第15話【呑み込む憎悪】(後編2)
前回からの続き……
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「誰かと魔法対決するのは久しぶりだよ……死者である君になら多少手加減しなくても大丈夫かな? 」
エンペラーはそう言って余裕を見せるとリーグは手に大きな杖を出した。
『愚問……我は魔王であるぞ……人間とは魔力の質が違う……』
そう言いながらリーグは自身の周りに黒い泥のような塊を出した。
「……それは楽しみだ」
エンペラーも負けじと自身の周囲に炎の球や氷の塊を出現させた。
そして二人はしばらく睨み合いをしていた。
「……」
『……』
……両者とも仕掛けてくるのを待っているのか……我慢比べね……
清火は二人の様子を見ながらそんなことを考えているとリーグが先に仕掛けた。
リーグはエンペラーの方に目掛けて黒い塊を触手のように伸ばし、 攻撃をした。
「触れたら危なそうだね……」
エンペラーは黒い塊を見ながらそう呟くと手を振り払う動作をし、 自身の前に炎の壁を出現させた。
黒い塊は壁にぶつかると一瞬だけだが動きを止めた。
エンペラーはその隙にリーグの横に回り込み、 氷の槍を飛ばした。
『フン……』
リーグは落ち着いた様子で杖を氷の槍の方に向けた。
すると氷の槍はリーグの前で動きを止めた。
『制御力が足りないのではないか? 』
リーグがそう言うと氷の槍はエンペラーの方に向き返し、 猛スピードで発射された。
「なにっ! 」
流石にエンペラーでも驚いたのか、 エンペラーは慌てた様子で地面に手を当て、 目の前に土の壁を作って防御した。
『甘い……! 』
するとリーグは周囲に青い炎でできた槍を出現させ、 氷の槍の後を追うように飛ばした。
氷の槍は土の壁に刺さり、 動きを止める、 しかしその直後に炎の槍が氷の槍に命中した。
次の瞬間、 炎の槍の着弾地点から大爆発が起きた。
……水蒸気による爆発……リーグの出した超高温の青い炎の槍で氷を一瞬にして水蒸気にしたのか……なんて火力……
水蒸気爆発でエンペラーのいた場所は水蒸気による煙で見えなくなってしまった。
しかし……
『……ほう……頑丈なものだな……』
水蒸気の中から現れたのは無傷で立つエンペラーの姿だった。
その周囲には見えない膜のようなもので防御されていた。
「……それが本気の力ですか……」
清火が聞くとエンペラーは微笑む。
「久しぶりだよ……この魔法を使うのは……モルス君はやはり僕の思った通り……『強者』だった……」
すると次の瞬間、 エンペラーの足元から先端に剣のような刃を付けた光る鎖が何本も出現し、 エンペラーの周囲を覆った。
「本気で行かせてもらうよ……」
『……来い……! 』
そしてリーグは大量の黒い塊を出現させ、 何本もの触手のように伸ばしてエンペラーに攻撃を仕掛けた。
エンペラーも無数の光る鎖をリーグの方に目掛けて飛ばした。
黒い塊と光る鎖は互いにぶつかり合い、 凄まじい光景を生み出していた。
それは正に光と闇のぶつかり合い、 黒い塊が光る鎖を呑み込み、 また光る鎖が黒い塊を消滅させていく。
時にいくつかの黒い塊がエンペラーの方に到達し、 また光る鎖もリーグの方に到達する。
二人は互いの攻撃を宙に舞うように避け、 防いでいく。
「……二人とも凄い……」
その戦闘を見ていた清火は思わず唖然とした。
こんな光景アニメや漫画でしか見た事ない……
しばらく二人の戦闘に関心していると
「……そろそろ決着を付けようかな……」
リーグの攻撃を避けながらエンペラーはそう呟くと片手に氷の剣を作り出した。
するとその氷の剣は炎を纏った。
『炎に包まれた氷の剣とは……見事な技量だ……』
リーグもその現象に感心した。
…………
「……」
ふと、 清火はエンペラーの持つ剣を見て何か不思議な感覚に見舞われた。
……何だろう……ああいうの……初めて見た気がしない……懐かしいような……寂しいような……
清火は炎に包まれる氷の剣を眺めながら無意識に涙を溢していた。
「……何で……」
清火は溢れ出る涙に困惑した……
…………
そんな清火を余所にエンペラーとリーグの勝負は決しようとしていた。
「僕は接近戦は他の攻略者と比べて得意じゃない、 けどね……それでも魔法職の攻略者相手なら……! 」
次の瞬間、 エンペラーは襲い来る黒い塊を伝うように猛スピードでリーグの方に目掛けて飛んできた。
『舐めるな……! 』
するとリーグは黒い塊で分厚い壁を形成し、 立ちはだかった。
「フッ! 」
エンペラーは止まることなく剣を壁に向かって突き出した。
黒い塊の壁にぶつかった剣からは大量の炎が溢れ出す。
その炎は徐々に黒い塊を蒸発させ、 剣を奥へ奥へと突き進ませている。
『人間がこれ程の魔力を……』
その様子にリーグは驚く。
そして……
「うおぉぉぉぉ! ! 」
エンペラーの剣は壁を貫通し、 リーグの心臓部に突き刺さった。
次の瞬間、 二人の周囲に水蒸気爆発が起こり、 辺りが霧に包まれた。
「……」
霧が晴れようとする中、 清火は勝敗を察した。
