二人がまたお家に来てくれるそうです
日の出と共に目が覚めた僕は、すぐに昨日より体が軽いことに気付いた。
「……やったぁ……学校行ける………!」
昨日はたしか、風邪をひいて学校を休んでしまい、それで杉山と柊がお見舞いに来てくれたんだっけ。断片的にしか覚えていないが、誰かが来たような跡が所々にあるので二人が来てくれたのは確かであろう。今日学校に行ったら、絶対お礼をしなきゃ。
まだ少し辛いが、頑張って起き上がり、簡単に作れそうな朝ごはんを作ろうとキッチンへ向かう。
すると、冷蔵庫にお粥の作り置きがタッパーに保存されていることに気が付いた。メモが貼ってあり、取り出して見てみると『朝ごはん用にどうぞ』と達筆な字で書かれてあった。この字は柊の字だ。
それを電子レンジで温め、朝ごはんとして食べる。学校で柊に返すため、タッパーは念入りに洗う。
そして準備が整った僕は、二人にいち早くお礼を伝えるために足早で学校に向かった。
古くなって少し重い教室の戸を開け、僕は二人の席を確認する。二人は早くも登校していて、談笑していた。
僕が席にカバンを置き、二人の元へ向かう。
「二人とも、おはよう」
「え?あ、黒影っちじゃん!!もう…体調は大丈夫なの!?」
「無理して来てるんじゃないでしょうね」
二人は心配そうな眼差しを僕に向けてきた。まだ少し辛いが、学校に行けないレベルではない。
「うん。もう平気。それより………昨日はありがとう」
僕は二人に向けて感謝を述べる。
「当然のことをしたまでよ。………お粥はお口に合ったかしら?」
「それはもうとっても美味しかった!朝ごはんにも頂いたよ!………本当にありがとう」
「……そ、そう。なら良かったわ………」
柊は顔を赤くしてしまった。褒められるのに慣れていないのだろうか。
「あ……あと、このタッパー。柊のでしょ?ちゃんと洗っといたよ」
「………あ、ありがとう。別に返してもらわなくても良いのだけれど」
「明美、ツンデレ?」
「うるさい」
「杉山も、昨日はありがとうね」
「う、うん。ま、まぁ、私はあんまり何もしてないけどねー、アハハ………」
杉山にも感謝を述べると、どこか後ろめたいことがあるかのように目が泳いでいた。
「………?なにかあった?」
「い、いや?別に?何もしてないし?」
「アンタ本当に何してたのよ」
「だから何もしてないって」
怪しい……が、杉山は信頼してるし、変なことはしないだろう。
二人はいつも通り口喧嘩をしているが、担任の先生が教室に入ったことで一旦やめとなったみたいだ。二人はそれぞれの席につき、クラスメイトたちも続々と席に着く。
朝のHRが始まり、担任のどこかやる気のない声を聞きながら、僕は素晴らしい学校生活が再び始まるのを感じた。
◇
「ね?行っていいでしょ?」
「まだ体調が万全ではないんでしょう?なら私たちが必要なはずよ」
「え、えっと………」
放課後。帰りのHRが終わるや否や、二人が僕の机に押しかけてきた。どうやら二人は、依然として僕の体調を心配してくれているらしい。それは確かだし、身の回りを手伝ってくれるのは非常に助かるので、僕は素直に承諾する。
「じゃ、じゃあ……今日もお願いして良いかな………?」
「おお〜〜〜!!任しときなって!」
「アンタは何もしなくて良いわよ」
「私だって洗濯ぐらいできるんですけーど〜〜?頑張れば料理だって……」
「あの黒い物体を料理だと言い張るつもり?2年前のアレ、忘れたとは言わせないわよ」
「んぐ…………で、でも練習すればそれなりには……」
「期待はしないけど応援してるわ」
「嬉しいけど嬉しくない………」
「杉山、料理下手なの?」
疑問に思い杉山に質問すると、柊が僕だけに聞こえるように顔を寄せてきた。
「この子、2年前の調理実習で豚汁を作るはずだったのに謎の黒い物体を作ったのよ。そしてそれを私に食わせやがった。つまり料理が出来ないとかいうレベルじゃないの、あの子は」
「く、黒い物体…………?」
僕が杉山の料理の腕に戦々恐々としていると、杉山がてへぺろ、と舌を出して照れていた。なんで?
