第15話【呑み込む憎悪】(前編1)
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「……」
何もかもが焼け野原になった荒地で一人、 清火は立ち尽くしていた。
この事態になる数刻前……
「……ふぁぁ……」
清火はいつも通りベッドから起き上がった。
もう朝10時か……寝すぎたか……
昨日まで一切休んでいなかった清火は珍しく熟睡していた。
「……雷さんに詳しい話をしないとなぁ……」
そう呟くと清火は部屋から出て身支度をし、 殲滅ギルドへ向かった。
…………
外を出てしばらく街を歩いていた清火は辺りに異変を感じた。
……何かに……見られている……?
「……ゼヴァ……」
『ハッ……』
清火は辺りの索敵をしながらギルドへ向かう事にした。
殺気を感じる……私を狙う暗殺者? いや……でも、 私狙われるようなことはしてないし……
そんな事を考えながら警戒している内に清火はギルドの前まで着いた。
「……結局何も来なかった……気のせいか……」
最近色んな事があり過ぎたからなぁ……今日は迷宮攻略は止めておくか……
すると清火は背後から声を掛けられた。
振り向くとそこにいたのは雷だった。
「あ、 雷さん……丁度良かったです」
「奇遇ね、 お互いギルドに来る時間が一緒になるなんて……」
「そう、 昨日話せなかった事をちゃんと話そうと思ってて」
「……そうね……あなたがあの迷宮で何を見たのかを詳しく聞きたい……」
そんなやり取りをしながら清火と雷はギルドに入ろうとした。
すると突如清火の視界が一気に暗くなった。
「なっ! ? 雷さん! 雷さん! ! 」
辺りは何も見えず、 触ることもできない。
いつの間にか雷の気配も消えていた。
それどころか人の気配もしない……
清火が困惑していると……
『悪に呑み込まれるな……』
「っ! 誰……」
聞いたことも無い不気味な男性の声が聞こえた。
その声はまるで怪物と人間が混じったかのような嫌な声色だった。
そして声は話し続ける……
『力があるだけでは駄目だ……その力を己が物とする精神力……それが更なる力に繋がるのだ……』
……何を言ってるの……私に言っている……?
『内で暴れる『邪悪』に吞み込まれるな……』
「ウグッ……何ッ……これ……! ? 」
次の瞬間、 清火は突然襲ってきた頭痛に苦しみだす。
頭に焼かれた釘を撃ち込まれていくような凄まじい痛みに清火はもがき苦しむ。
『喰い散らせ……全てを喰らい尽くせ……己に仇を成す『邪悪』をも喰らえ……『邪悪』に隙も与えるな……! 』
「『邪悪』を……喰らえ……? 」
その時清火の瞳に赤黒い炎のようなものが宿る……
『それが神だろうと……喰らい尽くせ! ! 』
その言葉を最後に清火は意識を失った。
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「……痛い……」
しばらくして清火は目を覚ました。
まだ……痛みが……そうだ! 雷さんは……
雷の事に気付いた清火は起き上がり、 辺りを見回した。
しかし清火の目の前に広がっていたのは……
「! ? ここは……一体……」
空から雪のように灰が降り注ぐ焼け焦げた街だった。
しかし焼けた建物は全て木造やレンガ造りらしきものばかり……清火の住んでいる街とは大違いだった。
……まさか……迷宮か……?
清火は次元迷宮らしき空間に迷い込んでしまっていたのだ。
しかし一緒にいたはずの雷の姿はおらず、 人影すら見えなかった。
「……ゼヴァ……いる? 」
『はい、 ここに……それにしても一体ここは……』
魂は呼び出せる……縛りみたいなものは無いか……
「分からない……でも呼び出せるなら良かった……一先ずここを探索しよう、 出口があるかもしれない」
そして清火とゼヴァは辺りを探索しだした。
……この街みたいな場所……元は一体どんな街だったんだろう……そして何があったの……?
清火は焼け焦げた街の風景に不気味さを感じていた。
するとゼヴァがあることに気が付く。
『……おかしい……この街、 死体が無い……』
「……確かに……街一つ焼けているなら焼死体が一つぐらい見つかってもいいはず……」
街は完全に焼けているのにも関わらず人らしき死体が一つも無いのだ。
……ますます不気味だ……
そんな事をしながら数十分、 一向に出入口らしいものが見つからない。
それどころか景色も変わらない。
「魔物もいないなんて変な迷宮……何をしたら正解なの……? 」
『……モルス様……様子がおかしいです……』
「え……ッ! 」
ゼヴァが何かを感じて知らせた瞬間、 辺りに降り注いでいた灰の動きが突然止まった。
次の瞬間、 灰は巻き戻しをされたかのように上空に舞い上がりだし、 辺りの景色が変化していった。
「警戒して! 」
『ハッ! 』
清火達は警戒し、 武器を構えた。
……これは……時間が巻き戻ってる?
