2期生でオフ会をすることになりました
鳴蝉響く公園の遊歩道。まだ日も上りきっていない頃。僕はふふん、と鼻歌を歌いながら呑気に散歩をしていた。
今日はそこまで気温も高くなく、風も吹いているため気晴らしにちょうど良い。1時間くらいかけてのんびり遊歩道を一周し、家に帰る。
「ただいま」
そしてすぐにお風呂場へ直行。汗でベタついた服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
スッキリした僕は、今日のお昼ご飯どうしようかな、なんて考えながらソファにもたれかかる。
そのまま熱が引くまでぼーっと呆けていたら、ピロロン、とテーブルに置いたスマホから通知音がなる。誰からかな、と思いスマホを開く。すると、珍しいことにディスコードの「すまいるほーむ2期生連絡チャット」からだった。
『第一回2期生オフ会を開催するのにゃ。』
と、太いフォントでひるねからメッセージ。
『良いね。どうせ、二週間後の全体コラボで顔合わせするしね』
続けて、ノアが返信する。それにまた続いて、僕も賛成の意を示す。
『僕も賛成〜』
『いつが良いとかある〜?』
『私はお盆で仕事ないからいつでも良い』
『私も大学はないにゃよ〜』
『僕は明後日と、来週の木金以外なら空いてるよ〜』
明後日は図書館で借りた「ニャンニャン探偵の事件簿」について、水華と感想を言い合う会があるから開けておく必要があるのだ。そして来週の木曜日と金曜日は、両親が海外から二日間だけ帰ってくる日。久しぶりに家族団欒を組める日なので、もちろんここも開けておく。
『じゃあ、急だけど今週の土曜はどう?にゃ?』
『良いと思う』
『賛成!』
『そういえばノアは仕事中なんじゃないの?にゃ?』
『サボるのは得意』
『仕事しろにゃー』
『ちゃんとお仕事はしなきゃダメだよ!』
『ゆいにそう言われちゃ、仕方ない』
『あれー私はー?』
こうして僕たちのオフ会が決まった。
ひるねと会うのは久々で楽しみだが、ノアとはリアル会ったことがないのですごく緊張する。しかも社会人だというから、尚更緊張する………。
◇◇◇
「今日か………」
僕は壁に掛けてあるカレンダーを見てそう呟く。ついこないだ決まったと思っていたオフ会も、いつの間にか目前に迫っていた事実に驚く。
オフ会は午後、日が沈む頃からと遅くからの開催__ノアの仕事時間に合わせたから_だから、まだ時間がある。 それまで図書館で暇を潰そうと思い立ち、僕は読みかけの本を二冊ほど持って家を出た。
図書館の自動ドアをくぐると、館内のクーラーが体の熱を冷ます。その冷風に乗った独特の紙の匂いが鼻腔をくすぐる。この匂いを嗅ぐと、ああ図書館に来たんだな、と実感するのだ。
ふと癖でいつもの長机の、端っこの席を見るが、まだ水華は来ていなかった。
水華が来る時、僕に気付きやすいように、結局いつもの端の席に座る。それから僕は家から持ってきた本を開き、読み耽るのだった。
「あっ、玲!」
お日様が真上に来始めた頃、水華の声がして本から目を離す。
彼女はとてとて、と小走りで駆け寄ってきて、僕の隣に座った。
「なに読んでるのー?」
「太宰治の『黄金風景』ってやつ!」
「あ〜あれね!どうだった?」
「ん〜っとね、最初よくわかんなかったから今もう一回読み直してるの」
「確かに一見するとなんだコイツってだけの短編だもんね〜」
…なんて会話を交わしながら、時にはお互い喋らず黙々と読書する。この時間が僕は好きだ。
「じゃあまたね〜」
「うん!ばいばい〜!」
別れの挨拶を交わし、僕は家へ向かう。太陽理照り付けられたアスファルトが熱く、足裏があったかい。
家に辿り着いた僕はお昼ご飯の用意をする。今日の夜はいっぱい食べたいので、量は控えめにする。朝ごはんの余ってしまった分と、帰り道に寄ったスーパーで買ったお惣菜。
満腹になった僕は、ソファにぐでーとなりながらこの後なにするか考えていた。
「何にもない日は暇だな〜」
あ、そうだ。配信するか!
