第15話【呑み込む憎悪】(後編1)
前回からの続き……
『おい……あれって攻略者のモルスさんじゃね? 』
『マジだ! 殲滅の死神だ! 』
『次元迷宮で一ヶ月行方不明になっていて生還したっていう……』
「……」
Sランクの攻略者として公式に発表した清火はすっかり有名人になっていた。
……何か……すっかり噂になってる……しかも殲滅の死神って……
周りの視線が気になりながらも清火はしばらく街を歩いていると……
「あ……あの……モルスさんですよね? 」
「ん……? 」
背後から友達と思しき女子中学生に囲まれた少女に声を掛けられた。
あぁ……何となく予想できた……
すると少女は意を決したように清火の前に手を差し出し。
「あの……モルスさんの話を聞いて……カッコイイって思いました! 」
そう言いながら握手を求めてきた。
「あ……うん……ありがとう……」
戸惑いつつも清火は少女に握手した。
「良かったじゃん握手してもらえて! 」
「う……うん……! 」
「モルスさん、 ありがとうございます! 応援してます! 」
そして握手してもらった少女は嬉しそうな様子で友人と共に去っていった。
……有名人って……こんな感じなのかな……
清火は少し優越感を感じた。
そんな事がありつつも清火は街を散歩していると……
(やめて下さい! )
「……ん? 」
清火の耳に何者かの声が聞こえてきた。
……聴力が発達してるとこういうことが起こるのか……でもどうして急に……誰かが助けを求めている?
(お願いします! 返して下さい! )
……見過ごす訳には行かない……か……ヒーローになる気は無いけど……
清火は無視をすることができず、 声のする方向に向かっていった。
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とある人気のない倉庫にて……
そこで一人の青年が複数人の大柄の男達に囲まれていた。
青年と男達は攻略者らしく、 何か揉めている様子だった。
「お願いします! それしか武器が無くて! 」
「うるせぇ! こんなに良い剣をお前みたいな雑魚が持ってるのが間違いなんだよ! 」
男達は青年が持っていた剣を奪ったようだった。
そこに丁度清火が到着し、 男達に気付かれない位置で聞き耳を立てた。
「悔しかったら力ずくで奪ってみろよ」
男達は青年を煽る。
「うぅ……父さんに貰った……大切な剣なのに……」
「……」
父親……ねぇ……
清火は青年の悲しそうな声を聴きながら自身の父親について考えた。
……私は本当の父親と母親の顔を見たことが無い……だから本当の両親に育てられた人の気持ちはよく知らない……けど……
「……到底無視のできる様子じゃ無さそうね……」
「それじゃあな、 せいぜいまた稼いで買えや」
男達は青年を置いてその場を去ろうとする。
すると……
「待ちなさい……」
清火が男達の目の前に現れた。
「なんだぁ? ガキ……」
「こんな所でヒーローごっこかぁ? 」
清火を知らない様子の男達は清火をただの少女だと思っている様子。
しかし清火は気にする様子も無く男達に警告する。
「その剣をその人に返しなさい……父親から貰った大切な物らしいし……」
「へっ、 誰がガキの言う事なんか聞くかよ! 」
「なんならテメェも力ずくで奪ってみろよ! 」
当然男達は清火の言う事を拒否する。
……全く……やっぱり攻略者にもこんなやつがいるのか……
清火は呆れながらも青年の方を見る。
「……あんたはどうなの? こいつらから奪い返してほしい? 」
清火がそう問いかけると青年は黙って頷いた。
「はぁ……じゃあ少し待ってなさい……」
そう言うと清火は拳を握り、 構えた。
その様子を見た男達は清火を嘲笑う。
「ハッハッハッハ! こいつこの人数に素手で勝負する気だぜ! 」
「勝てると思ってんのかよ! 俺ら攻略者だぜ! ? 」
「謝るなら今の内だぜ? 」
……とことんクズね……
「……いいから掛かってきな……あんたらに武器を使うまでも無い事を証明してあげる……」
「……」
清火の言葉にキレたのか、 男達は黙り込む。
そして全員で清火を囲った。
「……後悔しても遅いぜ……」
そう言うと男達は一斉に清火に襲い掛かる。
次の瞬間、 清火は目にも留まらぬ速さで辺りを駆け回り、 男達をほぼ同時に殴り飛ばした。