しばらく逆行していく風景を眺めていると……
「うわっ! ? 」
突然清火の側にあった建物の残骸に炎が付いた。
しかしその炎は黒く、 明らかに普通ではなかった。
これって……一体……
更に数分後……
辺りの景色はすっかり変わり、 降り注いでいた灰は火の粉に変わり、 街の至る所に黒い炎が現れた。
すると辺りに叫び声が響き渡ってきた。
姿は見えないものの、 その声ははっきりと聞こえる。
「……何なの……この街に一体何が……」
『……聞こえる……我々を呼んでいる……』
「え? 」
するとゼヴァはいきなり走り出し、 清火の側を離れて行った。
「ちょっ……ゼヴァ! ? 」
清火は慌ててゼヴァの後を追う。
…………
しばらく燃え盛る街の中でゼヴァを追いかけていると……
『……ここです……モルス様……ここにいる……』
「……これは……」
ゼヴァが立ち止まった場所にあったのは大きな十字架だった。
その十字架は清火の身長の三倍程大きく、 人を張りつけにするには十分な大きさだった。
……まるで処刑場みたい……でも相変わらず人がいない……
しばらく清火はその十字架を眺めていると……
『……悪を……喰らえ……』
再びあの男性の声が響き渡った。
次の瞬間、 辺りの動きが再び止まり、 炎が二人を取り囲んだ。
……ボス戦……?
静まり返った空間で清火は耳を澄ます。
するとどこからか鎖の音が聞こえてくる。
「……ゼヴァ……気を付けて」
『はい……』
清火とゼヴァは背中合わせにして構える。
しばらくすると炎の中から人間らしき影が見えてきた。
「……人間? 」
『いいえ……あれは人でも魔物でもありません……尋常じゃない気配です……』
そして二人の前に現れたのは一人の青年だった。
しかしその姿は人間とは呼べなかった。
体中に生々しい傷が入っており、 右目は無く、 そこから黒い炎が溢れている。
加えて右腕は完全なる怪物の腕になっている。
髪は白く、 黒い目に赤い瞳をしている。
……恐い……何……この緊張感……
清火は今までに無いプレッシャーを感じていた。
『……何故……俺を……殺そうとした……』
怪物はそう呟きながら清火の方へ迫る。
するとゼヴァが剣で怪物に攻撃を仕掛けた。
しかし……
『なっ……』
怪物はゼヴァの剣を意図も容易く鷲掴みで止め、 そのままゼヴァを投げ飛ばした。
投げ飛ばされたゼヴァは勢いを殺しきれず、 黒い炎の中に入ってしまい、 消滅してしまった。
『……邪魔だ……俺は……そこの女に用がある……』
「え……私……? 」
次の瞬間、 怪物は目にも留まらぬ速さで清火に近付き、 清火の胸に手を突き刺した。
「え……」
しかし不思議と清火は痛みを感じなかった。
すると怪物は清火の目を見て話し始めた。
『俺を……喰らえ……人間……』
「……どういう……事……? 」
『お前の魂は……未完成だ……まだ……悪の抹殺に対する躊躇がある……それでは駄目だ……』
そう言うと怪物は黒い炎に包まれ始めた。
「待って! 訳が……」
『……考えるな……本能のままに……目の前にある悪を喰らい尽くせ……悪に慈悲はいらない……躊躇せず、 ただただ食い荒らせ……』
怪物はその言葉を最後に体中が炎に包まれ、 灰のように散って行ってしまった。
しかし清火の胸には怪物が突き刺した跡が残っており、 そこから黒い炎が溢れていた。
「……一体何が起きてるの……ッ! ? 」
清火は訳も分からず混乱していると突然胸の奥から何かが湧き上がってくるのを感じた。
それは清火の心臓を焼き尽くさんばかりの憎悪の感情だった。
それと同時に周囲の時間も再び動き始めた。
「またっ……この感覚……」
清火は今にも暴れ出しそうな感情を抑えていると……
『あぁぁぁ……熱……い……』
『誰……か……』
炎の中から次々と人型の影のような怪物たちがゾンビのように清火に迫ってきた。
こんな……時に……クソッ……魂も呼び出せないし……どうすれば……!
