表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/37

二人と水族館に行ってきた(上)

「おお〜すご〜い!」


 杉山が堪らず感嘆する。

 それもそのはず。駅から出た僕たちは、この豪華絢爛な建物を目の前にしてただ息を呑むことしかできないでいた。


「すごいわね」


 柊は口ではそう言いつつも、視線は僕たちの方に向いていた。過去にここに来たことがあるのは明らかで、僕たちの表情を楽しんでいる。やっぱり柊のお家ってお金持ちなのかなぁ?


「黒影っち、明美、早く行こう!」


 そう言いながら、完全にはしゃいでいる杉山は僕の手を引っ張る。あ、あったかい………。


「あ、あんまり走ると周りの人に迷惑かけちゃうよ?」


「たしかにー」


 僕がそう宥めると、杉山は急に立ち止まった。


「ぐへぇ」


 そのせいで、彼女の背中に僕の鼻をぶつけてしまった。………痛い。


「急に立ち止まんないでよぉ」


「ご〜めんねっ!」


「だいじょ〜ぶだよ〜!」


「あなたたち本当に高校生よね……?」


 三人ではしゃぎ、喋りながら駅から歩くこと約5分。僕たちは目的の豪華絢爛な建物、水族館に着いた。


 僕たちが自動ドアを潜ると、冷房の冷気が一気に体温を下げる。家族連れやカップルの姿がちらほらと見え、チケットを売る窓口にはそこそこの人数が並んでいた。


「結構並びそうだね………なんか飲み物とか買ってこようか?」


 僕がそう提案する。二人の手荷物を見ると水筒は持っていなさそうだし、二人に何かしらの貢献をしたかったからちょうど良い。ここの水族館に行く電車の時間とか、効率的に見れるルートを二人が検索してくれていたので、僕も二人みたいに貢献したくなったのだ。


「確かに外にコンビニがあったわね。私も行くわ」


「じゃあ私も行く〜!」


「菊は並んでなさいよ」


「僕が一人で行くから二人は待ってて大丈夫だよ」


「でも……一人で行かせるのは流石に……」


「じゃあ、今度何か奢ってもらうってことで!これでおあいこでしょ?」


「仕方ないなー!あれ買ってきて!ヨ○グリーナ!お金は後で払うよ」


「………私は、伊右衛門で。玲、気を付けてね」


「おっけ〜!買ってくるね〜」


 僕はお使いを果たすために、意気揚々と外のコンビニ向かったのであった。



「本当に玲は大丈夫なのかしら………」


「はじめてのおつかいを見守るお母さんかっての」


 思わず私はそうツッコミを入れてしまう。

 玲がいた場所にはまだ微かに玲の芳しい匂いが残っていて、それを不意に嗅いでしまうとなぜか変な気持ちに__って、やめやめ。今の私、すごく気持ち悪かった。


「でも黒影っちは可愛いしなぁ。ナンパとかされかねないなー」


 事実、黒影っちはとても可愛い。同性でも惹かれるほどだ。だから、明美の心配もわからないことはない。変な男どもが寄り付くかもしれない可能性は大いにあるのだ。


「玲にナンパする男?……見つけ次第揉み消すとするわ」


「こわっ」


 明美の瞳のハイライトがなくなっていた。怖すぎる。彼女の場合、本当に揉み消せるだけの権力を持っているから余計に恐ろしい………。あたりの気温が下がり、余計怖くなってきたので私は話題を変えることにした。


「そ、そういえばさ、今日も黒影っちの服装、可愛かったね〜」


 咄嗟に口に出た話題。自分で言っておいて、「私何言ってんだ」って思うような話題だ。

 しかし、どうやら明美には効果があったらしい。あたりの気温が元に戻った気がする。


「そうね。すごく可愛らしかったわ…………」


 明美は今日の玲を思い出しているのか、うっとりとした表情になる。


 と言っても、別にブランド品を着ているとかそういう訳ではなく、着ている服は普通だ。

 それなのに素材が一級品すぎるせいで、どこかモデルさんを彷彿させる雰囲気が纏われるのだ。


 今日の朝なんか、黒影っちは私を興味深そうに頭から足までじっくりと見た後__その時、言うまでもなく私は顔から火が出るほど恥ずかしかった__『杉山は今日も可愛いねっ!』とへらぁと笑いながら上目遣いで言われてしまった。

