第一章22『謝罪』
朝も終わろうとしている日に、廃教会では桃色の少女が顔をひきつらせていた。
その原因は言うまでもなく、ヒロトだった。
「なんで勝手に決めてきちゃうかなぁ……ヒロト?」
「すみませんすみませんすみませんすみません……!」
反省に反省を重ねた大猛省と共に、土下座をして謝るヒロトをベルカは講壇の上から見下していた。
身長の低いベルカでも、 講壇の上に立ってしまえば相当な威圧感を今のヒロトに与えることが出来る。
「おもしろい光景ッスねー」
「あ、はは……」
その光景を教会の窓際から見物しているアリシアとルーンはほんの少し、楽しそうにしている。 それは、自分たちの兄弟が母親に怒られているのを眺める子供のようだ。
「ごめんなさい! すみません! 許してください!」
「無理無理、これはダメェ! ベルカ達の命に関わる約束なんだよ!?」
圧倒的な謝罪力で許しを乞うヒロトだが、それすらも覆すベルカの怒りがそこにある。 頭を下げていて見えないが、ヒロトの顔は大量の汗で濡れに濡れていた。
当然許されるものではないと分かってはいるのだ。 ここはもう人本来の悪さが活躍する他ないだろう。
「あの……さ、直前で行くのをやめたりとか……はどう?」
「げっ……」
普段のヒロトなら言うはずのない言葉に、ベルカはあからさまに引いていた。 自分が土壇場に追い詰められた時、こうやって自分とその身内を犠牲にする方法を取るのは恐らく、ヒロトの特性なのだろう。
到底良いものとは言えないが、一概に悪いものとも言えないのは事実である。 しかし、この状況においてはヒロトが撒いた種なのだ、誰がどう見ても悪いのはヒロトだと言うだろう。
「ご、ごめんっ! ちゃんとその人に謝るから!」
「はぁ……」
一度も顔を表に向けないヒロトを見て、ベルカはため息をついてこう言う。
「もういいよ、行こう」
「ごめんさっ…………え?」
さっきまで怒っていたのを考えて、その思わぬ言葉にヒロトは間抜けな声を出して顔を上げる。 遠巻きに見つめていたルーンも驚いているようだ。
ベルカは目を瞑り、少しの間黙った後にこう言葉を繋げた。
「どうせそのガルディノスってのは倒さなきゃならないし、他に戦力があるなら願ったり叶ったりだよ。 ヤバくなったら他のハンターに丸投げしたら良いし、最悪ヒロトを連れて逃げる。 だからいいよ、行こう」
そう言われた嬉しさと、こんな優しい少女に黙って命の関わる約束を決めたことに、ヒロトは心の中で自分を責めた。 その言葉を聞いてからの数秒間、全力で自分の邪な心と捻じ曲がった性格を痛めつけた。
本当に悪いことをしたと、今になってまた実感したのだ。
その光景をただ黙って見つめる二人の少女に対しても、その優しさに感謝した。
「ごめんね……ありがとうっ……!」
「泣かないでよ! 今からそんなに弱ってちゃ、沢山いるハンターの中でなんにも活躍できないよ!」
両手を腰に合わせ、強い口調でベルカはそう言う。 キツく聞こえる優しい励ましに涙が漏れそうになり、床についていた手を握りしめ、歯を食いしばる。
その様子がなんとなくわかったのか、ベルカはそれ以上は何も言わずに赤い顔で窓を見る。
その視線の先には今までの光景を黙って見ていた二人の少女の姿があった。
「いやー、一件落着っすねー。 自分もガルディノスを倒す二人の為に頑張って手料理作ってあげるッスよ!」
「そのお金は、どこから出すの……?」
窓際にいた二人がそう言いながらベルカの側に歩み寄ってくる。
ルーンは少し距離を置いたところで立ち、アリシアは未だ顔を上げきれないヒロトの背中に手を置いて、トントンと二回叩いた。
「大丈夫ッスよー、許してくれてるじゃないッスか」
小刻みに背中を震わせるヒロトを、アリシアは優しい目で見つめた。
それを見たベルカは腕を組み、そっぽを向いてこう言った。
「ふんっ! 頭下げてないで、さっさと狩りに行くよ!」
「えっ、ちょっと待って!」
そう言ってベルカは外への扉を開け、ヒロトは慌てて顔を上げ、小走りで付いて行った。




