美味しすぎるご飯を作ってくれた
30分くらい浸かったせいかのぼせてしまい、僕はお風呂から上がった。
タオルで念入りに滴る水滴を拭き取り、洗濯機の上に置いておいた寝巻きに着替える。男の子だった時に着ていた服はお胸らへんが窮屈になってしまったので、お父さんが来ていた上着を寝巻きにしている。
お父さんは高身長だったため上着も大きく、僕が着ると太ももくらいまで覆ってしまうほどブカブカだ。だが、ズボンを履く必要がなく楽なので、僕は好んで使い込んでいる。涼しいしねっ。
「ふへぇ…………」
昨日はお風呂に入れなかったこともあってか、今日のお風呂はいつにも増して気持ちよかったなぁ。
僕はほくほく顔でタオルを首から下げて、浴室の引き戸を開ける。
そしていつもの癖で、リビングにあるソファに一直線に向かい、どかーんと座り込む。
「あ、あの、え、黒影っち………?」
ソファに先に座っていた杉山は、どういうわけか顔を赤らめてひどく動揺していた。
あ、もしかしてソファには一人で座りたいタイプなのかな?いきなり隣でどかーんされたら確かに動揺するよね。
「ごめんごめん。隣、失礼するね?」
僕はぐったりとソファの柔らかい背もたれに体重をかけながらそう言った。
「え、あ、そういうことじゃなくてですね。その、下は履いていらっしゃるので………?」
なんで敬語?杉山の様子があまりにも変だ。
「うん?パンツのこと?もちろん履いてるよ。見る?」
「!?!?ダメダメ!!!あ〜〜!見せようとしないで!!!」
僕が服をぺらりとめくって、パンツを見せようとすると杉山が必死に止めてきた。
女の子同士だしまあいっかと思って見せようとしたが、結構女の子は気にしちゃうらしい。杉山だけかもしれないが。
男の子はあんまりそういうのなかったけどなぁ………。
「なんかもう、黒影っち、男としての尊厳が薄れてきてない………?」
「失礼なっ。僕は心はちゃんとした男だよ!体は女の子になっちゃったけどね………」
「たしかに黒影っちも大変だろうけど、女の子の体になっちゃたことをもうちょっと自覚して?ほら、足閉じて。パンツ見えちゃうでしょ!」
なんだろう。杉山が母親に見えてきた。
「こんなこと外でもしちゃったら、黒影っち間違いなく襲われちゃうよ!」
「?僕が襲われる?誰に?…………お腹を空かせたくまさん?」
「あ、もうだめだこりゃ」
なぜか杉山は全てを悟ったような目をしてしまった。す、すごい………諦念に至っている……!
「ご飯できたわよ…………って菊、どうしたのよ!?」
すると、キッチンでご飯を作ってくれていた柊がリビングにやってきた。どうやら夜ご飯が完成したらしい。すごく良い匂いがする。思わず僕はお腹を鳴らしてしまう。
柊は悟りを開いている杉山に喫驚していたが、僕を見るや否や納得したといったふうにこの場を立ち去っていった。
「ま、いっか!ごっはん!ごっはん〜!」
柊のことが気になりはしたものの、すでに僕はご飯にしか意識がいってなかった。ソファから立ち上がり、軽い足取りでキッチンに向かった。
昨日作ってくれたお粥を食べてから、僕はすっかり柊に胃袋を掴まれてしまった。
僕も人並みには料理できるが、お粥ひとつでここまで美味しく仕上げられるんだ、と感心したものだ。
「ひいらぎぃ〜!何か手伝うこととかある〜?」
「いや、大丈夫よ。テーブルで待ってて頂戴」
「わかった〜」
この匂いは………カレーに違いない!今日はカレーだ!
柊の作ってくれたカレー楽しみだなぁ。僕はいつも食事をとっているテーブルと椅子で、まだかまだかとカレーを待ち望んでいた。
そして、ついに柊がお皿を片手にこちらにやって来た。
「はい、根菜をたっぷり入れたカレーよ」
「おお〜〜〜!!根菜のカレー!すっごく美味しそう!!」
「何これ!?めっちゃ美味しそうなんですけど〜!?」
カレーに気を取られ気付かなかったのか、悟りを開いていたはずの杉山がいつの間にか僕の後ろに立っていた。
後ろから急に声が聞こえて、少しびっくりした。
「ちょっと明美、私の分は!?」
「あるわけないでしょう。夜ご飯を3人で食べるためにここに来たわけじゃないのよ」
「ぬぐ………そうでした………」
「二人とも……………一緒に食べる?」
あまりに杉山が悔しがっていて、少し居た堪れなくなったのでそう提案すると、柊は首を横に振った。
「そもそもカレーは二食分しか作ってないわ。今日の夜ご飯の分と、明日の朝ごはんの分」
「そっか………残念……」
僕が残念がると、二人は慌てた様子で慰めてくれた。
「い、いやぁ!?別に、そこまで私も食べたかったわけじゃないから!?全然私は大丈夫だよ!」
「ま、また今度3人で一緒に夜ご飯に行きましょう?」
「うん…………今度は一緒に食べようね?」
僕は椅子に座った状態で、上目遣いのような形でそう言うと、耳を真っ赤にした二人は大急ぎで荷物をまとめて帰っていってしまった。
「じゃ、じゃあね………」
「た、体調気をつけなさいよ………」
「あ、うん。今日はありがとね!」
パタン、と扉が音を立てて閉まってしまった。急に静かになった我が家に物寂しさを感じつつも、僕は柊が作ってくれたカレーを食べて胸があったかくなるのだった。
後日、ご近所さんたちの間で「鼻血を垂らしてよろめきながら走る女子高生二人」の目撃情報が相次いだのだとか。何それ怖い。
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