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17/20

*大学一年生 十二月

 12月24日。クリスマスイブ。

 かつては寒い雪空の下、二人で身を寄り添い合って温め合ったのも遠い昔のように感じられる。

 あれから幾年。私たちはとある温泉宿でクリスマスイブを過ごしていた。

「いやあ、いい湯ですなあ」

「……そうだなあ」

 私、五十嵐 春奈と桜井 凛史郎は二人濁り湯につかりながら星空照らす夜空を眺めていた。それにしても……。

「凛さあ。こんな美少女を隣に侍らせておいて、女体よりもお湯を楽しむとはどういう了見なんだい?」

「春奈さん。僕はもう疲れたよ。出発前から移動中、到着後からの諸々を思い出してくれ。それにこの後のことも考えると、せめて温泉くらいはゆっくり滋養強壮させてほしいね」

「でもでも、大体のAVは温泉でいやらしいことをするんだぜ?」

「でもでも、大体のAVは休憩時間長いじゃない? 僕にも休憩時間をください」

「まあ、折角の温泉だしねえ」

 私はそういって、彼の腕に抱かれに行く。

 高校の時から変わらない、そこまで厚みのある肌ではないけれども、男性であることは感じられて、こうして肩を抱かれているだけでも支配されている感じがあって中々いいものだ。

「そういえば、濁り湯なのは少年たちへの配慮? 時代だね」

「やべえ、この女自分がアニメ化されると思ってる」

「隠し撮りAVとはいえ、こういう配慮をするようになったんだね」

「AVで少年への配慮はいらないの。本来は見てはいけないの」

「私たちに子供出来ても一切見せないってのはできないんだろうね」

「一切見せなくなるとこうなるなら、少しくらいなら見せたほうがいい気がする」

「こうなるって、あたいのことかい?」

「そうでっせ」

「くらえ!」

 私は両手で鉄砲を作ると、彼の顔にお湯をかける。

 凛は手でお湯を顔から払うようにする。相変わらず思うけど、彼は髪を上げるとめちゃめちゃイケメンだ。すごいムラムラする。

「……なあ、風呂ではやめない?」

「うん……うん……わかってる」

「いや、わかってないね、この痴女」

「おっとついうっかり」

 私はついうっかり彼の胸から首のあたりまでにちゅっちゅとキスをしていてしまっているようだ。欲求不満かな? 気を付けないとNTRだぜ? まあ、世界が億回滅んでも別の男に靡くことはないけど。

 私たちのふざけた会話も一度とまり、またふうと息をつく。

 こうして二人で露天風呂につかる未来。あれだけ夢見ていた未来が、こうしてわずか数年で叶うだなんて、当時の私たちに信じられていただろうか。

 こんなすぐに夢がかなってしまったら、燃え尽きてしまうんじゃないのかと不安に思ったことはあったが、すぐになくなった。

 なんでかって? 彼と一緒にしたいことが山ほどありすぎて、叶えても叶えてもどんどん出てきてしまうからだ。むしろ後二回人生欲しいくらい。

「……春奈。あれ」

「……ん?」

 お湯の気持ちよさで走馬灯を見ている私は、凛の言葉でハッと気が付く。

「……雪だな」

「素敵……」

 そう、あの日の夜と同じく雪が降っているのだ。

 なんてロマンチックなのだろう。あの日の願いが全て叶ったのだ。

「まあ、雪予報なのを見てこの宿にしたんだがな」

「ねえ。人の感動に水差さないでよ」

 悪い悪いとケラケラと笑う凛。お金も時間も余裕ができたからと、この宿を予約してくれたのだ。クリスマスイブなんて予約も取りにくかっただろうに。本当にこの彼氏様には感謝でしかない。

「ん。0時回ったな」

「あ、本当だ」

 彼が持ち込んできた時計を見ると、時計の短針が12をさしている。

 そう、今日はもうイブではなく。

「メリークリスマス、春奈」

「メリークリスマス、凛史郎」

 私たちはそんな仰々しい挨拶に二人して顔を見合わせて笑う。

 しかし、一転。真面目な顔になった凛は私を見つめると、そのまま優しく唇を重ねる。

 優しいバードキスだ。彼の肌は、もう冷たくない。

「愛してる。春奈」

「私も愛してるよ。凛」

 そして、もう一度優しいキスをする。

「ねえ、凛?」

「どうした?」

「高校一年生のクリスマスイブ、覚えてる?」

「もちろん」

「あの時、キスしてほしいなーってずっと思ってた」

「……ごめんな。あの時、臆病で」

「ううん。だから今日、あの日の分もたくさんしてくれる?」

「ああ。もう唇が冷たくなんてならないくらい、何度も何度もキスするよ」

「ちょっと表現キモイ」

「……」

「ごめんって!」

 私は頬を膨らませてそっぽを向いた凛を見る。

 こうしていじけた様子の彼を見ると、私のイケない部分が刺激されて……。

「……春奈さん?」

「なーに?」

「どうして、僕の膝の上にのってるんですか?」

「うん。なんでだろ」

「僕が聞いているんだけどな」

「ねっ……なっ……なんで、だろうね」

「前後に動かさないでもらえます?」

「……だめ?」

「……温泉ではしないんじゃなかったの?」

「……温泉でもしたくなっちゃったの」

「だめっていったら?」

「その気にさせる」

「……愛してるよ、春奈」

「私も愛してるよ。だから今からいっぱいいっぱい愛して、ね? お互い悔いも欲も残さないように」

「……煩悩も全部消されそう……」

「愛してる、凛……。じゃあ、いただきます」

「いただきますってなに⁉」


 あの日と変わらぬ愛情を貴方に。メリークリスマス。




この世界にバッドエンドは存在しません。

彼女らの苦痛も苦労も、あと数年で報われます。

この未来は決して変わることのないハッピーエンドの先の幸せです。

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