どこにお出かけするのかを決めるためのお出かけ
「これより作戦会議を開始する…………この会議の内容を口外したものには………わかっておるな?」
荘厳な雰囲気が辺りを包む。僕は思わず、ごくりと唾を飲み込む。
「例の『作戦』のことじゃが___」
「あんたいつまで茶番やってるのよ。そろそろ料理頼むわよ」
「あ痛っ」
柊が杉山の付け髭をブチっと取る。テープかなにかで貼るやつだったらしく、予想外の痛みに杉山が悶えている。
「明美の鬼畜〜〜ひどいー」
杉山がブーブーと文句を言っている。
「どう?似合う?」
その横で僕は杉山から剥がされた付け髭を拾い、つけてみた。
「あはは!!黒影っち似合ってるーー!」
「玲まで……………」
柊ががっくしと肩を落としてしまった。心なしか彼女の顔に披露の色が見えた。
今、三人でどこかお出かけに行くか決めるための会議をしている。場所は打ち上げ会にも使ったファミリーレストラン。辛い味のチキンとローマ風のドリアが看板商品だ。
「じゃあもう頼んじゃうね。お腹すいちゃった」
「あなたも大概自由ね」
呼び出しベルを鳴らすと、ピンポーンと音が鳴る。そしてすぐに店員さんがやって来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「マルゲリータ、単品で一つください。二人は何にする?」
「ペペロンチーノ、あとドリンクバーもお願いします!」
「私は……ラム串とこのペンネアラビアータを。単品で結構です」
「はい、ありがとうございます。すぐにお持ちしますね」
そう言い残し、店員さんは去って行った。
「さあ、これで食べて帰っただけじゃわざわざ集まった意味がなくなるわ。本題に入りましょう」
「もちろん。本題に入ろうか」
「やっぱりここに来たからにはこれっしょ!」
「「間違い探し!!」」
僕と杉山の声がハモる。サイゼなリヤに来たからには、間違い探しをしなくては何も始まらない。これこそが今日の本題だ。
「一緒に間違い10個見つけよ!」
「ここ、おじさんの口角が右の絵の方が上がってる!」
「最初そこ気付く!?黒影っち捻くれすぎでしょ〜」
あはは、と杉山が楽しそうに笑う。
「絶対最初に見つけるのこれでしょ!窓の形が違う!」
「あ、窓の外にある太陽の形も違う!」
「この男の子の指の挿してる方向が_____ってちがーーう!!」
柊が声を張りあげる。周りのお客さんに迷惑にならない範囲内で。
にしても、男の子の指が微妙に違うのは流石に分からなかったなぁ。
「柊、よくそんなところに気付いたね」
「ありがとう………けどそうじゃない!どこにお出かけするか決めるんじゃなかったの!?このままじゃお出かけはナシになるわよ」
「えーーやだーー」
「じゃあ尚更真面目にやるわよ。パパッと決めましょう」
「水族館…とか?」
「ほら、菊も玲を見習いなさい………何で私が母親みたいになってるのよ」
「はーい………となればやっぱ遊園地っしょ!」
「柊は?どこか行きたいところある?」
「そうね………私は……正直、二人と一緒ならどこでも楽しいわ」
柊は顔を赤ながら、ギリギリ聞き取れるくらいの小声でもじもじと言った。
………あまりのその動作が可愛くて、僕はついキュンとしてしまう。
「い、いきなりそういうこと言わないでよ!照れるじゃん!」
「別に私は本心を言っただけよ!」
杉山が照れたかと思うと、二人はいつも通り言い争いをし始めた。
変わらないなーなんて思いほっこりしていたが、よく見たらいつもはボカスカという感じなのに、今はぽこぽこという感じだ。
………さては二人とも照れちゃてるな?
「ふふ………二人とも仲が良くて羨ましいよ」
「黒影っちー?どこがそう見えるのかなー!?」
「あなたそれは皮肉かしら??」
「な、なんでー!?」
なぜか二人にドスの効いた声で詰められた。なんでぇ………
そんな僕に助け舟を出すかのように、さっきの店員さんがほかほかの料理を携えて再びやって来た。
「お待たせしました。こちらマルゲリータ、ペペロンチーノ、ペンネアラビアータ。そしてラム串です。どうぞごゆっくりとお過ごしください」
カタリ、カタリと次々に料理がテーブルを埋める。その度に美味しそうな匂いがしてたまらない。
彼女は軽く会釈すると、厨房へ戻っていった。
この黄金の如く輝く料理を前に、僕たちは一斉に飛びかかる。
「「「いただきまーす!」」」
僕はピザについてきた小さいピザカッターを手に取り、マルゲリータを六切れに分ける。
切り分けている間、前に座る杉山がするするっとペペロンチーノを美味しそうに吸うのを見てしまい、思わずお腹が鳴る。
「うう〜ん!やっぱりここはペペロンチーノしか勝たん!」
杉山が幸せそうな顔でそう唸る。
「あなたいっつもペペロンチーノよね。そんなに美味しいのなら、今度頼んでみようかしら」
柊がフォークにペンネを刺しながらそう言う。
「僕も気になるなぁ」
ピザを切り終えた僕はピザカッターを置き、ピザを一切れ取るとビヨーンとチーズが伸びる。
「わぁ、すごい」
「美味しそ〜〜」
「ピザも良いわね」
まだ粘り強く切れないチーズをフォークで絡め取り、まとめてピザの上に乗っける。そしてそれを口に運ぶ。
トマトソースの酸味と、チーズのコクが見事に調和されている。そう思った刹那、バジルの爽やかな香りが鼻を突き抜け、僕は思わず呟く。
「美味しいぃ………!」
ここのマルゲリータは初めて食べたが、安価なのにこんな美味しいなんて衝撃的だ。
一切れ目を飲み込んだかと思ったら、もう二切れ目に手が伸びていた。
右手が勝手に伸びていく!この強欲な右手めっ!
「ふぇっかくだしどっひも行かない?」
杉山がペペロンチーノを啜りながらそう提案する。ピザに気を取られすぎていて一瞬なんの話かわからなかったが、ああ、遊びに行く場所の話ね。
「まあ確かに、一つに絞る必要もないわね………っん!」
と、柊。なかなか串から離れないラム肉に苦戦している様子だ。
「じゃあ遊園地と水族館、どっちにも行くってことで決定?」
「オッケー!」
「了解」
遊園地と水族館どっちにも行くとなると、やはり結構な金額のお金が必要になるなぁ………。ま、どっちにしろ夏休みはバイト増やすし、その分くらい賄えるだろう。
僕はマルゲリータをもぐもぐと食べながら、夏休みの日程を組み立てるのだった。
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