表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/37

ひるねの始まり

 私、一ノ瀬・桃花は今年大学生デビューを果たした。といっても、大学は全然楽しくない。

 

 芸能人として大成した両親の遺伝か、自分で言うのもなんだが私はスタイルが良いし、顔立ちも良い。そのせいで中学校時代は周りの男は媚び諂うように近寄ってきて、女友達もできずにロクな学校生活を送れなかった。高校は女子校に入り楽しい青春を送れたのだが、大学はそうもいかなかった。

 流石にもう大学生だし中学の時のような事態にはならないだろう、なんて思っていたのだが、その予想は見事に外れてしまった。


「暇だな〜」


 大学生活が始まってはや一週間。私は誰もいない部屋の中でそう呟く。両親は放任主義……と言うより手が回らないだけ……なので、ほぼ私は一人暮らしだ。初めは寂しさや怒りを感じていたが、今となってはむしろ気楽だと思っている。


 私はスマホを立ち上げ、動画配信サイトを開く。誰か配信をしているvtuberを探すためだ。

 vtuberは私が中学の頃に見つけた趣味で、孤独だった私を癒してくれるどころか、彼女たちの健気な姿に勇気をもらえたのだ。


「あ、リンちゃん配信してる」


 まだ配信を始めて5分。ラッキーと思い配信を覗く。


『………とそんなわけで、今日はこの落ち葉を拾うゲームをやるんだけど……』

『実は今日告知があるんだよねー』


「告知?なんだろ………コラボかな?」


『なんと!私の後輩ができま〜す』


「ええっ!?」


 すまいるほーむに2期生ができるということか……!思ったよりも大きい告知が来て、思わず声を上げて驚いてしまった。


『来週から募集開始で〜す。リスナーのみんなもぜひ受けてみてね〜………』


 リンちゃんのその言葉に思わず、自分がすまいるほーむの2期生として配信をする姿を想像する。

 ……………私はすまいるほーむの募集に応募することを決意した。




 大学生活があまりにも退屈で、暇だったから。私が見てきたvtuberたちのように、楽しそうに配信する姿に憧れたから。中学生時代の私が元気づけられたように、私自身が元気づける側だったら。

 いろんな理由があって、とにかく私はvtuberになりたい、と言う意思が日々強まっていった。

 

 だから一次が通った時は、めちゃくちゃ嬉しかった。この時初めて、親譲りの声の良さとトーク力を感謝したほどだ。

 二次も通った時は、ジャンプするほど嬉しかった。これから私はvtuberになれるんだ、という期待に胸が満ちていた。

 

 あれよあれよと時間はあっという間に過ぎていき、もう私の初配信の日となった。私のアバターは可愛い猫娘で、ぴょこん、生えたもふもふの猫耳と愛嬌のある猫口が特徴的だ。

 マネージャーの花月さんから、「あなたの語尾はにゃんです」と言われた時は思わず「にゃんですと!?」と返してしまったが、今となってはこのキャラが大好きだ。

 元から私はもふもふのケモノっ娘が大好きだったし、自分がケモノ属性があると知った時にはとても嬉しかった。


「初めましてー!!猫夢ひるねだにゃー!!」


【ケモノっ娘!】

【可愛い〜〜】

【元気な子だ】


 花月さんから言われたことを意識して、なるべくはっきりと声を出す。そして笑顔で。

 初配信ということもあって緊張したけど、リスナーさんも暖かく迎えてくれたからか案外やりやすかった。ファンネームと配信タグ、ファンアートタグの三つをリスナーさんの提案から決めようとした時も、良い案がたくさん出てきたのでトントン拍子で決まっていった。

 なんなら次の朝日ユイちゃんの配信まで時間が余ってしまったので、少しリスナーさんと雑談するくらいの余裕もできていた。


 こうして私は無事に初配信を終えた。スマホに通知が来ていたのでディスコードを開くと、マネージャーの花月さんから「お疲れ様です。すごく良い配信でしたよ」時ていて、口元が綻ぶ。

 すぐに「ありがとうございます!」と返信し、そのまま2期生の3人と花月さんが入ったグループを開く。

 

『ひるねさん、良いスタートダッシュをありがとうございます。お次は朝日ユイさんです。頑張ってください』


『はい』


 花月さんの激励メッセージに対して、「はい」の返事だけ。………朝日ユイちゃんは、元気なロリっ子という設定だったはずだが、このユイちゃんは全然元気そうじゃないな。もしかして緊張しているのだろうか?

 私は知らない人に話しかけられたり、大勢に囲まれたりすることには慣れていたため、さっきの配信で5000人いたリスナーさんに対して気負うことはなかった。

 

 だけど、普通の人だったらどうだろう?ましてや、朝日ユイちゃんは高校生らしい。おそらく、5000人に見られる体験なんて初めてだろう。


 私はそんなユイちゃんの緊張を悟り__おせっかいかもしれないが__個人チャットに『ゆいちゃん、初配信頑張れ。なのにゃ』と緊張がほぐれるようにと思い打つ。

 すると、すぐに返信がきた。


『ひるねさん、ありがとうございます!初配信見ていましたが、とっても面白くて良かったと思います!』


 ああ、この子はすっごく良い子なんだな。…………もっと仲良くなりたい、なんて思った。


『見てくれてありがとなのにゃ。あと、タメ口で良いのにゃ』


 私はそう返す。気付けばもうユイちゃんの初配信が始まるまであと僅かだ。初配信前に個人チャットへ送ったのは少し迷惑だったかな、と恥じつつも、逆に初配信前にメッセージを送り合えるくらい緊張が解けたのかなーなんて思えば無駄ではなかったと思った。



