとも体力さえあれば荷物持ちはできるッスよ!」


「ざっ、雑用なのぉ……!」


 なんとなく辛辣なように感じるアリシアの言葉は、ルーンの残り少ない自信をさらに潰しにかかった。

 

(荷物持ちでも活躍できれば嬉しい自分がいるのが悲しいなぁ……)



 二人は身体を鍛える期間を一ヶ月に定め、その後に全員でダンジョンに行くと昨日の夜に決めた。

 無論ヒロト達も日々の筋トレは欠かさないが、二人はそれよりも少しキツいメニューを自分に課していきたいらしいのだ。

 

 一ヶ月後のダンジョン探索に向けて、ヒロトたちは努力を怠ることなく、体を鍛え続けていく。


 



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