すると清火はあの怪物の言葉を思い出す……
「……本能のままに……悪を……喰らう……」
……無理やりにでも……自分の物に……しろって事……?
そして清火は何を思ったか抑えていた胸から手を離し、 脱力した。
「……実践しろって事……」
そう呟くと清火は目を閉じる。
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……黙れ……お前達の憎悪なんて知った事じゃない……私には……進まなきゃいけない道があるんだ……
抵抗するなら……喰い散らしてでも……言う事を聞かせてやる……
……お前ら亡者の主は……『死』(わたし)だ……!
次の瞬間、 清火を中心に黒紫色の炎が波紋のように広がった。
その炎に巻き込まれた怪物達は一瞬にして灰のように散ってしまった。
「……」
何もかもが焼け野原になった荒地で一人、 清火は立ち尽くしていた。
すると清火は顔を上げ、 目を開いた。
その眼は右目だけあの怪物のように黒い目に赤い瞳をしていた。
そして清火の姿は徐々にあのハイドラの時のように変わっていった。
しかし前とは様子が違った……
清火の目は虚ろになっておらず、 はっきりと意識を持っているようだった。
「……殲滅開始……」
そう呟くと清火は大鎌を手に取った。
大鎌も見た目が変わっており、 全体が黒紫色の炎に包まれていた。
その鎌を持つ清火の姿はまるで死神鎌を持った悪魔のようだった。
そして清火の周囲に再び黒い影のような怪物が地面から湧き、 襲い掛かってきた。
すると……
「……死持って『邪悪』に裁きを与えん……」
清火がそう言った瞬間、 怪物の体に何かに斬りつけられたような傷が現れ、 怪物はそのまま動かなくなってしまった。
清火は動かなくなった怪物の頭を鷲掴みにし、 引きずりながら怪物の大軍の方へ向かっていった。
……なるほど……調整が難しい……こんな力……今の私が現世で使ったら大変なことになる……
「……そうなればどんどん掛かってきな……無理やりにでも私の訓練に付き合ってもらうよ」
清火の姿を見て恐れおののく怪物達に清火は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
喰らえ……か……そう言えばあの時もそんな事言われたっけ……
清火はそんなことを思い出しながら戦い始めた。
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その頃……
「クソっ! 一体どうなってるんだこの迷宮! 」
「入れない迷宮なんて初めてだ……」
現世では清火が突如として現れた次元迷宮に呑み込まれたと協会の方で大騒ぎになっており、 拳一を含む他の攻略者が次元迷宮の出入口に集まっていた。
その次元迷宮は出入口に謎の膜のようなものが張られており、 どんな攻撃をしてもびくともしなかった。
それで皆が次元迷宮に入るのに苦戦していた。
雷はというと当時、 次元迷宮の出現場所といた位置がずれていたため奇跡的に回避していた。
「まさかいきなりこんな事になるなんて……」
雷は戸惑いを隠せない様子だった。
しばらく協会の職員や攻略者達が次元迷宮の出入口に苦戦していると三大ギルドのリーダー達が到着した。
「なるほど……モルスさんはこの中に閉じ込められたんだね……」
「ほほぉ……中々手ごたえありそうじゃの……」
「ただの一般攻略者なら放っておくけど……他ならぬモルスちゃんだからね……」
三人に気付いた協会の職員達は他の攻略者達を下がらせ、 リーダー達を出入口の前に進ませた。
「……厄介な結界ね……白刃、 頼んだわ」
「うむ……」
すると白刃は腰に掛けていた刀に手を置き、 構えた。
次の瞬間、 白刃は目にも留まらぬ速さで刀を抜き、 出入口の膜を容易く斬り捨てた。
「ヒュー……流石日本一の剣使い」
「まだまだ若者には負けてはおれぬぞ、 はっはっは! 」
「早く行くわよ、 こうしてる内にモルスちゃんが危ないかもしれないし」
そんな会話をしながら三人は迷宮の中へ入っていった。
残された他の人々はただリーダー達の帰りを待つしかない。
「……モルス様……死なないで下さいよ……」
(まさか次元迷宮の出現と同時に呑み込まれるなんて……近頃の次元迷宮はまるでモルスさんを抹殺しようとしているようだ……)
次元迷宮の出入口を眺めながら拳一はそんなことを考えた。
前編2へ続く……




