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花凛がバスケ部らしいです

ピッ。ピッ。


 無機質な音が店内に響く。

 もう閉店なので、彼が最後の客だ。外を見ると、すでに真っ暗だった。


「合計で1650円になります」


「WayWayで」


「こちらのQRコードをスキャンして、1650と入力してください」


「はい」


 お客さんが、WayWayの決済画面を僕に見せる。


「はい、ありがとうございます」


 お客さんが「決定」と書かれたところをポチッと押すと、「ウェイウェイ♩」と陽気な声が流れる。

 お客さんは買った商品をどこか疲れた表情でレジ袋に詰め、詰め終えたそれを手に下げる。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております!」


 僕はとびっきりの笑顔で彼を見送る。これで彼の疲労が少し取れると良いな、なんて思いながら。

 彼はほんのり顔を赤くして軽く会釈した後、自動ドアをくぐって店を後にした。


「まーた私の玲くんは男を誑かしてる………」


 すると、隣のレジをやっている花凛から呆れ顔でそう言われる。


「誑かすって………僕にそんな魅力は無いし、ちょっとでも元気づけようと思っただけだよ」


 そう言いながら僕はレジの精算をする。

 

「魅力が無いなんてことはない〜!だって女の子になってからさらに色気が増したもの〜」


「僕に色気はなくて良いのっ!」


 花凛には、僕が女の子になってしまったことを伝えた。この先バイトを続けるなら柊と杉山が受け入れてくれたこともあってか、僕は花凛に拒絶されるわけないなんて思っていたからだ。

 案の定、拒絶はされなかった。「おっぱいもついてるなんてお得だ〜」なんて変なことは言われたけど。花凛は僕が思っている以上にどすけべの変態さんなのかもしれない。


 僕たちは雑談をしながらしっかり勤務を終え、店長さんにさよならを言って帰路についた。


「あれ、花凛は学校帰りに来たの?」


 着替え終わって店から出てきた花凛を見てそう言う。


「そうだよ〜。部活部活〜」


「へ〜………何部に入ってるの?」


 勝手に卓球部とかかな、なんてあたりをつける。彼女はおとなしそうに見えて意外と活発だし、文化部系かと言われるとちょっと違うような気がするのだ。


「女バスだよ〜言ってなかったっけ?」


「え!?バスケ部………バスケ部!?」


「何よその反応!私これでもバスケ部のエースなんだよぉ〜」


 えっへん!と自慢げにそう胸を張る花凛。ホントかなぁ……


「というか、花凛って平日とかにも結構バイト入れてたよね?バスケ部って練習ハードなんじゃないの?」


「うん。ほぼ毎日ある〜」


「行ってないの!?」


「だってめんどくさいんだも〜ん………顧問が嫌いだし〜」


「バスケ部のエースとは………」


 僕は思わず呆れてしまう。

 これで本当にバスケ部のエースだとしたら、花凛って実はものすごい選手なの?


「ねえ、その制服って北高校だよね?バスケ部のエースなら、試合とかにも出るんでしょ?」


 あれ、そういえば北高校って……図書館で出会った水華も北高校だったような。今度聞いてみよう。


「なになに〜?私の試合が見たいの〜?」


「うん!みたい!」


 僕は目をキラキラに輝かせて、大きく頷く。

 のんびりしていてマイペースな花凛がバスケ部のエース。これで気にならない人はいないだろう。それに、花凛が活躍している姿も見てみたいのだ。


「そうねぇ………確か今週末に西高校との……一年だけの親善試合がウチであったはずだわ〜。他校の人も入れるから、玲くる?」


「うん!絶対行く!」


 今週末の日曜は何も予定がない!ラッキー。

 僕はかりんがバスケをしているところを想像しながら、うきうきで家路に着いたのだった。


◇◇◇


 そんな訳で僕は今北高校の体育館にいる。家で調べたのだが、北高校はバスケ部が強いらしく、よくこの体育館で試合をやるそうだ。それもあってか、観客席がある珍しい作りになっている。

