第一章23『無謀な者達』
着々とその時が近づく感覚を、ヒロトは全身でひしひしと感じている。
先週にガルディノスを倒すと約束を交わしたハンターが自分達の目上に立っている。 その名は 「ステフ・ハイド」
「なかなかの人数が集まったな、これなら凶暴なガルディノスも袋叩きできるぜ!」
ステフは街の外れにある小さな森の中に隠れた跡地に数十人ものハンターを集めた。 そして崩れた建物の上に立ち、最も高い場所から声高々にそう言った。
集められたハンターは 「やってやる」 とでも言わんばかりに拳を握り、頷いている。
ヒロトとベルカはと言うと、特に反応を見せず、静かに座っている。 ヒロトは頷いたりするというアクションが恥ずかしく、ベルカは単に乗り気じゃないだけだろう。
「ガルディノスの活動地域は紅森の奥深くだ! 途中、複数のディノスにも出くわすだろうな!」
ガルディノスを倒すのなら、当然湧いて出てくる子分達も倒さなくてはならない。 集められたハンターの全員はやる気のようで、誰一人として怯む様子を見せていない。
シノス級のハンターはともかく、マルス級のハンターまでそんな意気込みをしていることにヒロトは少し驚いた。
自分よりも弱いとは当然言わないが、彼らは恐らく、一人でガルディノスを倒せるようなハンターではないはずだ。 それなのに恐れを抱くことなく戦う意思を見せているのは、ハンターの魂というものなのだろうか。
「おい、ステフ! 討伐に行くのは良いが、どうやってこの街から出るんだよ。 全員で堂々と城門から出たら完全に気づかれるぞ?」
大きな石段に座る一人のハンターが声を上げてそう言った。 確かに、武装したハンターが全員仲良く城門から森へお出かけとなると、真っ先にギルドに勘づかれてしまう。
そもそも、なぜ数十人での討伐行為をギルドが禁止しているのかをヒロトは分かっていない。 何か不利益でもあるのか、頭の片隅でそんなことを考えていると、今度はステフが喋り出した。
「大丈夫なんだよなぁ、それが」
「どういうことだよ?」
「教えてやる、全員付いてこい!」
そう言うとステフは森の奥、城壁の方向へと歩いて行く。 その場に残されたハンター達は隣合わせのハンターと顔を合わせ、ザワザワしながら腰を上げて付いて行った。
森の奥へと進み、生い茂る木や草花が少なくなってくると、城壁が行き止まりとなってステフ達の歩みを阻んだ。
「ここだ」
ステフは草に隠れた壁に手を付け、何かを確認するかのようにガサゴソしながらそう言った。
「よっと、お前ら! こっから出るぞ!」
その場からステフが離れ、一人のハンターが草をどけてその壁を確認したところ、そこには大きな穴と掘られた地面が出来上がっていた。
「おいおい……なんだよこの穴。 ステフ、お前が作ったのかよ……?」
「いいや、相方のディグナが作ったんだ」
ステフは後ろにいるハンターを指さし、そう言った。
「ディグナだ、バレないように穴を開けた」
「じゃあお前ら、そろそろ出発だ。 一塊になって紅森を進むんだ、いいな?」
「オオ!」
ハンター達は勢いよく返事をし、一人ずつその穴をくぐっていく。 最後にヒロトとベルカが壁を抜け、ハンター全員がメルタリアの外へと出ることに成功した。
ここから先はひたすら紅森へと歩くだけだが、その途中にもディノスのようなモンスターに遭遇することを注意しなければならない。 無論、ヒロトに分かるようなことはこの場の全員が分かるわけだが。
門番やその類の監視は広くなく、門の死角を歩いてさえいればそれで十分なのだとか。 大勢のハンターでの狩りを規制する割にはかなり雑だとヒロトは頭の中で思う。
「ベルカ、もし死にそうになったら……」
「分かってる、この場の全員を捨てて二人だけで逃げるよ」
「……うん」
罪悪感が心の中に残るが、自分の本性はそれで良いと耳の奥で囁き続ける。 そうだ、数少ない仲間を他人の為に失うわけにはいかないのだ。
(これが、大人になるってことなのかな……?)
必ずしも、冷酷になることだけが大人であるということではない。 しかし、人助けばかりしている人生はいずれすぐに終わるということは分かる。 特に、モンスターが跋扈する世界でそれを狩るような仕事を選んだのなら。
年相応な子供のヒロトはそんなもやもやした感情を胸の奥に押し込み、考えることをやめた。
「そんなに下なんか向かないでよ、ベルカまで陰気になっちゃう」
「ご、ごめんね」
そう言われてヒロトは前を向き、奥にうっすらと見える紅森を眺めた。
(色々あったよね…………)
この世界に来てからというもの、沢山のはちゃめちゃがあの森で行われたことを思い出す。 最初の頃はディノスから逃げ仰せ、その次は鬼泉の水を汲みに行き、そこでディノスに襲われて崖を転げ落ち、凶暴化したガルディノスや異常な再生力を持つ植物を目の当たりにした。 そしてディノスの討伐に来た時は蒼いワイバーンが現れ、紅森でディノスを諸共焼き払った。
ヒロトにとって、紅森はこの世界で最も見慣れた自然だろう。 最早、見知らぬ街よりも安心感があるのかもしれない。
(今よりずっと強いハンターになった時、きっと沢山の狩場に行くんだろうなぁ……あの森に来ることはなくなっちゃうわけか)
寂しいな、と心の中でぽつりと呟いた。 最も自身を殺しにかかった筈の森に、別れの寂しさをヒロトは感じている。
命を脅かした森に対してそんな感情を抱くなど、常人ではありえないことは彼も分かっている。
この先彼がまだ生きているのなら、沢山のモンスターに出会い、そこを過去の死地にしてしまうだろう。 それに対して毎度のように愛着が湧くようならば、それは正真正銘の狂人と言える。 或いは戦闘狂か、それともマゾか。
それよりも集中すべきは紅森だ。 先の死地を想うより、ここを死地にしないようにすることが最も重要なのだ。
(そう言えばまともな作戦を聞かされてないな……ただ単に紅森へ行って、大勢でガルディノスを倒すとだけしか……)
ゾッとするほどの無計画さに、今頃ヒロトは心配した。 ここにいる誰も彼もが自身に満ち溢れた顔をしていて、なんなら陽気に口笛を吹いたり、歌ったりするハンターまでいる。
急に怖くなり、ヒロトはベルカの方を振り向いた。
「どうしたの? 怖いの?」
「うん。 えっ、いや違っ」
思わず本音を漏らし、慌てて訂正しようとするが、時は既に遅かった。 ベルカは「やっぱり」という顔でヒロトを見つめ、目を閉じながらこう言う。
「あのハンターの話、無計画だったでしょ? 分かってたよ。 全く、なんで皆あんな作戦に乗るんだかわかんないよ。」
「じゃあ危ないよ! 早く戻ろうよ!」
「こんな広い平原で勝手に戻ったりしちゃったらバレちゃうよ? ヒロトが行きたーいって言ってたから黙って付いてきてあげたの。戻るならこっそり抜け出せる森に入ってからだよ」
シー、と言いながら人差し指を唇に合わせ、ベルカはそう言った。
また迷惑をかけてしまったと、ヒロトは申し訳なくなって顔をしかめる。 ベルカはその顔を見て、ヒロトに見えないように少しだけ微笑んだ。




