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12/20

*大学四年生 九月

「感動した!」

 残暑残る今日この頃。我が家ではまだエアコンがフル稼働している。

 しかし、エアコンを消すと暑いというくせに付けると寒いという我が家のお姫様の影響もあり、外では蝉の声すら全滅した酷暑の中、我々、桜井 凛史郎と五十嵐 春奈はべったりとひっついて本を読んでいた。

 そんな状況の中、告知もなく大声をあげられるということは。

「春奈……うっさい、距離考えてくれ」

 しかし、僕のそんな苦情に対しこの犯人は反省することはなく。

「違う! 間違えているぞ、凛史郎」

「なーにを?」

「君はカワイイ彼女の一挙一動に関心を持って生きねばならぬ」

「ほほー」

「つまり、私が感動した、ということに対し君は何に感動したんだい? 話聞こか? と黒マスクをして声をかけねばならない」

「それ最後お持ち帰りされてるけどいいの?」

「いいよ。じゃあ今する?」

「付き合って大分長いが、僕はやっぱり情緒をもっと大事にするべきだと思う」

「愛があるのを性行為というのであれば、愛がない欲望の発散は交尾だと思う」

「我々は人間だろ?」

「交尾も好きやで」

「で、何に感動したんだ?」

 この性豪に付き合っていたら会話の節々で搾り取られる。

 そうなる前に無理やりにでも本題に戻してやった方がいいと知ってはいるのだが、成功確率は25%程度。

「そうそう! これこれ!」

 どうやら成功したようだ。性交だけに。こほん。

 この話はとりあえずおいておいて、春奈が持ち出したのはついこの間完結を迎えたとあるライトノベルだ。

「ああ、最終回に感動したのか?」

「いや別に。想定内だったし、無理矢理感あってちょっと笑っちゃったけど」

「なーんでそんなひどいことを言うのだろうこの子」

 きょとんとした顔で毒を吐くこの少女。とてもシリーズをずっと追ってきた古参ファンとは思えない。

「私が感動したのはね、この内容じゃなくて、きちんと完結させてくれたってこと!」

「あー、なるほどね」

 そう、春奈が読んでいたこの作品は、三年前から全く新刊が出ておらず、打ち切りの話も出ていないことから、完全に作者が書く気をなくし、あやうく未完で終わる作品だったのだ。

 ラノベあるあるだな。


「それにね、これは凛が初めて貸してくれたラノベじゃん?」

 そう、このラノベは僕と彼女が初めてお互いの趣味本を交換するときに、彼女に渡したものだ。この当時はまだ新しかった【ざまあ系】作品の始祖でもあり、この時は1巻までしか出ていなかったが、打ち切りだろうなという予想からよくもここまでの人気作になったものだ。

「だから、これを、彼女たちのモノガタリを最後まで読めたことに私は感動しているの」

「まあ、世の中には完結させることを放棄させる作家も多いからな。理由はいかんせん」

「確かにね。持病とかそういうのであれば仕方がないと思うけど、別作品とかアニメ脚本とかゲーム脚本では元気にしているくせに、その作品だけは完結させない作者。あれはね、罪だと思う。育児放棄だよ育児放棄」

「まあ、気持ちはわかるが。それでも色々事情があるんだろう。特に、自分が想像していた路線とは全く別の道を走ってしまって収集がつかなくなるとかな」

「そんなのは言い訳だよ! それでも彼女たちを救い出して決着をつけるのが親の責任でしょ!」

「作者な」

「そうともいうけど!」

 何故か春奈はやたら興奮しているようだ。

 思えば二年前くらいからこの作品の続きはいつ出るんだとやたら憤慨していたな。

 続きまだ? と書いたファンレターも送っていたという。怖いねー。

「例えばさ、ヒロインが敵にさらわれて、そこで放置する作者いるじゃん」

「いるけど実名は出すなよ」

「これさ、間違いなくヒロインは孕まされてるよね! 快楽堕ちしてるよね!」

「流石エロヒロイン。考えてることが思春期」

 こいつだけ思春期少し遅れてきてないか?

 毎日毎日そっち方面で元気すぎるぞ。

「もし私がその作品のヒロインの立場だったらよ!」

「うん。話を聞こうか」

 春奈は僕の首に両腕を回して膝の上に乗っかって話す。

 体温が直に伝わって暑くなってきたので、春奈の話を聞きながらエアコンの温度を一度下げる。

「私がヒロインだったら、さらわれて、一年もたったら見捨てられたと思って敵とイチャイチャしだすよ! 間違いなく!」

「もしお前が何かのヒロインだったとして、一年ぶりに会ってみたら堕ちてたのか。大炎上待ったなしだな」

 いや、こいつなら意外とやっぱりね、と掲示板が大盛り上がりしてくれるかもしれない。ないか。

「つまりね。女の子は放っておいたらいけない、ということなのさ。お花と一緒で、きちんと日々管理してあげないと綺麗に咲いてくれないの」

「なんかうまいこと纏めたみたいだけど、なんかちょっと違う気がするぞ」

「ねえ、私がさらわれたらすぐに助けに来てくれる?」

「ああ、何にも代えても助けに行くから、すぐに堕ちないでくれよ」

「くっ! 殺せ!」

「ああ、次のページで堕ちてるわ……」

「じゃあ敵に堕とされる前に沢山楽しまないとね」

「……ああ、結局こうなるのね」

「おぬしもすきよのう!」

「おぬしはすきすぎるな」

 とりあえず、エアコンの温度はもう一つ下げておこうか。


余談だが、人付き合いが深く狭い人であればあるほど、依存度が性欲が指数関数的に増えていく気がする。

そういった意味では確かに春奈ちゃんは……。

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