僕は夏休み中にちょくちょく配信をしていたスローライフゲームをやることにした。
思い立つや否や配信部屋(元々はお父さんの部屋)に入り、PCを起動。僕は早速配信を始めた。
「みんな、こんゆい〜」
【こんゆい〜】
【こんゆい〜!!】
【こんゆい〜〜〜】
告知なしで急に始めたにも関わらず、多くのリスナーさんが集まってきている。
「今日もね、………っていうスローライフゲームをやってくね〜」
【やった〜〜!!通知オンにしといてよかった〜】
【これすこ!嬉しい】
【この時間で配信珍しいですね!】
「夜の予定まで暇ができたからね〜。3時間くらいで終わる予定」
【夜の予定!?】
【えっちなのはお父さんが許しません!!】
「いや、えっちなことするわけじゃないから!同期のメンバーでオフ会するだけ!」
リスナーさんの頭の中ピンクすぎない!?思わず呆れてしまう。
【オフ会!?なにそれ初耳!】
【ちゃんと馴染めてて安心した……】
【オフで二人に会うのは初めてなんだっけ?】
「ノアとは初めてで、ひるねと会うのは2回目〜!楽しみ〜………ってそんなに馴染めてなさそうなの僕!?」
【馴染めてないっていうか、人見知り発動してそうw】
「うぐ………ま、まあ、そうなんだけどね……」
リスナーさんにまで指摘されるって………自分はどんだけ人見知りなんだと落胆する。
ちなみに僕が今やってるゲームでも、ずっと畑作業やら釣りやらで村人と話せていない………。
「で、でも……配信続けてるし、その甲斐もあって直ってるでしょ?」
【まあ確かに、最初の方よりは噛むこととか少なくなったよね!】
【確実に成長してるやん!!!】
【ゆいちゃん偉い!!】
「え、えへへ……急に褒めないでよ……………」
【ゆいちゃん可愛い!!!!】
【ヨッ!ゆいちゃん世界一!】
【ゆいしか勝たん!!!!】
「も、もうっ!そんなに褒めても何も出ないんだからね………………えへ……」
【(この子ちょろいな………)】
【まじで癒されるけど心配になってきたw】
【アバターにそのふにゃりと笑った表情をつけた運営はわかってる】
3時間ほど、僕はリスナーさんとおしゃべりをしながら、のんびりとスローライフゲームを楽しんだのだった。
◇◇◇
約束の時間の30分前、僕は早くも集合場所の駅前に来ていた。いつぞや杉山と柊に選んでもらったコーデを身にまとい、駅前の適当な場所で立って待っている。
男の人の笑い声、女の人の喋り声、さまざまな喧騒が耳に入る。ここは繁華街だからたくさん人がいて少し酔いそうだ。
『もうついたよ。二人は今どこにいる?』
2期生のグループチャットにメールを送る。
するとすぐに、ひるねから返信が来た。
『私もちょうど今着いたよ!!北口だよね?』
『うん』
『オッケーー!爆速で向かう!にゃ!』
ひるねのメッセージにいいねリアクションをつけた後、スマホをポケットに仕舞おうとしたその瞬間。
「玲〜ー!!久しぶりーーー!!」
「わっ!?」
目の前にさっきまでチャットをしていたはずのひるね__桃花が立っていた。
「桃花も、久しぶり!元気にしてた………みたいだね」
桃花は息を切らして、肩で息をしていた。ここまで走ってきたのだろう、四百四病の気配を一切感じさせない。
「玲と会えると思ったら、待ちきれなくて!」
満面の笑みを湛えて、僕に顔をぐいっと近づけて桃花そう言う。
僕は思わず仰け反ってしまう。桃花の顔が綺麗で、自分の顔がつい赤くなってしまうのがわかる。
「僕も会えて嬉しいよ………ちょっと近い、かも」
「あ、ごめんね!……ついつい、嬉しくて」
「あ、いや……嫌ではない………けど」
「え?」
「な、なんでもない!ほら、早くお店行こ?」
「う、うん」
ノアは急遽タクシーでお店に行くことになったらしく、私は桃花と一緒に歩いて先にお店に向かうことになった。ネオンライトが暗い夜空と対照的に輝いていて眩しい。
私たちがオフ会を行う予定のお店は、ザ・歓楽街といった通りから少し外れ、喧騒も少し落ち着いているところにあった。
お店に入ると、わいわいと賑やかな話し声が聞こえてきた。あと、少しアルコールの匂いもした。
「いらっしゃいませ〜」
「19時30分から3人で予約していた一ノ瀬です」
桃花が店員さんに確認をとり、僕たちは店員さんの案内のもと奥の個室へ。扉を開けてその個室へ入ると、スーツを着た綺麗なメガネのお姉さんがいた。
「ありゃ、舞香の方が早かった?」
「や、今来たところ」
その声で、メガネのお姉さんがノアだということを確信する。
「ノア、初めましてだよねっ!朝日ユイを務めてます、黒影玲です」
「…………ん、初めまして。ノアです。本名は松浪舞香。舞香って呼んで。よろしく」
差し出された手を、僕は両手で握り返す。僕の手よりもひと回り大きくてあったかい手だった。
「(リアルでもこんなにちっちゃくて可愛いなんて、聞いてない)」
「(言った通りでしょ)」
何やら二人がこそこそ話している。桃花がにやけた顔をしていて、舞香は照れている顔をしている。なんの話をしているのだろう?