「ま、まぁ、杉山は僕と一緒に掃除機かけよっか」
椅子をから立ち上がりながら、そう提案する。
「黒影っちと一緒に!?料理できなくて良かった〜〜!!」
「くっ………料理できる欠点がこんなところに…………」
「そんなに掃除機かけたい!?」
二人が想定外の反応をしたので、思わずツッコミを入れてしまう。
料理に関しての話題が3人の中で続き、楽しく話し込んでいたらいつの間にか僕の家の前に着いていた。
家に二人を迎え入れた僕は足早でキッチンに向かい、お茶を二つのちょっと豪華なコップに入れて、氷をいくらかたしてテーブルに出す。
「粗茶ですが………」
僕がことん、と置くのに合わせて氷同士が擦れ合い、涼しさを感じる音を鳴らす。
「お、わざわざありがとう!」
「ありがとう。無理やり来たようなもんだから、そんなに気にしなくて良いのよ」
柊が普段通りに接してくれ構わない、と言ってくれる。
しかし、何しろ友達が家に来るなんてビッグイベントこれが初めてである。しかも異性…………いや、今は同性か。ともかく緊張せずにはいられない。
「そうだね〜。そんなにガチガチにならなくても、私たちの仲でしょ!」
「た、たしかに?そんなに……気を張る必要はないよね!」
変に二人を意識しすぎたのかもしれない。まだ体調が万全ではないし、ここは甘えていつも通り過ごすとしよう。
「じゃあ、僕お風呂入るね。キッチン使ってて良いよ」
僕は浴室に向かい、引き戸を閉める。二人が「えっ」と間抜けな声を出していた気がするが、気のせいだろう。
早速僕は制服を脱ぎ、開放的な姿になる。シャワーを浴び、頭と体を丹念に洗ってから湯船に浸かる。
「ふぅ…………」
あまりの気持ち良さに、思わず声が漏れてしまう。
目の前が霞んでよく見えない。僕は目を瞑り、思考を重ねる。
学校から帰ったら、すぐお風呂に入るという僕の習慣はなかなか珍しいのかもしれない。
中学二年生くらいの頃、ちょうどこのくらいの時間に母から電話がかかって来たことがある。その時は運良く湯船に浸かっていたのに気付き、嫌々風呂から上がり電話を取ると、「もうお風呂入ってるの?早いわねぇ」なんて言われた。以来、この習慣は珍しいのかもなんて思い始めたのだ。
そういえば。ひるねと始めて会った日、マネージャーの花月さんに「もしかしたら来月に全体コラボがあるのかもしれないので、一期生の方々との交流は持っといてください」みたいなことを言われたことを思い出す。
一期生かぁ………………
ちなみに一期生は青花リンさん、クロリス・フローラさんのお二人だ。
その二人とのディスコードの個人チャットのログを思い返す。
確か、青花リン先輩が
『よろしくお願いします』
『よろしくね!これから一緒にすまいるほーむを盛り上げてこ!』
『はい。頑張ります』
で、フローラ先輩が
『よろしくお願いします』
『うん。よろしくね〜』
『はい。よろしくお願いします』
『よろしく♡ʕ´•ᴥ•`ʔ』
『はい。』
『ʕ̢·͡˔·Ɂ̡̣ ʕ̢·͡˔·Ɂ̡̣ ʕ̢·͡˔·Ɂ̡̣』
『頑張ります。』
『ふっ、おもしれー女』
『はい。ありがとうございます』
で終わっていたような。
うん。交流、ほとんどないかも。
コミュ障がこんなところで出るとは………。もっと何かしらチャットで言葉を交わすべきだったのかな……。
実は二週間前だったか、早くも同期であるノアがリン先輩とコラボをしていた。それに、ひるねもフローラ先輩とコラボしていた。一緒にお米を数えるゲームをやっていてすごく面白かった。
僕も自発的に声を掛けないとまずいのでは。でも僕なんかが大丈夫かな………。いや、でも僕のリスナーさんたちは結構一期生とのコラボを楽しみにしていたような……………。
にしても、ちょっと前まですまいるほーむの配信を見ていたただのリスナーだったのに、こうしてすまいるほーむの一員として配信しているとは、人生わからないもんだね。
やる気が湧いた僕は、少しのぼせていることに気付き、お風呂から上がるのだった。
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