幕間 高校一年生 四月
「ねえ、何見てるの?」
「……? 僕のことか?」
「……いや、二人きりなのにあなたじゃないことはないでしょう」
「……悪い。一人でないことの方がレアでな」
「あー……。なんかごめん」
「謝るな。別にコンプレックスに感じたことはない」
「ああそう? ならいいけど……。で? 何見てるの?」
「本……。というのは望んでいる答えではないだろうな。ライトノベルというやつだ」
「へえ、小説?」
「漫画と小説の間……というのが正しいか。いわゆる若年層向けのライト文学だ」
「……ふーん、おもしろい?」
「ああ。色々言われてはいるが、やはり年々文学としてはレベルがあがっているとは思うぞ。ただ一方で読みやすい小説という売りが、純文学の方へ寄っている作品が増えているような気がしてな。本来の立ち位置を失わないでほしいものだ」
「……ああ! あれだ! 好きなことになると早口になる人だ!」
「…………」
「……あ、ごめん。無口な人だと思ったからうっかり……」
「……」
「ねー、ごめんってー」
「……」
「……うー。面倒くさいな」
「なんだって?」
「あ、やべ」
「ふん。別に今更他人に何か言われたくらいで気にするものかよ」
「そうなの? ふーん……」
「そっちこそ、毎日毎日ずっとスマホを見て飽きないのか?」
「え? まあね」
「そうか。僕はSNSをやらないから理解できないが、そういった嗜好が流行っているのは聞いている」
「え? あ? いやあ……」
「だがまあ、投稿をするのはリスクがあるからほどほどにな」
「ごめん、なんか勘違いさせたみたいだけど。私はSNSやらないよ?」
「ええ⁉」
「ええ? そんな驚く?」
「だって女子高生だろ?」
「女子高生が皆やっているものだとおもうなっつーの。うちは面倒なことに巻き込まれるからって親に禁止されてるの」
「ほお……。じゃあ毎日毎日何を見ているんだ?」
「はい」
「ん? これは……漫画か?」
「そうそう。無料で読める漫画サイト」
「ほう。本当に漫画が好きなんだな」
「まあね。比較的金がかからないし」
「……シビアだな」
「…………ま、しゃなーい」
「僕も同じだから理解できる」
「お互い苦労するねー」
「……僕の苦労は、きっとそっちのに比べたら大したことはないさ」
「不幸勝負ほどくだらないものはないね」
「違いない」
「というか、何を読んでいるんだ?」
「ん? ああ、これはね。無料で連載している少女漫画。アマチュアの人がファン獲得するまでに、こうして読み切りを掲載するサイトがあるんだよ」
「……へえ。そんなのがあるんだな……。出さないのか?」
「んー……。まあ出してみたい気もするけど、今時手書きを載せるのも、ねえ」
「そんなもんか?」
「そんなもんじゃ。桜井は?」
「僕も……多分出さない、かな?」
「ほほう?」
「今時、AIでいくらでも小説を創れる時代だからな。埋もれる未来が見える」
「でも、その中で光るものがあれば人気出るでしょ?」
「だったら公募作品に出した方がいいだろ」
「にゃるにゃる」
「……だがまあ、小説でヒットした不労所得で生活、ってのは夢ではあるな」
「おやおや、学年一位とは思えない発言ですねえ」
「うっせ」
「ねね、それよりさ」
「ん?」
「いい加減、私のことちゃんと名前で呼んでよ。私も呼ぶからさ」
「……は?」
「いや、だって今後も二人きりが続くんだしさ。おかしいじゃん?」
「……いや、え……。えー……」
「そんな嫌?」
「いや……そういうわけじゃないけど……陽キャこわ……」
「え?」
「いや……。じゃあ……春奈」
「え? え? え? ……え?」
「え? ……え?」
「……えーっと……。……いやね……。べつにいいんだけど……」
「……あ」
「あ」
「どうした五十嵐! いい天気だな五十嵐! さて五十嵐! 君の名前は五十嵐 春奈だな!」
「……あー、そうだね。いや、だめじゃないからね? 別に春奈でもいいからね?」
「……うっせ」
「うふふ。じゃあ私は凛史郎? 凛くん? どっちがいい?」
「……桜井で、頼む。五十嵐」
「はーい。じゃあこれからよろしくね、桜井」
連載時期:毎週 金・土・日の三日間
初週のみ大量公開。次回更新は明日