「なんのお話してるの?」
「んー?えっとね、玲が可愛いって言うはなし!」
「か、可愛い……」
って何照れてるんだ、僕!
リスナーさんに散々言われても最近は照れることは少なくなってきたのに、こうして真正面で……しかも桃花に…言われるとやはり照れてしまう。
僕は男なのに……。何か大事なものが薄れていっている気がする………。
「と、とりあえずメニュー選ぼ?」
恥ずかしくなってきたので、話題を強制的に変えることにした。ここは中華料理屋さんで、メニューはどれも美味しそうだ。どれにするか迷うなぁ。
「私は決まった」
「僕も決まったよ」
「じゃあ店員さん呼ぶね〜」
桃花が店員さんを呼び、僕たちは注文を伝える。お食事が来るまで談笑していたが、話し込む暇もなくすぐにお料理が提供された。桃花と舞香はそれぞれお酒を頼んでいた。ちなみに僕はウーロン茶。
「すまいるほーむにかんぱ〜い!!」
「乾杯」
「かんぱーい!」
3人でグラスをコツン、と合わせ、それぞれぐびっと喉を鳴らして美味しそうに飲み干していく。
「………っぷはぁ〜〜!!これよこれ!」
「仕事終わりの体に沁みる………」
桃花と舞香のグラスからは、もうお酒がなくなっていた。グラスのサイズがあまり大きくないとはいえ、飲み過ぎじゃないか心配になる………が、二人の幸せそうな顔を見ると、まあいいかとなってしまう。
提供された料理はとっても美味しく、つい無我夢中に食べてしまった。僕が頼んだ天津飯もとっても美味しく、口に入れた途端とろける。
二人もパクパクと食べては飲んでを繰り返して、うまいうまいと言っていた。
「そういえばさー、皆んなはもう先輩の二人とリアルで会った?」
桃花が三杯目のグラスを掲げながら、僕たちに話題を振った。
「桃花は会ったの?」
「私はリン先輩と会ったよー」
「え………ど、どんな感じだった?」
「私も気になる」
「うーん…………なんていうかね、かっこいい人だった」
「かっこいい?」
「やっぱ企業立ち上げるだけの人は違うんだな〜っていう感想」
「へ〜………」
リン先輩は現実でも頼れる感じなんだろうなぁ。二週間後のコラボが楽しみだ。そんなことを考えながら目の前の天津飯を頬張ると、ふと舞香の視線がこちらに向いていることに気づいた。
「舞香、どうした?」
「右頬、ご飯粒ついてる」
テーブルを挟んで前に座る舞香は、僕にそう指摘した。二人の前ではしたないところを見せてしまった………。すぐに取らなくては、と思い手を伸ばす取り前に、舞香がすでに僕の右頬へ手を伸ばしていた。
そして、舞香は僕の右頬についているご飯粒をとって………食べた。
「え、え、え……」
「あ、ごめん。ついノリで」
いやノリでそういうことしないでよ!……とツッコミを入れようとしたが、よく舞香の顔を見ると顔が赤みを帯びていた。………さては酔ってやがるな。
「舞香ぁぁ???何してるのよーー!?」
僕の横に座ってる桃花は、なぜか鬼の形相で舞香を睨んでいた。
「ふふん」
「うらやま………じゃなくてはしたない真似はしないでよ!」
はしたなくてすいません………っていうか、桃花もかなり酔ってる……。隣を見ると、ジョッキが何杯も空になっていた。桃花は顔を赤くして、何杯目かもわからないジョッキをぐいっと飲んでいた。普通に心配です。
「あ、あの……二人とも、飲みすぎないでね?」
「大丈夫。心配してくれてありがと」
そう言いつつ舞香の持つスプーンは虚空を切っていた。
「桃花は優しいね〜!私も全然大丈夫だよ!!」
桃花は僕の腕を絡めながらそう言う。桃花の体は熱かった。
二人とも、多分大丈夫じゃないと僕は思った。




