お見舞いに行くしかない
◇
「今日の休みは………黒影だけだな〜」
担任の金森の言葉が、右耳から入って左耳から抜けていく。
私は、黒影っちがいつもいるはずの席を憂鬱そうに眺めていた。なんでも、黒影っちは体調不良でお休みだそうだ。
高校生活が始まって早くも三ヶ月が経っていた。彼………いや、彼女は三ヶ月間毎日健気に登校していただけに、心配になってしまう。
暗鬱な気持ちで授業を受けていたら、いつの間にか三限が終わっていたらしい。もう昼休みの時間になっていた。 バッグから弁当を取り出していると、明美が私の席に椅子を寄せてきた。
「黒影さんがいないと、なんというか物足りないわね」
明美はそう呟き、私の机で弁当箱を開ける。いつもなら黒影っちもいるはずなのに。
「それなぁ……」
私は同意しつつ、お母さんが作ってくれた唐揚げを口に運ぶ。
もぐもぐと唐揚げを咀嚼していると、ふと、良いことを思いつく。
「ねえ、一緒に黒影っちのとこにお見舞い行かない?」
「え?…………行けるなら私も行きたいわ」
「ふふん、実は私、黒影っちの家の場所知ってま〜す!」
「は?」
私が得意げに言うと、明美は聞いてないぞ、と言った顔で振り向いてきた。
「なんて菊が知ってるのよ」
「へへ〜〜実はね〜」
この前、登校する時にたまたまこの家から黒影っちが出るところを目撃した旨を説明する。
すると、明美が妬ましそうな目を向けてきたが、むしろ優越感を覚える。
「で、勝手にお邪魔しちゃう形になるけど一緒に行かない?」
「もちろん。私も行くわ」
たこさんウィンナーを口に運びながら、明美はそう答えた。
◇◇◇
「………これが黒影さんの家なのね」
黒影っちの家を初めて見る明美は、驚いたようにそう零した。わかる。結構大きいよね。
私はインターホンを押そうとするが、緊張してしまいなかなか押せない。
昼休みに黒影っちのお家にお見舞いすることが決まってから、私は授業に身が入らずそわそわしていた。学校が終わるまでは「早くお見舞いしたい」なんて思っていた。そして帰りのHRが終わるや否や明美と全力ダッシュでスーパーに寄ってからここまできた。
しかし、いざ来るとなかなか緊張する。
見かねた明美が私を押し除けてインターホンを押した。ピーンポーン、と音が鳴る。
「あっ」
「何今更緊張してるのよ」
「それはそうだけど………ほら、黒影っち寝てるかもじゃん?」
私がそう言うと、明美はその可能性を考えていなかったのか顔に焦りの色が浮かぶ。……明美って意外と無鉄砲なところあるよね。まぁ、そんなところも含めて私は明美が好きなんだけど。
「ま、まずかったかしら」
明美は顔を青くして、私に縋るような目で見つめてきた。
だが、明美の心配は杞憂に終わったらしい。急いで階段を降りる音が家から聞こえてきた。
そしてすぐに扉が開けられた。
「……あ………ふ、二人とも………?………なんで僕のお家に………」
「「ちょっと待て」」
明美と声が被ってしまった。
「そんな無防備な服で外に出ない!!!」
「貴方は危機感がないの?」
いきなりお説教みたいになってしまったが、仕方ない。
扉から出てきた黒影っちは、大きめのTシャツ一枚だけといったとんでもない格好だったのだ。下履いてる?これ。
かろうじて大きめのTシャツによって大事なところは隠されているが、むちむちな太ももが隠しきれていない。
こんな姿、全国の男が見たら鼻息を荒くしてカメラを構えてくるに違いない。
私と明美は、なんのことかわからない、といったふうに首を傾げる黒影っちを急いで家の中に押し込む。
明美がリビングにあったソファに黒影っちを座らせている間に、私は扉を閉め上と下両方の鍵を閉める。
素晴らしい連携プレーだ。
「…………急に……どうしたの?」
私たちの心労も知らないで、当の本人は終始困惑していた。思わず私たちは呆れてしまう。
「あのね、こんな服装で外でちゃダメでしょ!」
「世の中には変な人がいっぱいいるのよ」
「………う、うん?………ごめんね」
事の深刻さをどうしても伝えられなさそうだったので、私たちは諦めることにした。