 

『ではみなさん、また次の配信で会いましょう!さよなら!』


 ユイちゃんはそう締めくくり、画面が切り替わってサムネイルのイラストに軽快なBGMが流れる。ユイちゃんの初配信は無事に終わった。


「はぁ〜…………すっごく可愛かったなぁ………」


 まさかあんな可愛いロリが同期とは、私は一生分の運を使い果たしてしまったのかもしれない。一生懸命に配信を進めている姿はそれはもういじらしくて、庇護欲が湧き出た。 

 私はその日、これから始まるであろうvtuber生活に想いを馳せながら眠りについたのだった。


 

 

 ゆいは、本当にすごかった。vtuberとして配信も立派にこなすどころか、ゆいが可愛すぎて見てて癒やされるのだ。

 初配信以来私とゆいは度々メッセージを交わす仲になっていて、たまに通話に誘って一緒にゲームしたり、自分の悩みを聞いてもらったりしている。

 特に、私はゆいの一生懸命な姿勢が好きだ。好き、というより、私は一種の憧れのような感情を抱いていた。何事にも真摯に、一生懸命に取り組んでいる姿が眩しく見えるのだ。

 私は、周りの環境を変えようと努力したことがあっただろうか?このまま楽しくない大学生活を送ろうとしている。でもそんな選択をしたら、私は何も変われない、退嬰的な自分のままだ。そんなことを、ゆいに気付かされた。大袈裟かもしれないが、そんなゆいに自分は惹かれていったのだった。




 

 ある日、私はいつも通りすまいるほーむの事務所を訪れ、マネージャーさんと意見を擦り合わせていた。そこでちょうど私の同期であるノアちゃんと出会ったため、廊下で立ち話をしていた。


「いや〜また会えるとは幸運だね〜!」


「ん。私もそう思う」


 ノアとリアルで会うのは2回目だが、相変わらずの美貌に私は目を瞠る。何か特別なことをしているのかな?今度聞いてみよ。


「あれ、この後会議?」


「そう。もっと話したいのは山々だけど、もう行かなくちゃ」


「残念!また今度ね〜」


 ノアは首肯し、そそくさと会議室へ入っていった。するとすぐに、マネージャーの花月さんが「また遅刻ですか?」と問いただす声が聞こえた。どうやら常習犯らしい。


 用事も済んだのでビルから出ようとしたら、中学一年生くらいの女の子がキョロキョロしている姿を見かけた。mなんでこんなところに迷子が?と思いつつ、無視できないので声をかけた。


「君、こんなところで何してるのー?大丈夫?」


 するとその子はビクッとこちらの方を向いた。


「ひゃい!?だ、大丈夫です!」


 マイエンジェル………そこには天使がいた。この現実世界から隔離されたような尊さに、思わず吐血してしまった。「大丈夫ですか!?」なんて心配してくれるところも、可愛すぎる。

 何より、この声は間違いなく朝日ユイだ。あのゆいが、今目の前にいることが信じがたい。


「あ〜〜可愛い〜〜〜!!!」


 しまった。内なる衝動を抑えきれずにゆいに抱きついてしまった……。私臭くないかな……?っていうか柔らか!!ありえないくらい抱き心地が良い………! 

 はぁ………ここが天国か、と昇天しそうになっていたら、ゆいの「息ができない」というSOSが聞こえたため、慌ててゆいを離す。………温もりがなくなって寂しい。もう家に欲しい。


「ひるねこそ、か、可愛いよ?」


 んぐっ………ゆいに可愛いって言ってもらえるなんて〜!「可愛い」なんてもう飽きるほど言われてきたけど、ゆいに言われると心の奥がジーンと熱くなる。思わず血を吐いてしまうほどに。

 

 ああ、本当にゆいに会えて良かったなぁ。なかなかリアルで会おう、と誘えずに悶々としていたけど、こんな形で会えるなんて。私はこの幸運を噛み締めた。

 そしてこの機会を逃すわけにはいかないと思い、半ば強引にゆいを喫茶店に連れ込むのであった。



 ちなみにその後、ゆいから「実はもともと男の子だった」というよくわからないことを言われ、私は宇宙猫のような顔をしてしまった。経験上男性が少し苦手だったから、男というワードが出て少し体が硬くなったが、相手はゆいだし何も緊張することは無いな、と思い直し弛緩した。

 さらに、男の子の時だったというが写真も見せてもらったのだが、ほとんど今と変わらなくて紅茶を吹き出しそうになったのは言うまでもない。

 

 私たちは雑談を楽しみ合い、後ろ髪をひかれる思いで解散した。


「頼りにしてるからねっ!桃花!」


 と言われた時には、本当に幸せだった。私はそれで調子に乗ってしまい「またね、玲!」なんて言ってしまったが、「うん!またね〜桃花!」なんてニコニコで言われ、今まで感じたことのないほどの幸せに腰が抜けそうになってしまった。

 …………うん?ちょっと待てよ。私はゆい、もとい玲が乗っていった電車を見送りながらある考えを思いつく。

 玲はTSした、つまり心は男の子ということなんだよね?なら、恋愛対象も女の子なのでは……?

 不純にも、私と玲が一生涯を寄り添う想像をしてしまう。………ふふ……やばい……思わず口元が綻んじゃう。


 まずは友達から、ね。

続きが見たい!!って方やそうでない方も

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします!

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた感想をお願いします。今後の糧にします!


何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