晴翔とボウリング
前半はボウリング、後半は花咲メメちゃんの配信回です!
「うぬ………………んっ!」
フォームを意識して投球した僕の10ポンドの球は、床につく音がほとんどないほど完璧なスタートを切り、そのまま綺麗な軌道でストライクを取った。カキーンと気持ち良い音が響き、スコアボードに「STRIKE!」と特殊な演出が流れる。
「おお、うまいな」
「ふふん………まぁね〜」
晴翔に褒められて少し得意げになった僕は、また会話を続ける。
「…………で、晴翔はその女の子に告白されたの?」
「そうだ。…………クラスではおとなしくて、清楚な感じな女の子だったんだ。俺とは全く話したこともなかったけどな。………ま、付き合ってから好きになることもあるって言うだろ?」
晴翔は語りながら、13ポンドの球を投球する。投げられた球は一見良い感じの軌道に進むが………いや、これはダメだな。
僕の予想通り、球は少し右にずれ、ピンが2本が残ると結果に終わったようだ。
「で、付き合ったの?…………なんというか、人が良すぎるというか………」
「仕方ないだろ。断るのも気まずいじゃないか」
「まぁ、それが晴翔の良いところなんだけどね。僕は好きだよっ」
「あのなぁ………お前、今は女だってこと自覚しろよ………」
「?」
どういうことだろう?と思って首を傾げたら晴翔は呆れた顔になり、そのままボールを持ち2回目の投球をする。
残った2本のピンはあっけなく倒れ、画面にスペアの表示が出る。ぬぅ、やりおる。
「そんな訳で………まあ、軽い気持ちで付き合っちまったんだ。その時は、まさかあの子があんなヤンデレだとは思わなかったけどな」
「……ご愁傷様」
晴翔が突然僕を誘ってくれたのには、何か訳があるに違いないと思っていたが、結構重めの話をされて今に至る。
なんでも、晴翔が付き合ったと言う女の子が俗に言うヤンデレで、晴翔に「やばいこと」をし続けていたらしい。
幸いにも事は露見して、彼女は退学。晴翔は一命を取り留めたらしい………。
というか、どういうこと?退学って何?一命を取り留めたって何?恋愛云々ってそんな大事になるもんなの?
訳のわからないことだらけだったが、僕はとりあえず傷心中の晴翔を慰めることにしたのだった。
「ありがとよ………話聞いてもらってありがとな。少しスッキリしたよ」
とにかく晴翔の気持ちが軽くなったのなら良かった。
僕はそう思いながら、ボールを投げる。僕のストレートは見事に右ポケットに吸い込まれ、再びストライク。
「お前、サラッとうまいな」
「へへへ」
晴翔が瞠目し褒めてくれたのが嬉しくて、僕は照れてしまう。
「それで………お前はさっき女の子になっちゃったて言ったよな?何か、生活していて困っている事はないか?」
「特段何か困っていることはないよ。最初はトイレとかするだけで一苦労だったけど、今はもう慣れちゃった」
「そ、そうか………それならよかった」
晴翔はボールを拭きながら、どこか動揺したように言う。
僕は何の気も無しにモニターに書かれたスコアボードを見る。
気付けばもうラストゲームだ。点差は大きく開いて僕が勝っていたが、勝って嬉しいと言うよりも、晴翔と一緒にボウリングできて楽しい、と言う気持ちが大きい。
「あ………これ、最後か」
晴翔も気づいたらしく、どこか淋しそうな表情を浮かべた。
「ストライクで決めるぜ」
そう決め台詞を吐いた後、晴翔はボールを投げる。ボールはまっすぐ進み、そのまま左ポケットに入った。完璧かと思われたが、少し右にずれすぎていたらしく、両端のピンが残ってしまった。スプリットだ。
「ヒュ〜〜かっこいい〜」
「チェッ」
晴翔はバツが悪そうに再びボールを投げ、堅実に左端のピンを倒す。
これで3ゲームが終わり、モニターに「精算」と言う選択肢が現れ、僕はそれをタッチする。
「うし、じゃあ片付けて帰るか」
「うん、そうだね」
こうして僕と晴翔はボウリングを満喫した。
二人で精算を済ませ、ROUND2から出る。すっかり日は沈みかけていて、時折吹く風が涼しくて気持ち良い。
「今日はありがとな、色々話聞いてもらって。どこかスッキリした気分だ」
「それなら良かった。また何かあった僕のこと頼ってね!」
「おう!…………そっちこそ、まさか女の子になっているとはな…………困ったことあったら連絡しろよ」
「うん。頼りにしてるよ」
僕たちは互いに別れの挨拶を交わし、それぞれ別の方向に歩き出す。
久々に旧友と遊んだことに充実感を覚えつつ、僕は電車に乗る。興奮はまだ冷めていないように感じていたが、電車に揺られるうちに僕はいつの間にか眠ってしまていた。幸い、僕のお家の最寄駅に着く前に目を覚ました。
