図書館での出来事
今日は月曜日。………と言っても学校はない。そう、夏休みが始まったのだ。
せっかくだし外出したいと思うかもしれないが、太陽が燦々と輝き、外に出れば地獄のような暑さで一人で外出する気は失せる。
そんな訳で家に閉じこもっていたのだが流石に怠けてばかりは良くないと思い立ち、光熱費の節約も兼ねて僕は毎日どこかに出掛けるルーティーンを作ることにした。
といっても、毎日出掛けるような場所はそうそう限られる。
毎日カフェに行こうものならお金がかかるし、学校に行ってもやることはない。クーラー効いてないし。そう考えていると、僕は最適の場所を思いついた。
僕の家から歩いて15分程度の場所に、そこそこの大きさの図書館があるのだ。
図書館ならばクーラーが効いていて避暑にもなるし、無料でいろんな本も読める。図書館、最強なのでは?
「ふんふんふ〜ん♩」
そうと決まればすぐ出発するしかない。
僕はパジャマから動きやすいTシャツと半ズボンに着替え、真っ黒のキャップをかぶって外に出た。
ウィーン。
ハイテクな音を鳴らして自動ドアが開き、僕は図書館の中に入る。
「はぁぅ………涼しい〜」
図書館の中に入った途端、冷気が流れ込んで一気に体の熱を冷ます。冷房がよく効いていて、ここが極楽だと勘違いしてしまいそうになる。
中を見渡すと、僕と同じようなことを考えた学生がちらほら見えた。
奥にある長机には数人が座っていて、参考書を広げる人、スマホをいじっている人、本を読んでいる人など三者三様な過ごし方をしていた。
「なーに読もっかな〜」
せっかく来たんだし、いっぱい本を読んでお得な気持ちになりたい。かといって小難しい本は性に合わないので、何か面白そうな物語を探していた。
う〜ん………どれも面白そうで悩む。
この『僕の飼い猫が探偵だった』とかすごく気になるけど、こっちの『子猫は我が道をゆく』も面白そう。
というか、このあたりにある本は全部面白そう。
何を読もうか、と顎に手を当てて唸っていると、後ろから声をかけられた。
「………も、もしかして読みたい本がないの?」
「は、はいっ?」
まさかは図書館で話しかけられるとは思わず、声が裏返ってしまう。
振り向くと、ハッとした顔の女の子が立っていた。
「あ、ご、ごめん………その、決して怪しい者では………」
彼女から話しかけてきたのに、しどろもどろな様子になっていることに僕は当惑してしまう。
「えっと………うん、読もうと思っている本が多くて逆に迷ってるんだ」
すると、彼女の表情に光が射した。
「や、やっぱりそうなの?……このあたりのゾーンの本はどれも面白そうで迷うよね……!」
ここの図書館の常連なのかな?彼女は本棚の上から三段目の列にある本を目ざとく見つけ、迷うことなく背伸びをして取った。
「まずはこれを読んでみてはどうかな!?『近所の野良猫と愛を育んだら何故か魔王になった』!この本の魅力は一概に語れるものではなくてね、まずこの物語の設定が面白くて、タイトルを見ただけじゃなんの本か全くわからないと思うんだけど………」
「ステイステイ」
急に早口に………。あまりの読書愛に気圧されてしまう。
「あ、ごめん………つい癖で」
「いや、大丈夫………それよりその本、読んでみてもいいかな?」
彼女の熱情的なスピーチに興味を惹かれ、つい読みたくなってしまった。僕がそうお願いすると、彼女はぱあっとお花が咲いたような笑顔を見せ、
「もちろん!はいどうぞ!」
と言って本を渡してくれた。
僕は本を受け取り、彼女に質問を投げかける。
「本が好きなの?」
彼女は即答した。
「うん。よくここに通ってるんだ」
そう彼女は言い、屈託のない笑みを浮かべた。か、可愛い………。
改めて彼女を見てみると、隣町の高校の制服を着ていた。てっきり僕と同じくらいの身長だから(認めたくないけど僕の身長は小さい)、中学生くらいの子かと思って砕けた口調で話してしまった。
髪は長くぼさぼさだが、髪質はさらさらで見惚れてしまう。丸メガネもよく似合っている。
「お家から最寄りの図書館がここなんだ。あなたはここに来るの初めて?」
「うん。せっかくの夏休みだし来てみようと思って。えっと………」
そういえば名前を聞いていなかった。なんて呼べば良いか、と思案していると、彼女がそれを察してくれた。
「私の名前は………曙 水華。水華って呼んで。」
「いい名前だね、水華。僕の名前は黒影玲。呼び名は黒影でも玲でも黒影っちでもブラックシャドウでもなんでも良いよ!」
「よろしくね、ブラックシャドウ」
「う、うん………」
本当にそう呼ばれるとは思わず、顔が引き攣る。
そんな僕の様子を見て、水華はあはは、と笑う。
「冗談冗談!玲って呼ぶね!」
「一瞬ひやっとしたよ………」
僕は話題を変え、さっき思ったことを言う。
「実は僕、この高校なんだよね。隣だよね?」
「えっ?ホントだ!………っていうか玲、高校生だったの?」
「ガーン」
「ご、ごめん……本当に中学2年性くらいかと思ったけど……よくよく見たらその胸の大きさで中学生は無いか、あはは」
「実は僕も、水華が高校の制服着てて、えっ!?中学生じゃないの!?って思っちゃった。ごめんね〜」
「ガーン」
それからも僕たちは他愛無い会話を交わした後、長机に一緒に向かい、隣同士に座った後お互い黙々と読書を始めた。
「ふ〜………」
彼女…水華からお勧めされた『近所の野良猫と愛を育んだら何故か魔王になった』を読み切った僕は、本を机に置き、目を閉じて余韻に浸る。
………近所の野良猫が先代魔王って判別してから急にストーリー性が変わったなぁ。それまでほんわかしてたのに、急に剣呑の雰囲気になった。
「あ、読み終わった?……ど、どうだった?」
そんな僕の様子に気付いたのか、水華は読んでいたページに栞を挟み、感想を求めてきた。
さっき考えていたことを、水華に長々と話した。すると、何故か水華は目を潤わせていた。
「え、どうしたの………?」
僕は思わず慌ててしまう。オタク特有の長語りが泣くほど面白かったのだろうか?
「あ、いや、違うの。………今まで、あのコーナーで本を探している人に声をかけてきたら、怪訝な顔をされて無視されるか、やんわりと断られるかしかなっかたの」
そりゃそうかもしれない。僕も最初は当惑したし、多分それが普通の反応かも………。水華はどこか抜けているのかもしれない。
「でも、玲はしっかり読んでくれた」
彼女の瞳がしっかり僕を捉える。は、恥ずかしい………。
「玲………私の、友達になってくれる………?」
彼女はどこか不安げに、涙目で僕を見つめながらそう言った。
こんな可愛い子が涙目でお願い事。これを断る鬼畜がいようものならお仕置きしてやりたい。
「もちろん。僕でよければ、喜んで」
「っ………あ、ありがとう!」
僕は手を差し出し、水華もそれに応じ友情の握手を交わした。
僕もなんとなく水華とはシンパシーを感じていた。なんでだろう?身長?
図書館友達も増え、僕は夏休み中週一、二くらいのペースでこの図書館に通うことになった。来るたびに彼女は必ずいて、僕に気付くと重たそうな本を抱えてこちらに来る。………子犬かな?なんて思ってしまう。
この時、僕はまだ知らなかった。彼女がそこそこ名の知れているvtuberだということを__
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