 どこに座るか迷ったが、せっかくだし最前列でしっかり応援することにした。僕は最前列の真ん中の席に座り、早速観戦を始める。


 といってもまだ試合は始まっていない。北高校と西高校、両者ともにウォームングアップをしていた。

 僕は北高校側の練習を見る。肝心の花凛は………あ、ベンチ付近にいる。見慣れたショートカットとダルそうな目つき。間違いない。彼女はどうやら伸びをしているみたいだ。


 お、ようやくボールを取ったぞ………。彼女はダムダムとボールをつき、他の部員たちとドリブルを始めた。今のところ、他の部員たちと大差はないように見えるけど、本当にエースなのかなぁ………?

 

 でもよくみたら花凛だけ全然息が上がっていない。それに、他の部員たちによく話しかけられている。彼女は笑顔でアドバイスをしていた。姉御肌な感じでかっこいいなぁ………。もしかしたら本当にエースなのかもしれない。




「それでは只今より、北高校対西高校の親善試合を始める!」


 練習を見ているとあっという間に時間が経ち、もう試合開始の時刻だった。両高校気合の入った面構えで相手を捉えていた。………花凛を除いて。


 彼女、僕がいることに気づいてからめっちゃいらないファンサをしてくる。現に今もめっちゃ笑顔で手を振ってくる。頼むから僕のことは忘れて試合に集中してください………


「おい、俺に手振ってるぞ!」

「バッカ俺に手振ってんだよ」

「宮本もついに俺の彼女か!宮本ー!」


 後ろの男子高校生たちがギャアギャア騒いでいるが、花凛は男子たちから好かれているのかな?

 まあ確かに花凛はすごく可愛いし愛想も良いので、モテるのも当然だろう。



 ジャンプボールをする選手が出てくる。北高校の選手はすごく身長が高い。

 ………何食べたらあんなおっきくなれるんだろ。

 そして審判がボールを投げる。すると案の定、北高校の選手がそれを制した。最初の攻撃は北高校からだ。


 組み立て役の女の子が、ゆっくり状況が整うのを待つ………そして相手の許をついた鋭いパスが花凛に渡る。

 おおっ、花凛にチャンスが!なんて思っている隙に、彼女はすでにシュートをしていた。ダイブリングから遠いけど、本当に入るのかな………


 すぱっ。


 そんな僕の心配は杞憂に終わる。心地よい音を立てて、ボールがリングに入る。


「「「おおおおお!!!!」」」


 あまりに綺麗な3Pシュートに、会場がざわめく。北高校側の応援団は、してやったり顔で押せ押せコールを始める。


「ナイス花凛!」


「宮本ナイス」


 チームメイトとハイタッチを交わしながら、花凛はさっさと守備に戻っていた。


「花凛ないすっ!」


 僕も会場の熱気に乗じて花凛を応援する。決して大きくはない声量だったはずだが………花凛はしゅいん!と顔をこちらに向けたあと、デレ顔なってしまった。………なんで聞こえたんだろう?地獄耳すぎない?


 その隙に、花凛のマーク相手がドリブルで華麗に抜き去る。


「「あっ」」


 そしてそのまま相手の選手は綺麗にレイアップを決める。


「おい花凛!」


「宮本守備しろ!」


「どこ見てんだ宮本ーー!!はっ倒すぞーー!!」


 今度は一転、チームメイトから非難される。そしておまけにベンチから怒号が飛ばされる。おそらく顧問の声だろう。花凛はしゅんとしてしまった。僕のせいでもあるので、僕も少ししゅんとしてしまった。



 