 これでときめかない女の子がいようものなら連れてきて欲しい。


 それからも明美と黒影っちの魅力について語り合っていたら、私たちに受付の順番が回ってきた。


「三人分で。お願いします」


「はい、ありがとうございます」


 チケット三人分の料金を払い、窓口のお兄さんからチケットを受け取る。

 まだ黒影っちは帰ってきていないので、入口付近のわかりやすいところに立って黒影っちを待つことにした。


「最初はクラゲコーナーから見て、次はチンアナゴコーナーだったっけ」


 柊にスケジュールの確認をする。私は柊と、今日に至るまで入念にスケジュールを組んだ。全ては、黒影っちを楽しませたいため。あの可愛い笑顔を摂取したいため。共通の目的を持つもの同士、作業は非常に捗った。


「そうよ。その後は深海魚コーナーよ」


「黒影っち、どんな反応するかな〜?」


 いろんな表情の黒影っちを想像し、つい口角が上がってしまう。


「そうね……アンコウとか見たらどんな__あ、玲が帰ってきたわ」


 え?と思って入り口を見てみたけど、まだ黒影っちはいなかった。ついに明美がおかしくなっちゃったのかー、なんて思っていたら、数十秒後に黒影っちがコンビニから帰ってきた。

 ………明美って超能力者だったっけ。


「二人とも〜!買ってきたよ〜」


 黒影っちは満面の笑みを湛えながら、前に背負ったバッグからキンキンに冷えてそうなヨーグリーナと伊右衛門を取り出す。


「はいっ、ヨーグリーナ!こっちの伊右衛門は柊ねっ!」


 黒影っちは、満面の笑みで私にヨーグリーナを手渡ししてくれた。うん、天使かな?

 柊も伊右衛門を握りしめて鼻血が出るのを必死にこらえていた。柊の限界化はいつ見ても新鮮で面白いなぁ。


「ゴキュゴキュ………ぷはぁ!うん、やっぱり美味しいね〜。黒影っちありがとね〜!」


 私が豪快に飲み、黒影っちに感謝の言葉を述べると、彼女は照れたように顔を背けてしまった。

 

 ………なんなのこの可愛い生物〜〜!!!一生守りたいー!なんて思ってしまうほどの破壊力があったのは、言うまでもない。うん。



 杉山が小気味の良い音を立てて、僕が買ってきたヨーグリーナを飲む。ただ飲むだけの動作なのに、異様に魅力的に感じてしまうのは僕だけなのだろうか。


「黒影っちありがとね〜!」


 そんな邪なことを考えていたら、唐突に杉山からお礼を言われて思わず吃る。ただでさえ中学の時は女の子と喋る機会は少なかったのに、こんなに笑顔で感謝されたら…………僕、変な勘違いしちゃいそう……。

 整った眉と鼻、可愛らしいおめめ。至近距離で見ると、いやが上にも楚々とした顔立ちが窺える。

 顔が赤くなるのを感じ、僕は咄嗟に顔を背けてしまった。


「じゃ、じゃあ。早速中入ろっか?」


 僕は誤魔化すように、二人にそう提案する。


「そうしましょう。入り口でこれ以上いちゃつくのも不毛だわ」


「明美ー?嫉妬ですかぁ〜?」


 杉山がケラケラ笑いながら柊を煽る。それが見事に柊の琴線にふれ、杉山は羽交締めを食らっていた。

 猫が二人シャー!と戯れてる感じで、とても微笑ましい。僕は表裏がない二人の仲を羨ましく思った。


「黒影っちー!!微笑んでないで助けてぇ……グハッ!アップアップ!」


「人目もあることだしこれくらいで許してやるわ」


「それでもお嬢様か……」


「それ以上言ったら本当に首絞めるわよ」


 柊が笑顔で首をキュッと絞める動作をする。あれ?冷房こんなきつかったっけ?寒くなってきた………。僕は杉山と揃って身を震わせる。


「そ、それより早くお魚見ようよー!」


「あ、そうだったわね」


「実は…私たちで行動ルート決めてきたの!」


「え!?すごい……じゃあ僕は2人について行く感じ?」


「そうね。きっと貴方も楽しめるんじゃないかしら」


「じゃあさっそくれっつごー!」


 


