高校一年生 十一月
「文化祭、おつかれさまー!」
「おつかれ」
いつも通りのある日の放課後の部室。私―五十嵐 春奈は部長である桜井 凛史郎と文化祭の反省会兼打ち上げをしていた。
普段はお茶かコーヒーとちょっとしたお菓子だが、今日は事前に準備しておいたコーラとお菓子である。
本当は文化祭の後、クラスの打ち上げがあったのだが例によって私と桜井だけがいけなかったのだ。
最近、そうした集まりに私と桜井だけがいないため噂が立っているみたいだ。
桜井は気が付かないだろうし、私は気にしないけど、どうやらクラスの友達が噂が聞こえるたびにこわーい顔で否定しているから、思ったよりは広がっていないらしい。
別に気にしないのに。
とはいえ、面倒なことは回避するに限るなと目の前でコーラを飲んでいる少年を見ながら私は思う。
「なんだよ。変な顔して」
前言撤回。クソガキ。
「変な顔ってなにさ。ただ見ていただけでしょ」
「その割にはニヤニヤした顔で見ていたぞ。そんなにこの非モテの顔が面白いか」
「面白くはない」
「いっそ笑ってくれればまだ救いはあったのに……」
なんだか桜井が落ち込んだ様子だが、別に私は桜井の顔を悪く思っているわけではない。というか、クラス、ひいては学校、もっと言えば同年代の全ての男性と比較しても断トツで顔がいいと思うけど。
まあ、私は顔で男性を判断しないから関係ないけど。
「まあまあ、折角の打ち上げなんだし、テンションあげていこうぜー! イッキ! イッキ! イッキ!」
「頭の悪い大学生か。そもそも、打ち上げというほどうちの部活は真剣に取り組んだわけじゃないだろ」
「それなー」
私は煎餅を一つ齧って机の上を見る。
そこには我々の展示物である『昨今のライトノベルにおける長文タイトルに関する市況的分析~少女漫画に出てくるイケメンの不愉快行動分析を添えて~』がある。
「いやまあ、よく作ったよねこれ」
私の呆れたような言葉に桜井も、本当だよ、と同意する。
いや、これ作った時は謎のテンションだったし、これにしようって決めたのは真夜中でのラインでだから深夜テンションだったんだけどね。
実際にその時のラインは4時こえてたし。もう朝だわ。
「うーん、作っておいてなんだけど、作っているときはなんだこれって思ったよね」
「……気持ちはわかるが言わないでほしかった……」
私が煎餅をぼりぼりとかじりながら話しているのに対抗してか、桜井もやれやれといった様子でポッキーを手に取る。
まあでも、作ってるときは楽しかったし、できた時は感動したんだけどね……。
「だがまあ、楽しかったな。できた時は感動したし」
「っ! うん!」
気持ちがシンクロして、思わずスーパーハイテンションでうなずいてしまう。
だが折角そんないいことを言ってくれたのに、桜井はすぐに気持ちに水を差してきた。
「だが、当然一ミリとして受賞にひっかることはなかったな」
「当然って……。ラインしてた時はこれは受賞間違いなしだって言ってたじゃん」
「あの時は不眠のテンションだ」
そんな冷めたことを言う桜井に、私はぶすっとした表情で見る。
すると少し照れくさそうに桜井は言う。
「……まあ、後二回チャンスはあるからな。今回の反省を活かして次こそは取るか」
「そうだね! じゃあ早速作戦会議だ! はいはい! 私にいい案があります!」
「なんだよ」
声のトーンは変わらないが、少し楽しそうな表情になって桜井は言う。
ふむふむ。最近この男の感情が読めるようになってきたぞ。
「やっぱさ! 私たちで小説作品作ろうよ!」
「……同人誌か?」
「まー、そんな感じ! 二人で中身を考えて、私が挿絵を描くから桜井は文章を書いて!」
「原作二人、作画五十嵐、文章が僕か。……また内輪ノリになって寒い感じにならないか?」
「うっ……」
それを言われるとちょっと弱い。今回の展示物も作っているときは楽しかったのだ。考えているときは唯一無二な気がした。
だけど冷静に振り返ると自己満足百パーセントだった。
「うーん……。うーん……」
どうするべきかなー……。第三者の意見を求めるべきなんだろうけど、学校の誰かに見せるなんて流石に恥ずかしくて無理だし……。
と私が悩んでいると、桜井は部活の備品であるパソコンでカタカタと何かを調べて私に見せてくる。
「これは?」
「小説投稿サイトだよ。ここに投稿するか」
「……えー。こういうところってコメントでひどいことかかれそうでいやだよー」
「そういうな。ひどいことを書かれるということは見てもらえているということだ。それに、悪口書かれたところで二人の作品になるんだからダメージは半分だろ?」
しれっとそんなことを言う桜井。
私は悪戯心で桜井の腕に抱き着いて肩に頭をのせる。
「うふふ。そーだね!」
桜井は顔を真っ赤にして私を振り払う。やれやれ、ピュアボーイめ。
あー、暑い。エアコン利きすぎ。私はコップに入れたコーラを一気に飲んで体温を下げる。
桜井はまだ顔を赤くしたまま咳ばらいをして話を再開する。
「こほん。じゃあプロット考えるか。人気が出る出ないどちらにせよ、単行本一冊ぐらいまでの文量を来年の文化祭までに投稿して、文化祭はそれにおまけを乗せて展示するか」
「さんせー! じゃあさじゃあさ! 折角なら純愛ものにしようよ! ハーレムはダメ!」
「それはいいが、主人公に臭いことを言わせるのはなしな。主人公はリアリストで女に媚びない主人公にする」
「えー! それじゃあ恋が始まらないじゃん! 少しくらいはカッコいいこと言わせてよ! 私が考えるからさ!」
こうして、私たちの創作人生初めの第一歩(?)が始まる。
あれだね。ネットミーム的にいうと、そして伝説が始まる! だね!
「名作をネットミーム扱いするんじゃない」
文化祭一年目
クラスの出し物は部活の時間や授業時間を使ったときだけのお手伝いレベル。
本当は本腰入れて手伝いたかったが、呼び出し等ですぐに退散してしまうことを申し訳なく思い手伝いきれなかった。
二人の合作は良くも悪くもパソコン一つあればできたので、ラインで相談しつつ桜井が完成させた。
なお、コア層にはひっかかり、特に現代文の担当教師は感動して語ってくれた。
ついでに部活顧問もやってもらうことになった。




