ひるねとティータイム
からん、と音を立てて僕が頼んだアイスティーの氷が溶ける。今僕は、偶然すまいるほーむのスタジオでひるねと遭遇し、そのひるねとカフェておしゃべりをしている最中だ。
アイスティーを両手に抱え、ストローで思いっきり吸い上げる。ずずずっと気持ち良い音を立てて、ついにはアイスティーを飲み切った。
視線を感じたのでふと顔を上げると、肘をついてこちらを見つめて来るひるねと目が合う。
咄嗟に恥ずかしくなって目を背けてしまう。そんな僕の挙動がおかしかったのか、彼女は揶揄うように目を細めて笑う。
「はははっ!自爆してら〜」
「もうっ……うるさいっ」
照れ隠しにそう言うと、ひるねはガーンと言う効果音がつきそうな感じで肩を落としてしまった。言いすぎたかな……。
「い、言いすぎた。ごめん」
「大丈夫大丈夫!!気にしてないから……」
ひるねはそう言いつつ、小声で「うるさいって言われた……」って呟いていた。ホントに気にしてないのかなぁ……。
「そ、そういえば……ゆいはなんでvtuberになろうとしたの?」
少し気まずくなった雰囲気を変えようと、ひるねは無理やり話題を変えた。僕にとっても助かるので、あえてスルーして話題にのっかる。
「実は僕TSしちゃってさ」
隠しててもしょうがないので、僕はTSしたことをひるねに打ち明けた。
柊にTSしたことを告白してから、僕の中で「信頼している人なら言っても大丈夫」と言う基準ができた気がする。そのせいか、なんの抵抗もなく今こうして言えている。
「ヘ〜〜TSしちゃったんだね………TS……………?」
ひるねが混乱しているが仕方ない。いきなりTSしちゃったなんて言われても「何言ってんだコイツ」って思っちゃうもん。
「そう、TS」
「あの、男の子から女の子になるやつ………?」
「うん」
「…………じゃあゆいも元々男の子だったてこと!?」
「そうだよ。えっと……ほら、これが僕が男の子だった時の写真」
スマホに中学生の頃友達と自撮りした写真が残っていたので、それをひるねに見せる。
…………そういえば最近連絡取ってないけど、晴翔元気かなぁ。写真をひるねと一緒に見つめながら、僕はそう思った。
「………え?今のゆいと変わらなくない?」
「え?」
そう指摘され、僕はもう一度写真をまじまじと見る。
「た、たしかに……顔は似てる…っていうかあんまり変わってないかも」
「え?じゃあゆいは元私の性癖ぶっ刺さりドストライクな男の娘な上に今はお胸もボンキュッボンな可愛らしい合法ロリだから私は同性だし何しても許されるよね生きててよかったお母さんありがとうヒャッハー!」
「??」
急にひるねが真顔で呪文を唱え始めた。目が怖い。
ひるねを正気にさせるためにも、僕は元の話題に戻る。
「で、僕がTSして落ち込んでた時に、僕の推しがすごく眩しく見えて……こんな人になりたいなって思ったからかな」
「めっちゃ良い話ですやん」
ひるねはいつの間にか僕の話をしっかり聞いてくれていた。
「ちなみにその推しっていうのは誰?」
「花咲メメちゃんっていう人。知ってる?」
「うーーん………ごめんだけどわかんないかも……」
ひるねは申し訳なさそうに謝るが、無理もない。
メメちゃんは、登録者がつい最近300人行ったようなvtuberだから、認知している人は多くはない。ただ最近は、彼女の雑談配信の面白さと歌唱力が注目を浴び始めている。
僕としては、メメちゃんがいっぱいみんなに認知されるのは嬉しいけど、どこかモヤモヤする。僕ってつくづく心が小さいんだなぁって変な形で思い知らされて、少し自分が嫌になってしまった。
「………ちなみにひるねは推しとかいるの?」
「もちろん!私………っていう人が大好きで……」
「……さん、僕も知ってますよ!…………すっごく歌が上手い人ですよね?」
「そうそう!!大好きだし尊敬もしてる……」
僕とひるねは存分にオタクトークを楽しんだ。
オタクトークを通じて心の距離が縮まったのか、それからは配信のこと、ノアのこと、先輩たちのこと、そしてひるねが普段何しているか、など色々な話題を話し込んだ。
時間はあっという間に過ぎていき、辺りが暗くなり始めた頃。
僕たちは店を出て、駅まで並んで歩いていた。
そよ風が気持ちいな、なんて感じていたら、ひるねが口を開いた。
「その、TSとかで大変なことがあったら……もちろんそれ以外でも!………私にいつでも連絡してね!」
「もちろん!頼りにしてるからねっ!桃花!」
僕は店内でひるねとLIMEを交換したことを思い出し、つい弾んだ声になってしまった。
ひるねの本名は「一ノ瀬桃花」だと明かしてくれ、LIMEで表示された名前も「桃花のLIMEʕʘ̅͜ʘ̅ʔ」だった。
マネージャーの花月さんからも、「配信外では身バレを避けるためにも本名で呼び合うことを推奨します」って言われているので、僕たちはお互い「桃花」、「玲」と呼び合うようになった。
「う、うん………あ、私こっち。またね!………れ、玲!」
「うん!またね〜桃花!」
いつの間にか駅に着いていたみたいで、僕たちは別れの挨拶を交わす。
ひるね改め桃花が反対方向だったことを残念に思いつつ、僕は電車に乗る。吊り革につかまり、電車に揺られながら、僕は今日の出来事を振り返った。
ひるねと会えて且つお友達になれた事実に、僕は思わずはにかみ、笑みを零してしまった。
また会えるといいなぁ〜。そんなことを考えながら、僕は窓の外の景色を眺めていた。
…………運悪く、そんなうきうきな玲の姿を見てしまった男子高校生二人が車内で鼻血を噴き出してしまい、車内が騒然となったのはまた別の話。
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