 すぱっ。


 何度聞いても気持ち良い音で、再び花凛のスリーポイントシュートが決まる。その度に会場がわぁっ、と湧く。

 西高校は、大差をつけられ、辛酸を舐めていた。


「すごいぞあの子………!!本当にスリーを外さないなぁ!」


 横に座っているちょび髭のおじさんが、心底感嘆したような声で独りそう叫ぶ。

 素人の僕でもわかる。花凛は本当にエースなのかもしれない。どこか飄々としたプレイにも僕は目を奪われていた。


「花凛………宮本花凛さんは、上手いんですか?」


 僕は隣のおじさんに、そう聞いた。いかにも素人っぽい質問だが、気になったのだ。


「もちろんだ!彼女は今ホットな選手の一人だよ」


「それってつまり………花凛の実力は全国でも通用するレベルってことですか?」


「ああ。彼女に敵うスリーポイントシューターは数えるほどしかいないと思うよ」


「はぇ〜………」


 思わず間の抜けた声が漏れる。まさか同僚がこんなにバスケが上手いなんて知ったら、誰でもこんな声が出るだろう。


「君は宮本選手と親密な仲なのかい?」


 今度はおじさんにそう聞かれた。途中から下の名前で呼んでたからかな。


「友達です。同じバイトなんです」


「え?彼女バイトをやってるのかい?………練習にほとんど出ないと聞いたけど、本当にそうなんだな……それでこんなにハイレベルなのか?………」


 花凛がバイトをやっていると伝えると、おじさんは何やらぶつぶつ呟き始めて、自分の世界に入ってしまった。


 そんなおじさんを横目に試合観戦をして、はや30分経ったか。審判が今まさに試合終了の笛を吹こうとしていた。

 西高校は最後に、苦し紛れのシュートを打つが、高身長の子に阻まれてそれすらも叶わず。


ピピーー


 と笛が鳴り、ついに試合が終わった。北高校は西高校に20点差以上をつけての大勝だ。

 花凛は前半の二クウォーターだけ出ていて、試合の後半はベンチで偉そうな感じで試合を観戦していた。


 その後両チームはお互い礼をして親善試合は終了。観客席からちらほらと退出する人が見える。僕も体育館を出て、せっかくなので体育館の裏で花凛を待つことにした。

 LIMEを開き、その旨をかりんに伝える。


『花凛、体育館の裏で待ってるね。急がなくて良いよ』


 すると、すぐ既読がついた。


『今すぐ行くよ〜!』


 ん?普通試合が終わった後とかって、ミーティングとか反省会のようなものがあるんじゃないのかな?

 やけに既読も早いし。


「玲〜!待った〜?」


「ひゅぉ!?」


 驚きすぎて変な声が出てしまった。さっきラインが送られてからまだ1分も経ってないのに、そこにはもう花凛がいた。


「一緒に帰ろ〜」


「もちろん良いけど………ミーティングみたいなのはないの?」


「ナイナイ」


 花凛が棒読みでそう返す。これ多分サボってきたやつだな………。

 そう思いつつ、僕たちは並んで歩き始める。


「私のバスケはどうでしたかぁ〜?エースだったでしょ〜?」


「すっごくエースしてたよ!かっこよかった!あんなにスリーポイントってポンポン入るもんなんだねっ」


 僕は思ったことをそのまま花凛に伝える。


「あ、うん………ありがとう…………(そんなに褒めてくれるとは思わないじゃない〜!)」


 すると花凛は何やら顔を赤くしてもじもじしてしまった。


「でもね………私、今年でバスケ部辞めるつもりなんだ〜」


「……え!?あんなに上手いのに、辞めちゃうの……?どうして?」


 彼女はいきなり真剣な顔つきになった。


「実は私、上手すぎるせいで先輩たちから疎まれてるんだ〜。悪い雰囲気にしたくないし、そこまでして行く必要もないしね〜。それに、他にやりたいことができたんだ〜」


 他にやりたいこと。なんだろう?気になったが、いちいち聞くのも野暮かと思い踏みとどまる。


「……花凛が決断したことなら、僕はそれを尊重するよっ!」


「ありがとう〜〜!……………もう私が求めていた、中学の頃のバスケは無いみたいだしね」


 そう呟く彼女はどこか寂しげで、でもその瞳には決意の炎が宿っていた。

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