 僕がまず最初に連れてこられたのは、クラゲコーナーだった。


「「「…………」」」


 縦長の大きい水槽に光るクラゲが立ち上っていて、その光景はまさに筆舌に尽くし難いものだった。佳景を目の前にして、僕たち3人は感想を言い合うこともなく、ただただ目を奪われていた。

 周囲の人達からも、「わぁすごい…」「やばぁ…」なんて呟く声が聞こえる。みんな語彙が消失していて、その様はこのクラゲゾーンの素晴らしさを表していた。


 それからいつぐらい経ったのだろうか。一概にクラゲといっても、よく見たらみんな個性があって、見ていつ飽きない。僕みたいなとろいやつもいれば、杉山みたいに活発なやつも、柊みたいにお淑やかなやつもいる。


「………………次行く?」


 ずっと見上げていたせいか、首が痛くなってきたことに気付く。


「うん、そうしよっか」


 僕は首を回しながら、同意する。後ろ髪を引かれる思いだが、この水族館の見どころはクラゲだけではないのだ。


「そうね。これが一番最初に見れて良かったわ」


 柊は、なおもクラゲたちに視線を向けつつも、そう言う。


「最初はここまで力入ってるなんて思ってなかったもんねー。良い意味で読みが外れたねっ明美!」


「そうね!玲はどうだったかしら?」


「すごかった………クラゲがぷかぷか浮いてた……」


 なんと言ったら良いかわかんなくて、つい幼稚園児みたいな回答になってしまった。恥ずかしい………



 次に杉山に手を引かれた入ったコーナーは、チンアナゴたちがいっぱいるゾーンだった。さっき見た、静謐な雰囲気のクラゲゾーンとはまた趣が変わっていて、今後は可愛らしい感じのゾーンだった。そのせいか周囲を見渡すと女性が多く、楽しそうに写真を撮っている人が多かった。


「わ〜かわいい〜〜!」


「か、可愛い………」


 杉山も目を輝かせて、チンアナゴを食い入るように見ている。その隣にいる柊も、チンアナゴから目を離せないでいる。

 …………チンアナゴって可愛いの?正直、よくわからない。動きは面白いけど、可愛いかと言われると……ちょっと違う気がする。だけど、二人とっては可愛いらしい。

 

 僕にとっては、目を輝かせてチンアナゴを見つめる二人の方が可愛らしいけど。


「黒影っちも見て!この子の動きがすっごく可愛いの!」


「玲!この子、特に可愛らしいわよ!」


「う、うん。すっごく可愛いね」


 びっくりした。可愛らしいなーと思って見つめていた杉山と柊が、突然振り返ってきて心臓が止まるかと思った。

 

 …………うん、確かによく見てみれば、チンアナゴも可愛い。特に、二人が指したチンアナゴが可愛い。なんというか、動きに愛嬌がある。


「黒影っち?視線が泳いでるけどなんかあった?」


「え!?いや、まさかそんなことはありませんよ……へへ………」


「絶対なんかあったでしょ……ま、いいや」


 危ない危ない。まさか、二人を可愛いなんて思って見つめていたなんて口が裂けても言えない………。

 二人とも、不純な目で見てすみません……。

 僕は心の中で、手を合わせて謝ったのであった。

続きが見たい!!って方やそうでない方も

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた感想をお願いします。今後の糧にします!

リアクション・誤字訂正、執筆の励みになります。ありがとうございます!


何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