「ガッ……! 何が……起きた……! 」
「な……何なんだテメェ! 」
そう言いながら殴り飛ばされた男達はよろめきながらも立ち上がる。
「……さっさと返した方が身のためだよ……これ以上は手加減できないから……」
「舐めやがって……ガキがぁ! 」
清火の言葉に完全にキレた男達は一斉に自身の能力を使い、 炎や氷を手から出したり身体能力を上げるなどをして清火に攻撃をした。
そして一斉攻撃を受けた清火は辺りに舞った砂ぼこりで姿が見えなくなった。
「あ……あぁ……」
絶望的な様子に青年は失望した。
「俺らに逆らうからこうなるんだよ……」
「ヒャハハハハ! あのガキ絶対死んだぜ! 」
男達が勝利を確信した瞬間だった……
『……忠告はしたからね……もう手加減はできないって……』
砂ぼこりの中から清火の声が聞こえた。
そして砂ぼこりが晴れると……
「なっ! ? 」
「何なんだ……あれ……」
そこには大ムカデの魂で身を守っている清火と、 清火に直接攻撃を仕掛けた男達の内の一人の頭を鷲掴みにしているゼヴァの姿があった。
ゼヴァの周囲には他の男達が倒れていた。
「……あれって……まさか……」
清火の姿を見た青年はようやく清火の正体に気付く。
「……さて……ありがとう皆……あとは私がやる……」
清火がそう言うと魂達は姿を消した。
そして清火は手に大鎌を出す。
「ヒッ……何なんだよ……テメェ! 」
清火の鎌を見て怖じ気づく男達に清火はゆっくりと歩み寄る。
その時、 男達に清火の姿がまるで死神のような姿をした大きな影に見えた。
「モルス……そう言えば分かる? 」
怯える男達に清火はそう答えると男達はようやく気付いた。
「あ……あぁ……まさか……そんな……こんな所に……」
「な……何でこんな雑魚の為にそこまでするんだよ! ヒーロー気取りかよ! 」
一人の男がそう言うと清火はその男の首に鎌の刃先を突き付ける。
「……あんたらみたいな人間を見てると胸糞悪くなるのよ……ただそれだけだから……」
「うっ……」
そして清火は青年の剣を奪った男の方を見る。
「さぁ……返すの……返さないの? 」
「ッ……」
「……別に返したくないならいいよ……このままあなた達全員の命を奪う事なんて何とも思わないし……」
「うッ……! 」
すると清火の言葉に恐れをなしたのか剣を持った男は大人しく青年に剣を返した。
その様子を見届けた清火は鎌をしまった。
「……早く消えろ……目障りだ……! 」
清火がそう言うと男達は逃げるようにその場から退散した。
……奪われる恐怖を知らない弱者が……
清火は男達を見ながらそんな事を思った。
そして清火は早々にその場を立ち去ろうとすると
「ま……待って下さい! 」
青年が清火を止める。
「……何」
「あの……どうして僕を……」
「……ただの気まぐれだよ……特別な意味なんて無い……」
そう言うと清火は青年の前から姿を消した。
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しばらくして清火はファミレスで休息を取っていた。
「はぁ……」
柄でもない事をしてしまった……
清火は自分の行為を少し後悔した。
まぁ……それはいいとして……私、 だいぶ強くなってるな……いよいよ人に対してこの力を使うのは考えないとなぁ……
一人でそんな事を考えているとゼヴァの声が聞こえてきた。
(モルス様……何者かがこちらへ向かっております……)
「え……? 」
そう言われ清火は辺りを見渡す。
すると清火の視界に入ってきたのはエンペラーだった。
エンペラーは真っ直ぐ清火のいる席の方へ向かってきた。
「やぁ、 モルスさん」
「……偶然ですね」
「相席いいかな? 」
「どうぞ……」
そしてエンペラーは清火の前に座ると早速話し始めた。
「いやぁ今日は本当によく会うね僕ら」
「そうですね……」
……
清火はエンペラーが自分の前に現れた理由を察していた。
「……で、 本音はどうなんですか……」
清火がそう言うとエンペラーは優しく微笑み出す。
「君に隠し事は無理そうだね……正直に言うよ……今回は君に頼みがあってね」
「頼み? 」
「……僕と手合わせをお願いしたいんだ……」
「え……」
エンペラーが口にしたのは清火が予想だにしなかった申し出だった。
て……手合わせ……えぇ……! ?
