第一章21『安易』
「…………」
早朝、まだ暗みがかった空の下で、ヒロトはギルドの裏で二人のハンターを待っていた。 その理由は当然、昨日ギルドで呼び出されたからだ。
なぜ呼ばれたか、その理由もなんとなくわかる。 「集合」 という言葉が使われたことから察するに、ガルディノス討伐におけるハンター収集の一環なのだろうと。
「早いな」
先日の、奇抜なデザインをした鎧を装備している男がヒロトの目の前に現れた。 もう一人のハンターは見当たらず、一人だけでここに来たようだ。
「はぁ……あの、もう一人の方は……?」
「あいつは別の奴と話をつけてる。 俺はお前に用があるんだ」
兜の奥からヒロトを見つめ、簡潔にこう言った。
「昨日、俺達の話を聞いてただろ?」
「……!」
「俺達に協力しろ、ハンター」
大方予想は付いていたが、やはりその事だった。 ギルド管理外でのガルディノス討伐、その協力を彼はヒロトに求めた。
「どうして僕を……きっと、普通のガルディノスですら倒せませんよ」
どうせ集めるならばハンターなりたてのヒロトなんかではなく、シノス級のハンターに任せておけばいい話なのである。 ヒロトもそれを分かっており、自分が一番にその話を聞かされたことに疑問を抱いた。
「なあに、俺もマルス級さ。 マルスでもシノスでも、数十人集まりゃ関係ないんだよ」
そう言って、兜の中で篭った声でハンターは笑う。 同類と言うことで何故だか安心感を覚えたが、それよりもマルス級で凶暴なガルディノスを倒せるかどうか、それが不安だ。
ガルディノス自体の実力をこの目で確かめたわけではないが、本来のガルディノスはハンター歴一年の隊で倒すような相手らしい。
だが凶暴化した個体はその限りではない。 シノス級の狩人隊がやられたともなれば、マルス級ハンターの寄せ集めではきっと難しいだろうとヒロトは考える。
「シノス級のハンターを複数人参加させるなら、僕も参加したいです」
「ああ、約束しよう。 森の暴悪を俺達が倒すんだ」
シノス級のハンターならば、ガルディノスとの戦闘経験もあるはずだ。
そのハンター達と戦うことができ、成功すれば自分の経歴にガルディノス討伐が付くわけだから、 「嫌です」 なんて言うはずもない。 願ってもないことなのだから。
「いつにするかは決まっているんですか?」
「ああ、来週あたりにしようと考えている」
「あの、それって少し早くないですか?」
「早く終わらせないと俺達が生活できないんだよ。 お前もその一人だろ?」
慎重にやってる時間が無いと言い、ハンターはその日までに20人以上を集めると約束し、ヒロトはそれの約束を了承した。
「それと重要なことを一つ言わせてくれ」
「はい……?」
兜の奥から真面目なトーンでそう言い、少し緊張しながら気を引き締める。
「お前の名前を教えてくれ」
「……あっ、はい」
────────────────────────
来週にはガルディノスを討伐するという事実に、ヒロトは今更ながら 驚きを隠せていない。
ハンターになって一ヶ月も経っていないというのに、まさかハンター達を騒がしている大型モンスター、それも特別に凶暴らしい個体を相手にしなければならないのだ。
(はぁ……やっぱり嫌だなぁ)
参加したいと言っておきながら、一人になって冷静に状況を整理した途端に戦う意欲が失せていった。 ヒロトの悪いところは、人前に立つと出来もしないことを出来るかのように振舞ってしまうことだ。
そしてそれを誰にも悟られず、自然に行うのだから相手にとっても、本人にとってもタチが悪い。
(ベルカも巻き込んじゃうのかな……)
一番はここだ。
ベルカと何の相談もせず、ヒロトは一人でガルディノス討伐の参加を勝手に決めたのだ。 ヒロトはここを最も後悔していた。
(ああっ……、ごめん! ごめん、ベルカ!)
とてつもない罪悪感にさいなまれ、頭を抱えて悶える。 この世界に来る前にも、こんなことでよく他人に迷惑をかけてきたことを思い出す。
(こんなことだから僕は……)
こんなことだから自分は、引きこもってしまったと、そう心の中で呟いた。
(もし沢山のハンターが集まったらベルカと行こう。 集まらなかったら二人で行かないだけだ……)
こうして後からどうするかを考えることに無駄な時間を割き、基本的にどんどん罪を重ねていくのがこの世界に来るまでのヒロトだった。
しかしこの世界でもやってることは同じだ。 要領の悪いヒロトでは、例え異世界で心機一転したとしても、何かが変わるわけではなかったのかもしれない。
(でも……ちゃんと話した方がいいよね)
まともな考え、邪な考えを交互に頭の中に出し、天使と悪魔がヒロトに囁く。
ヒロトの根は優しいのは確かなのだ。 確かなのだが、歪んでしまっている心もどこかには存在しているのかもしれない。
こんなことで悩んでいる時点で実際のところはあまり良い人間とは言い難いのだが、弱っている人間を結局救ってしまったりする心も持ち合わせているわけだ。
だからこそ、苦悩の末に出す結果もそれに準ずるのだ。
「ベルカに、謝ろう……それしかない」
謝るということは、極度のお人好しでもなければ、決して簡単なことではない。
誰かに対して 「謝っとけば?」 なんて言われても、中々その言葉を受け取れない人間が大多数だ。 体面上では受け取っているように見えても、それを心の中で上手く処理しているだけなのだ。
無論、それが世渡り上手でもあるのだが。
ヒロトはまず、勝手にガルディノス討伐に参加することを決めたことに対してベルカに謝り、来週に集まったハンターの数次第では討伐に赴くのは自分だけにしようと決めた。
参加するのは自分だけ、というのはベルカが許しそうにはないが。




