第8話 バーティカル
「いや、勘違いしてほしく無いんだけど、正直言うと今のラインナップは、いつか飽きられると思うんだ。」
会議では経営方針に強く口出しする姿は見受けられないけど、この人とんでも無い事を口にするな、と思ってドキッとする。
戦略部長なんかが聞いたら一晩中会議になりそうな発言だった。
だか、
社長の嗅覚は鋭い。
時代は巡りそして、歴史は繰り返す。
古い文献をついぞこの前までほじくり返していた時、流行りのアルゴリズムのようなものを感じた。
バーティカル、つまり垂直方向に伸び上がる人気を誇るものは、いつか必ず鈍りを見せ、違う流行へとシフトしていく。
Vトップの由来でもあるバーティカルはそれに似たものを感じさせる。
豊富なカラバリを展開し、ディテールを変えた商品を毎年繰り出して今はまだ文字通り鰻登りに売れてはいるが、他の主力商品が必要だ、と言いたいのだろうか?
その為に昔流行ったフォルムを感じた私に声をかけて、アドバイザーをつけてくれたのだろうか?
「ただVトップはやはり女性が大半を占めている商品だ、君達の思想や世論を蔑ろにして別方向に歩みを進めることは憚られる。」
タガルさんが口を開く
「あの、社長、俺あんまり、話見えないんだけど。」
いやいや!私もサッパリ見えないんですけど!
「ハハハ、悪いタガル君。コチラは我が社の優秀な研究員、明手 星君だよ。」
「あ、ど、どうも。」
「はい。。。どうも。」
私達の関係に何かを感じたのかも知れないけれど社長は気にせず本題に入る。
「ある服をね、復興して欲しいんだよ。」
「また昔の服ですか?燕尾服で飽きたでしょ!蔵から見つかったやつ!社長以外難しくて誰も着れないって。」
タガルさんは馴染みの知り合いなのだろう普段使いの言葉で言い返した。
エンビフク?なんだそれ??
「そうそう!!確かになぁ〜あれは参ったよ。」
と思い出し笑いしながら
「だが、あの服は成功だった。一瞬自分で無いかの様な錯覚に陥るほど佇まいを変える事ができた。感謝してるよ。」
「服を脱がしに海外まで呼ばれた時はちょっとイラつきましたけど。」
「悪い悪い。で、私の希望は2人が協力して作る気になれば取り組んで欲しいだけなんだ。」
「業務命令では無い、と?」
自分の身の丈を理解しているつもりの私は、無理難題が降り注ぐ予感がして断れるかどうかを気にしてしまう。
「そうだね、
業務命令にしてもいいんだが、
仮に作れたとして流行るとは限らない。
なんだったら激しくバッシングされるかもしれない。しかしそれは燕尾服以上に世の中の人を興奮させる起爆剤になり得ると、私はそう思っているんだ。」
や、だからエンビフクって何!?
タガルさんと私が目を合わせる。
途端タガルさんが私を見て気づいたのか
「えっ?」
と言葉を発した後、ギギギと、首を社長の方に向けて
「もしかして?」
「その通り。BHR トクちゃんの孫にしか出来ない仕事だ。」
そう言いながらむせるまで笑う社長だった。