それにしても、思ったより元気そうで私はほっとした。
「体調不良って聞いて心配になったからお見舞いに来たのよ」
「そうそう!何かやって欲しいこととかあったら遠慮なく聞いてよ!」
「ありがとう………じゃあ、お昼ごはん食べてないから、お昼ごはん食べたいかも………」
待ってましたと言わんばかりに、私たちはソファから立ち上がる。
「任せて!こんなこともあろうかとスーパーでお粥の材料を買ってきたから!!」
「待ちなさい、菊。アンタ料理下手でしょ。私が作るから座ってなさい」
「うぐっ…………はぁい………」
私が料理下手なことは事実なので、明美がキッチンに向かった傍ら、黒影っちと一緒に座っていることにした。
ちなみに、中学の頃の料理実習でお味噌汁を作るはずだったが謎の液体ができてしまったので、とりあえず明美に食べさせ、トイレへ駆け込ませた経験がある。トイレからげっそりとした表情で明美が出てきた時は、流石に申し訳なかったなぁ………。
「黒影っち、大丈夫?」
「………あ、うん…………」
黒影っちは目の焦点があっていなかった。だいぶ参ってるな、これ。
風邪なら風邪薬を買ってくる必要がある。けどこの感じ…………。もしや、と思い質問をしてみる。
「もしかしてお腹痛い?」
「………うん」
「腰とか肩が痛かったりした?」
「…………うん………」
やっぱり。黒影っちは生理が来たようだ。
黒影っちの生理がどのくらい続くのかわからないが、これは本人に伝えておくべきか………
「……すぎやまぁ………………」
すると突然、私の肩にこてん、と黒影っちが頭をのせてきた。
「あ、あ、あ、あの?く、くろ、黒影っち?」
「………………」
反応がない。完全に私の声が聞こえていないようだ。
これは色々とまずい。なんとかしなければと思い、チラリと黒影っちの方を見る。至近距離で見れば、可愛いらしい顔をしていることが尚更伺える。浮き出た鎖骨はとても美しい。そして何より、体が柔らかい。本当に女の子になっちゃったんだな、なんて思う。
すると、大きめのTシャツを着ているからなのか、私と黒影っちの身長差がちょうどよかったのか。
見えてしまった。黒影っちの豊満な胸が。
思わず、見惚れてしまう。………綺麗な形だ。
ああ、私のバカ!こんなことダメなのに………だめだ。吸い込まれるように見てしまう。
あ、あとちょっとでピンク色の突起が………
「お粥できたわよ」
「ヤッタァ!!!お粥だぁあ!!!!」
「え、何?怖い」
明美が私たちに声をかけてきて、思わずソファから飛んで立ち上がる。ちっ、あともう少しだったのに……。
その弾みで私に頭を預けていた黒影っちが横に倒れそうになったので、慌てて体を受け止める。
「そもそもこのお粥、アンタ用じゃないから」
「えぇ〜〜そうなのか〜〜〜めっちゃ残念〜〜!!!!」
「アンタそんなにお粥食べたかったの?」
……よかった。明美には私の愚行が見えていなかったようだ。
私が黒影っちの胸をガン見していたことを明美に見られたら、明美に蹴飛ばされる自信がある。
「黒影っち、ご飯だよ」
「…………んぅ………ごはん………」
黒影っちが理性をぶっ壊しにきている。やめて差し上げて。明美も死にそうになってるから。
「……………いいにおい………おいしそー……」
黒影っちは私の手の中から抜け、てくてくとお粥がのせてあるテーブルまで歩いて行った。
そして椅子に座り、徐にお粥をもぐもぐと食べ始めた。
「…………はむ………おいしい………………ひいらぎ、ありがとぉ……」
あ、これ明美死んだな。
そう思った頃にはもう遅く、明美は口から血を流し倒れていた。
「あ〜………明美?」
「…………………」
返事はない。ただのしかばねのようだ。
お粥を食べ終わった黒影っちはこくりこくりとお船を漕ぎ始めてしまったので、私がお姫様抱っこして黒影っちのお部屋まで運び込んだ。ちなみに、めっちゃ軽かった。
こうして私たちは黒影っちのお見舞いをするというミッションをコンプリートしたのだった。
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