そして霧が晴れ、 二人の姿が見えた。
「……」
『……』
結果はエンペラーの剣はリーグの心臓部を貫通しており、 刺されたリーグの体は下半身が炎のような形をした氷によって凍らされていた。
エンペラーの勝利である。
『……見事なり……人間の攻略者よ……まさか我が力を破るとはな……』
「お褒めに預かり光栄だよ……魔王さん」
そのやり取りを最後にリーグは黒い霧となり、 清火の影の中へと消えていった。
……リーグ、 よく頑張ったね……
清火は心の中でそう言いながらエンペラーの前に出た。
「まさか驚きましたよ……リーグを倒すなんて」
「まぁ結構本気出しちゃったけどね……さぁ、 最後は君との勝負だね……」
「……」
構えるエンペラーを見て清火は思った。
……今回でリーグはエンペラーと互角に戦える事は分かった……それだけでもかなりの収穫だ……なら後はすぐに終わらせてもいいか……
先程の戦闘で自身の持つ戦力について十分な情報を得た清火はもはやこの戦いに求めるものは無いと判断したのだ。
「……ごめんなさいエンペラーさん……この戦い、 早めに終わらせるね」
「え……」
すると清火は大鎌を片手に出す。
次の瞬間……
『……恐れるべきは……『死』にあらず……』
清火自身と何者かの声が混じったような声で清火がそう呟くと同時に清火の姿が変貌する。
それはあの謎の迷宮の時の姿だった。
「……ッ! 」
その姿を見たエンペラーは固まる。
その様子は明らかに畏怖しているようだった。
人にこの形態を使うのは危ないけど……威圧程度なら……大丈夫か……
「……どうしますか……せめて引き分けにしてもらえるとこっちとしては助かるのですが……」
「……フフ……引き分けなら助かるよ……あくまでトップである僕のギルドの名誉に傷が付かなくて済む……」
冷や汗をかきながらエンペラーは清火の提案を受け入れた。
すると清火は元の姿に戻り、 武器を戻した。
「……それじゃ、 引き分けという事で……」
「はは……君は本当に凄い……威圧だけで僕と引き分けるなんて……日本にはそういないかもね……」
「……中々楽しかったですよ……日本一の攻略者は名に恥じぬ実力ですね……正に『皇帝』……」
そう言って清火は訓練所を去ろうとする。
「え……どこへ……」
「少し用を思い出して……一度家に帰らせてもらいます……」
「あ……あぁ……またね……」
そして清火はその場から姿を消した。
部屋に一人残されたエンペラーは思わず安堵の息を漏らす。
「はぁ……全く、 本当に……」
(あれはやはり僕の力を越えている……いや、 僕らギルドリーダー全員でも彼女を越えられるかどうか……)
エンペラーは清火との戦いを通して改めて清火の恐ろしさを実感する。
(突然現れたSランク『以上』の攻略者……あれは明らかに人の力の域を越えている……)
エンペラーは変身した清火の姿を思い返す。
(あの時……僕にも見えた……彼女を包み込む……大きな影……いや……様々な命が持つ……『憎悪』の塊と言うべきか……彼女の中にいるのは……一体……)
「……死神……いや……あるいは……『死』そのもの……か……」
訓練所で一人、 エンペラーはそう呟く……
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「……あれがエンペラーの力……まだ先がありそう……」
清火は自宅に向かう途中、 エンペラーとの手合わせの事を思い出す。
……氷と炎……そして大地、 光の魔法……あれ以外にもまだ使える魔法はありそう……でも……
清火はエンペラーの強さを完全に把握した。
「……今回はかなり収穫を得たか……」
そんな事を考えながら清火は自宅へと帰った。
…………
その頃、 修次郎は清火とエンペラーの勝負の結果を拳一から聞いていた。
「それで……結果的にエンペラー様はモルス様と引き分けた……という事で……」
「……ふむ……モルス君はあくまでもトップの座を奪うつもりで戦ってはいないと……」
「私はそう感じました……」
あの時、 拳一は修次郎の命令で清火とエンペラーの勝負の一部始終を観察していたのだ。
そして拳一と修次郎はその勝負の結果を少し意外に感じていた。
「……当にエンペラーをも越えている実力を身に着けているというのに……彼女は地位や富を求めず、 ただひたすらに強さを追求し続けている……今回でそれがはっきりと分かった」
「良くも悪くも……彼女は金や権力が目的で活動しているようではないみたいですね……」
すると修次郎は少し考える仕草を見せる。
「……少し……試してみるか……」
ふと呟いた修次郎の言葉に拳一は何かを察する。
「もしや会長……あのモルス様と……」
「フッ……久しぶりに運動でもするか……明日、 モルス君をここに呼んでくれ」
修次郎がそう言うと拳一は静かに頷き、 部屋を後にした。
部屋で一人になった時、 修次郎は窓の外を眺める。
「あの『二人』のように……儂を越える者となるだろうか……モルス君よ……」
そう呟く修次郎の瞳は黄金に輝いていた。
続く……




