幕間 ある春の放課後―帰り道
「桜井もさー。あの本みたいに沢山の女の子にモテたいって思うの?」
「馬鹿を言うな。あれはあくまで創作だ。ただの理想だ」
「……ふーん。私は、少女漫画のヒロインみたいになりたいけどな」
「ああ。マゾか」
「違うよ! 胸キュンをマゾ扱いしないでよ!」
「……現実なんてクソなだけだ」
「……そっか。私は、もうちょっとだけ、現実に期待しちゃおうかな」
「そうか。五十嵐は強いな」
「えへへー。確かに瓦は割れそうな気がする。やったことないけど、気合で」
「そうか。頭は弱いな」
「え? バカにされてる?」
「五十嵐よ。僕は確かにあのラノベを渡したが、あくまで五十嵐のレベルに合わせた本というだけだ。そもそも僕は太宰や乱歩、ドイルといった文豪作品の方が好みだからな。同じレベルと思うなよ」
「ほほー。シャーロキアンか」
「……否定はしないが、意味わかっているのか?」
「うん、コナンで見た。あれでしょ、シャーロックホームズラブのことでしょ」
「絶妙に否定しにくいが、絶妙に肯定もしがたいな……」
「ちな私はイタキスアン」
「何だそれ? パスタの料理?」
「ちがうよー。イタキスの熱狂的ラブのこと」
「知らん」
「うふふ。次はイタキス持ってきてあげるからね」
「また俺様系主人公なんだろ。たまには陰キャの主人公の作品を持ってこい」
「陰キャの主人公なんて見て誰が楽しいの?」
「お前、今全国のオタクを敵に回したな。純情な読書家の心をへし折ったな」
「え、え、えー……。だって絶対イケメン見たほうが楽しいし、桜井だって可愛い女の子が出てくる話のが好きでしょ?」
「それはまあ。ヒロインが可愛い作品にハズレはないからな」
「ほらー。男だってキャピキャピ女子がいいんじゃーん。やーね」
「その理論だと、創作でも優遇されるのは美男美女、陽キャどもか。くそっ。僕の憩いの世界すらにまで浸食しやがって……」
「ねー。やーね」
「……いや、五十嵐。お前はどう考えてもこっち側ではないだろう」
「えっ! それって私がカワイイってこと⁉ いやーん、えっち!」
「人間の容姿にAIが点数をつけるなら高偏差値帯にいるというだけだ」
「うーん、カワイイをここまで貶められるのはやっぱり桜井だけだろうね……」
「そんな褒めるな」
「明日耳かき持ってくるね」
「それならば僕は明日IQテストを持ってこよう」
「いいねー。勝負してやろうじゃないの。学年一位だか何だか知らないけど、本当に私より頭いいんですかー?」
「ふん、明日吠えずらかかせてやる」
「ふん! 私に負けたらジュース買ってこさせるからな! ……ふふ」
「……」
「あははー。あーわらったー。桜井、家まで送ってくれてありがと。明日楽しみになったよ」
「……僕もだ」
「……毎日、ありがとね? 楽しいよ?」
「なんでそこで疑問符?」
「あははー、なんででしょ? ……うん。……ふう……。……よし! じゃあ、また……明日、ね?」
「……ああ。また明日」