「どうして急にそんなことを……」
「ただの興味本位さ、 あの時君の姿を見た時からどうしても気になってね」
にしても……ギルドランキングトップのエンペラーさんと戦うのはちょっとなぁ……
「それって……世間的には大丈夫なんですか? 」
「ははっ、 大丈夫だよ、 会長にはもう話を通してるからさ」
用意周到のようで……というか私が受ける前提で来たのか……
「……まぁ……エンペラーさんがいいなら……」
エンペラーからの申し出に少し戸惑った清火だったが快く受け入れた。
「それじゃあ本部の訓練所に行こうか」
あ……今からなんだ……
そして清火はエンペラーに引かれるように本部の訓練所へ向かった。
…………
攻略者協会本部、 訓練所にて……
清火とエンペラーは早速準備を済ませ、 戦闘態勢に入った。
「……」
「……」
急な出来事で少し戸惑ったけど……これはこれで自身の戦闘力を測るいい機会かもしれない……
「さ……どこからでもいいよ」
「……じゃあ……遠慮なく……」
清火がそう言った次の瞬間、 清火は黒月でエンペラーを撃った。
しかしエンペラーが両手の手袋を外した瞬間、 弾丸が炎にかき消された。
……やっぱりこの程度じゃどうにもならないか……
「どうしたんだい? 君の実力はこんなものじゃないだろう? 」
「……手加減しようかと考えてましたけど……あなたの場合その必要は無いみたいですね……」
「フフ……僕の力を実感してもらえてよかったよ」
すると清火は大鎌を出し、 エンペラーに向かって突っ込んだ。
そして清火はエンペラーに鎌を振りかざし、 エンペラーの首元に向かって振り上げる。
しかし鎌はエンペラーの足元から出てきた氷の塊によって止められてしまった。
「ッ……! 」
清火に隙ができたのを見たエンペラーはすかさず清火の脇腹に炎を纏わせた拳をぶつける。
殴られた清火は凄まじい力で壁の方へ吹き飛ばされた。
地面に転げ落ちたものの清火は何とか体制を立て直す。
「流石トップの攻略者ですね……見た目に会わない力を持っている……」
清火はエンペラーの力に関心する。
「君も中々だよ……結構本気で殴ったんだけどなぁ……思ったよりダメージは無いみたいだ」
そう言うとエンペラーは片手を前に出す。
するとエンペラーの手に引き寄せられるかのように地面から砂が舞い上がってきた。
砂は見る見るうちに剣のような形に固まり、 やがて一本の剣となった。
「……芸達者ですね……まさか砂から剣を創れるなんて……」
「伊達にギルドランキングトップのリーダーやってないからね……」
そう言いながらエンペラーは剣を横に払うと剣の刃が炎を纏った。
なるほど……炎の剣って訳……あれは熱そうね……
「さぁ……少し本気でやろうか……」
そう言った瞬間、 エンペラーは清火の目の前に瞬間移動し、 剣を高速で何度も突き出した。
清火は難なくそれをかわす。
反撃の隙が無い……私も本領発揮しようか……
そう考えた清火は自身の足元から複数の大ムカデの魂を呼び出し、 エンペラーを攻撃した。
エンペラーは間一髪で清火の攻撃を避け、 距離を取った。
「……流石だね、 今のは結構危なかったよ」
「にしてはまだ余裕そうですね……」
……エンペラーさんは接近戦が得意じゃない……さっきの攻撃で分かった……なら魔法で勝負をしてみたい……
「……アイツを呼んでみるか……」
清火はそう呟くと大ムカデの魂を戻した。
「あれ、 そのムカデ達は使わないのかい? 」
「……ちょっと試したい魂がいて……あなたと渡り合えるか……」
そう言って清火が呼び出したのは……
「……へぇ……いかにも『魔王』って感じだね」
「出番だよ……魔王『リーグ』……」
清火がかつて倒した魔王、 リーグだった。
その姿は少し変わっており、 真っ黒なボロボロのローブを身に纏っているのは生前と同じであったが、 その中身は真っ黒な霧のようなもので満たされており、 顔が全く確認できなかった。
辛うじてローブの中から悪魔のような角を覗かせている。
『……お呼びに預かり光栄の限り……我が主よ……』
リーグはゼヴァと同じく話せるようだった。
「あなたの力を少し見せて欲しいの……相手はあの人」
そう言って清火はエンペラーの方を向く。
するとリーグは清火の前に跪き
『承知……』
とだけ言い、 エンペラーの前に出た。
エンペラーは持っていた剣を砂に戻し、 素手になった。
「誰かと魔法対決するのは久しぶりだよ……死者である君になら多少手加減しなくても大丈夫かな? 」
エンペラーはそう言って余裕を見せるとリーグは手に大きな杖を出した。
『愚問……我は魔王であるぞ……人間とは魔力の質が違う……』
そう言いながらリーグは自身の周りに黒い泥のような塊を出した。
「……それは楽しみだ」
エンペラーも負けじと自身の周囲に炎の球や氷の塊を出現させた。
続く……