まだ少し眠い目をこすりながら家にたどり着いた僕は、そのまま休むことなく簡単な夜ごはんを作り始める。
今日の献立は野菜タンメンだ。お腹を空かせながら完成させた一品はとても美味しそうで、すぐに僕はペロリと平らげた。
時計を見るとまだ20時30分と寝るには早い時間だったので、ベッドで寝転がりながらスマホを開く。
すると運良く、僕の推しである花咲メメちゃんが突発で配信を開くとツイートしていた。
僕はそのスイートにいいねを押して、すぐに貼られてあるURLから配信の枠に飛び、配信が始まるまで音楽を聴きながら待機した。
◇◇◇
「みんな〜〜!!こんメメ〜!!!突発だけど集まってくれてありがとね〜〜〜!!!」
配信が始まり、メメちゃんの元気な声がイヤホンを通して耳に響く。
それに呼応するかのように、僕を含むメメちゃんのリスナーたちがコメントを投げる。
【こんメメ!】
【こんメメ〜〜〜】
【突発配信助かる!】
【こんメメ!!】
この配信を見ているリスナーの数はお世辞にも多くはないが、根強いファンたちがいっぱいコメントをしているため、コメント欄は一見賑やかだ。ちなみに僕もめっちゃコメントしてる。
「今日は〜………ちょっと雑談して、眠くなったら終わりにしようかな!」
【オケまる】
【眠くさせなければずっとメメちゃんと雑談できるってことか】
【気づいてしまったか】
【天才か?】
「あはは!じゃあ眠たくならないような楽しい話題をもってこい!」
【ぐ………】
【リアルでコミュ障な俺たちにそれ言っちゃう?】
【最近あった嬉しいこととかどうでしょうか】
「いいね、それ!最近あった嬉しいこと………最近というか、今さっきのことなんだけどあるよ!」
【今さっき?】
【気になる】
「実はね、今日の配信の告知のツイートがすまいるほーむのユイさんにいいねしてもらえたの!!」
えっ僕?
あ、もしかしてさっき朝日ユイのアカウントのままいいねしちゃってた?
【え!?あの激カワロリっ子の朝日ユイ?】
【間違えて押したんじゃない笑】
【辛辣で草】
「間違えて押すわけないでしょ!もしかしてユイさんこの配信見てるのかなぁ〜!」
すいません……見てます。
推しに嬉しがってもらえて最高だ。
だが、僕もすまいるほーむに所属しているということもあってそれなりの知名度なので、迂闊な行動は徹底して抑えないと………。
「朝日ゆいにいいねされたvtuber」というレッテルでメメちゃんが有名になってほしくはない。
しっかり彼女の実力が世に知れ渡ってほしい、と僕は思っていた。
【本当にゆいちゃんいいねししてるとしたらマジでありそう】
【いやいや流石に………】
【えぇ………?あの、俺たちのメメちゃんが……?朝日ユイに……?】
「ちょっと酷くない!?いや、ついに私の時代来たか〜って感じ」
【はいはい】
【なお子の配信の同接42人】
【でも最近はちょっと伸びてきてるよね?】
【俺たちのおかげ】
【たくさん拡散しといた成果が出たようですね!】
「君たち私のことなんだと思ってるのさ………ま、いいけど。たくさん拡散してくれたのは本当に嬉しいよ。ありがとね!」
メメちゃんが満面の笑みを湛える。あぁ、尊い…………
僕は無意識にスパチャを投げる。
【可愛い】
【マジで可愛いのになんでこんな埋もれてるんだ】
【1000¥ 尊すぎます………】
「わ!あおだぬきさんスパチャありがとう!!」
【メメちゃんに名前を呼んでもらえた…………あぁ………】
【あおだぬきニキ失神してて草】
【ナイススパチャ】
「あおだぬきさ〜ん!?大丈夫!?」
【そんなことしたらもっと悪化するぞw】
【アッ…………アッ…………】
【www】
【召されてるやんw】
【逆効果】
僕はメメちゃんを活動二ヶ月目から見ている、いわゆる古参勢というやつだ。
そのため、あおだぬきという僕のオタク垢の名前を呼ばれることは、少なくはなかった。だが、名前を推しに呼ばれるというものはいつでも嬉しいものだ。いつも感極まって限界化してしまう。
思えば、僕が見始めた頃はいつも同接が20人くらいだったのに、今は突発配信なのに同接が42人もいる。
メメちゃんの成長に涙が止まらない。
これからも彼女を支えていきたいな………僕は限界化しながらそう思った。
今日は良い夢が見られそうだ。
誤字報告ありがとうございます。助かります!
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