高校一年生 五月
GW中。我々の文学部は大した活動をしているわけではないが、常に年中無休。
この連休中も毎日部室は開放している。
目の前の女子生徒――五十嵐 春奈は自身のスマホに視線を落としている。
彼女の家の状況は聞いた。だからといって僕――桜井 凛史郎に何ができるというわけでもないが、こうして毎日部室を開いて彼女の避難所を作るくらいならできる。
僕にとってもこの部室の存在は非常に有難いしな。
そしてそんな僕も今はありふれたキャンパスノートに視線を走らせている。
そう、今は先月行ったあの読書会の反省会をしている。
これまではお互いがただ自由に過ごすためだけの部屋であったが、折角のGW、少しは部活動らしくしようよと、五十嵐が提案したのだ。
そんなわけで僕は五十嵐の漫画作品を読んでいる。この間はお互い時間がなく流し見であったが、今回は僕はコマの一つ一つを丁寧に、彼女も僕の文章を一行一行を丁寧に(多分)読んで、お互いに感想を言い合うことになっている。
そして黙って読書をして午前中が終わった。僕らはそれぞれ持参したお昼を取り出し、もぐもぐと昼食をとりながらお互いの感想を言い合う。
「この間はぼろくそに言ったけどさ、桜井の小説、やっぱすごいなって思う。確かにちょっと長いなっていう印象はあるけど、文章一つ一つにちゃんと意味を持たせてて、意味のない言葉がないかなーって」
「それはまあ、ありがとう」
「うん。だけどね、やっぱ本を読む人って私みたいに活字に慣れていない人もいるし、世の中結果だけを知りたい人も多いじゃん?」
「……否定はしないな。僕には理解できないが、本を読む前にレビューでネタバレを読んで読んだ気になっている自称読書家もいるらしいしな」
「それは理解できないけど。まあ、そんな時代なわけよ。というわけで、やっぱくどいね。読みやすさとかテンポ感はまあほしいかなーって。人によるんだろうけどね」
「いや、ありがとう。そういうことを言ってもらえると僕としても助かる。……そうだな。確かにある程度は行間に任せるというのはありだろう」
「ぎょうかん? いや文字の間隔あけるのもなー」
「さて次は五十嵐の漫画に関する感想だが」
「あれ? なんか呆れられてる? バカなこと言った?」
「結論として、非常に読みやすかった。漫画はそこまで読まない僕でも、一コマ一コマを流れるように読めた。五十嵐流にいうなれば、テンポがよかったということだろう」
「えへへー。私自身文字が多いのが苦手だからね」
「ただそれでも物語に重厚がない」
「……ねーえー。もうちょっと言葉わかりやすくしてよー。文字ならまだしも口で言われるともっとわからなくなる」
「なるほど。じゃあ言い換えると、内容が浅いな」
「殺すよ?」
「……だから言葉を選んだのに……」
「まあいいや。それで?」
「あ、ああ……。そうだな、簡単に言えばイベントとイベントの間に説明がなさ過ぎて、一つの連続した物語のはずなのにまるで短編集を見ているかのように断片的にストーリーが進むだろ」
「う……。なんか描きたいことへの愛が強くてそこまでの流れを適当にしちゃうんだよね……」
「まあ逆に言えば一つ一つのイベントはキャラが立っていて面白かったな。というか、全体的にキャラは良いのにストーリーが軽くてな」
「……なるほど。うん、確かにもうちょっと流れを大事にするよ! それこそ、もうちょい説明を入れるべきだね」
「それをやりすぎると、僕の作品のようにテンポが悪くなるからな」
「でも桜井の作品は流れがちゃんとしてて、読んでても迷子にならなかったよ」
前回の反省を活かしたのか、お互い言いすぎることはなく、また素直に良いところを褒め合っている。
ふむ……。まとめると、僕たちはそれぞれ得意なところと苦手なところが相反しているみたいだな。
そして、同じような感覚を五十嵐も覚えたのか。
「これさ、私たち二人の弱点をお互いが埋めれば完璧な作品ができるんじゃない!」
「同じことを僕も思っていた。何の因果か僕らはこうして同じ部活で同じ時間を過ごしている。お互いで補う合う、というのも部活動という趣旨に合うかもな。後付けだけど」
五十嵐は僕のその言葉に少し考え込むような姿勢をとると。
「じゃあさ! じゃあさ! 桜井も私の好きな少女漫画読んでみてよ! 私も桜井おすすめの小説読むからさ!」
「え……えー……」
「なにさ! 何が不満なのさ」
「まず普段活字を読まない五十嵐に、僕が普段読む純文学が読めるとは思えないし、僕もイケメンが出てくる漫画を読むと嫉妬でおかしくなりそうだ」
「……はあ。全くこの男は……」
五十嵐は額に手を当てて呆れたようにため息をつく。
「まず最初の不満に関してはさ、前桜井が読んでいた絵もついてる小説貸してよ」
「ああ、ライトノベルか」
「そうそう。で、二個目だけど、あなたは少しこの漫画で女心を勉強しなさい」
ビシッと俺に指をさしてそんな失礼なことを言ってくる五十嵐。あの漫画で学べる女心が今後の人生で約に立つとは思えないがな。
しかしまあ、感情の機微を文章で表現するのに苦心していたところだし、実際こういう機会でもなければ少女漫画を読むこともないだろう。
経験だと思うか。
「了解した。じゃあ明日、僕も試しに何冊か持ってこよう」
「おっけー。私も一推しの漫画持ってくるね!」
そして翌日。僕らはお互いに持ってきた本を眺めて言う。
「いや、この女目がでかすぎるだろう」
「いや、この女の子胸がでかすぎない?」
やれやれ、お互いへの理解が深まる日はまだまだ先だろうな。
二人の所有本の出どころ
桜井:
五割:図書館 三割:中古 一割:親切なマダムから譲り受ける 一割:親に渡すバイト代の一部をちょろまかした小遣い
五十嵐;
十割:祖父母からこっそりもらっていたお小遣い(死後もらっていないため、一年新刊を買えていない)




