第一章13『知らぬ夢』
依頼の外でモンスターを討伐した場合、生態系の管理という理由でギルドにいつ、どこで、なにを討伐したのかを事細かに報告しなければならない。 これに違反、もしくはモンスター毎に規定として定められている討伐可能数を超えて殺した場合、即座に独房行きなのだとか。
「ってことで! ディノスを勝手に殺すのは二十頭までにしてくださいね!」
「すいませんでした………」
「いやいやぁ! 二頭くらいのディノスなんて全く問題は無いんですよ! これがもし三十とか四十とかになってたらそりゃあもう独房行きですし、百なら最悪存在を消されることも──」
「えっ!」
突然のヤバイ発言にベルカは驚愕した顔で声を漏らす。 赤い受付嬢はやってしまったと言わんばかりの表情をして発言をはぐらかした。
「いっ、いやぁ! なんでもないですよ!」
「そ、そうですか……アハハハ」
本当にヤバイことなのだろうとヒロトは察し、それを追求すると自分はいつか恐ろしい結末を迎えてしまうのだろうか、そんなことを考えたらもう受付嬢の話に合わせる他なかった。
「じゃあベルカ達もう行くね……」
「さっ、さよならであります!」
妙な気分になった二人はつたない足取りでギルドの外へと出ていった。
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ギルドへの報告を済ませた二人は半ば家と化している廃教会でダラダラと過ごしていた。
「昼間に寝転がるのは一ヶ月ぶりくらいかなぁ」
元引きこもりのヒロトはつい一ヶ月前に外の世界に出ることに成功していた。 その嬉しさがあってか、本来はネットで買えば良いゲームをわざわざ店舗まで行って買ってしまい、結果としてこの世界に来たというわけだ。
「隣でベルカは昼寝中………か」
ぶつぶつと独り言を呟いてあくびをする。 暇だが無理に起こすことは出来ないので、ヒロトはただその寝顔を見つめるばかりで、そのまま眠りにつこうとしていた。
(昼夜逆転……またしないといいけど……)
まぶたも閉じようかとしてる時、開いた手をベルカの小さな手が握った。
(ハハハ………おやすみ、ベルカ)
暗い協会の中で窓に反射する太陽の光を常夜灯代わりにヒロトはまぶたを閉じ、心の中でベルカに微笑むと、そのまま夢の中へと落ちていった。
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『──夢、夢を見ている』
それは人々が暮らす平和な街で、自分も周りと一緒に生活をしている夢。
見覚えのない景色のはずが、そこに溶け込んでいる自分がいる。 体が軽くて、自分が自分では内容に思える感覚。
人々が遊んでばかりいる光景。 働く素振りは一つも見せず、見慣れない建物に出入りするのが良く見える。 その光景はこの人生で一度たりとも見たことのないものだったが、何故か懐かしさを感じる。
そして自分の体が勝手に歩き出した。 その動きを自分が命令した覚えは一つもなく、誰かに動かされているような感覚だけが体にある。
何処に向かうか分からない足取りはやがて自分の恐怖心を煽る足音へと変わってゆく。 体が自分のいうことを聞かないというのは恐ろしいことだと思い知った。 それも誰かが動いているのを見せられているような、そんな感覚が。
勝手に歩いていることを不気味に感じながらも自分は人々が行き交う街の光景を眺めていた。 やはり働いている人間はいない、店のようなものもなければハンターのような存在も見当たらない、妙な夢だと思う。
見上げなければ頂上が見えない塔や奥の方に微かに映る巨大な城があり、それを見るためなのか頭と目がグルグルと動く。
そうやって色んな光景をその目に映しながら体は勝手に歩みを進めている。
体を動かすこと、目を動かすこと、喋ることさえ許されない夢は人生で初めて見た。 未知の体験、それは何よりも人が恐怖するものだろうと思う。
曲がり角を曲がり、二つの大きな建物に挟まれた道を少し進むと自身の体の歩みが止まり、少しの安堵を感じたその時、自分の目の前に一人の男が立っていた。 その男はボードのようなものを左手で持ち、その視線の先にあるものを写している。
男がボードと交互に見つめるその正体、自分の視線の先に映ったのは───
『また殺してきたの、それ』
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「───はっ」
随分と短く、それでいて夢見の良くないことだった。 すぐに上半身を起こし、でこにかいた汗を左手で拭った。 しかし髪の先まで垂れる程の汗の量を見て、おもむろに上着を脱いで髪をそれで拭く。
起きた時には既に頭が熱くなっていて、ヒロトはくらくらとする状態で教会の窓を開けた。
「頭が………っ!」
手で頭を抑えながら顔を窓から出して涼しい風に当たる。 少しの間風に当たっていると顔の熱はある程度下がってきて、しんどさもマシになってきた。 辛さから開放されたヒロトは安心して一息ついた。
「あれ……なんの夢だったんだろう……?」
普通の夢とはかなり感覚が違ったのだ。 最初からそれは夢だと理解していたが、それだけでは明晰夢で片付けることが出来る。
通常、明晰夢を見た場合は割と夢の中で自由にできたりするわけだが、ヒロトの場合はそんなことが許されていたわけではなかった。 自分が自分ではない、誰かが動いているものをただその視点で眺めているだけの、一種の映像を鑑賞しているかのような気分でもあった。
「なんだか……懐かしかったような………」
見たこともない光景を懐かしんでいた理由をヒロトは理解することが出来ない。 全く身に覚えがないのだ、一体どういうことなのだろうか。
「最後に、殺してきたって……」
そんな物騒な言葉を、一体誰が放ったのか。 周りにはたくさんの人がいたが、その声を聞いた時に近くにいたのは目の前の男だけだ。 そしてその男が口を開いたところを一度も見てはいない。
「ううん、こんなどうでもいいことを考えるのはやめよう」
目を閉じて、頭を小さく横に振ってそう言うヒロト。
ヒロトは寝ているベルカに歩み寄り、そろそろ起きて、と優しい声でそう言った。




