第6話 見抜く人
外れない。
朝の会議が始まる直前、耳掛けタイプの通信端末で、タガルさんいたあの鍵店を調べる。
「ねぇ、アイさん。」
人工知能の起動用ワードの後要件を話す。
「司鍵店ってわかる?すぐ連絡をとりたいの。」
「おはようございます。星さん。
ツカサ カギテンで検索しました。
合致なしです。
似た内容で良ければご紹介致しますが、そちらも現在営業時間外です。」
営業時間外。どうしよう。
「そ、そうよね、そのお店って営業時間にすぐ連絡取れる?」
「はい。内容を仰っていただければお話をお伝えいたしますよ。」
「えっ!?内容!?あ、あ〜私が直接話すわ!また後で電話番号だけ教えてね。」
腕を見るとスッと耳にあるアイさんから青白く投写された時計が腕に浮かび上がる。
もう会議まで時間がない
仕方なく上から会社規定の服を羽織る。
鏡を見たとき少し安心した。見た目は変わらない。
……はずだった。
少しだけ背筋が伸びて胸が張って見える。
でも
「こんな変化、自分しか気付かないよね。」
半期に一度の会議が始まった、四半期の売り上げから始まり人員の削減達成率、紛争地域の支援物資予算。たくさん議題がある中でやはり最後の議題に残されたそれは
新社長候補の話だった。
「えー、みなさん、私もそろそろ引退すると言ってかなり経ちます。いい加減に後進が名乗りをあげてくれないものかと、」
朗らかな社長はどこか漫談の様な口調で話し出す。
先程まで数字におわれていた社員達も報告が終わった事と社長の明るい口調に思わず頬が緩む。
あぁ、この社長だから長続きするんだろうなぁと会議のたびに思っていたのだが。
社員を笑わすくらいの会話が続いた後、急に
「じゃあこうしましょう。期日までに自薦・他薦問わず名乗りをあげた方々の中から選挙をしましょう。
役員と課長職以上の全員に一票を託します。」
と話し出した。
うわー研究職だから他部者の人の名前全然覚えてないよぉ〜!そう思いながら周りを見回すと1人知ってる人がいた!しかも現段階で一番社長の椅子に近い女性社員と噂されている人物、
増見ふえみ 総務課統括部長。
賢く冷静。正論で言い訳させない強さを持つ、
効率や合理性の申し子の様な印象だった。
(増見さんでいいよね。)
正直言って会議も何も、星はずっと上の空だったのだ。
「服が気になる」
その一点において間違いなくこの場にいる社員の中で一番会議とは関係の無い別の事を考えているマヌケな人物。それが今の彼女である。
細かな日程をすぐに調整して、司会が代わり、もう会議終盤に差し掛かる。ふとどんな気持ちで現職を去るんだろうなぁ?と関係も無いのに静かに座っていった後の社長の方をみると
全然話を聞いて無かった。
隣の人と話しながら笑顔で資料を指差して見てる。
遠足のしおりを見て楽しそうに隣の席の人と話す子供の様に見えた私はフフッと軽く笑ってしまった。
そのとき急に顔上げこちらに目を向けたかと思うと瞳を大きくして私を凝視してきた。
無限に思われた時間は隣の席の人に邪魔され、また資料に目をやる。
危なかった、社長を見て笑ってる変な社員かと思われるところだった、って!!ほっとしたのも束の間、
また私を見てきた今度は穴が開くくらい乗り出して、
私は資料見る!
こういう時は真面目な社員を装うのが1番!早く終わって〜!!
すると司会の方が
「これにて会議を終了とさせていただきます。」
と宣言して、私の肩の荷が降りる。
みんな立とうとした時
社長が声を出した
増見に聞く。
「増見君!服装についての社内規定を確認してくれるかな。」
と大きな声でその場の何十人かを立ち止まらせた。
心臓が止まりそうだった。床を見つめて止まっていると背中にじんわりと汗をかくのがわかる。
増見さんは即答する。
「社内規定第2項 2-1 やむを得ない場合を除き当社の製品を着用する事。」
社長は優しく
「皆、今日も素敵な着こなしだ。より良い服を作る為、たくさんのお客さんに着てもらう為、さぁ!今日も一日頑張ろうか!」
全員への激励。皆頷き颯爽と会議室を出て行く。圧倒的なカリスマを見せつけられると同時に硬直している自分がいた。
人がまばらになった会議室でようやく動けた。深呼吸をして書類を机にトントンとしてから去ろうとした時、後ろから声がかかる。
「明手君。」
終わった。
社長だった
少し笑っている。
「何か、大きな変化があったんだね。」
また硬直してしまう。
意味わからない・・・訳ではなかった。
観念して
「……はい。」と答えると
社長はまた笑う。
「なるほど。」
やってしまった、趣味で社内規定を逸脱してしまった!
「今日、この会議の中で。」
社長は少し考える。
「君が一番、生きて見えた。」
私の返事を待たず社長退室。
増見さんが会議室の片付けを終えてやってきた。
残っている私を見る
「あらっ、あなた。開発部の。」
少し笑う。
「興味深いですね。」
その目は。
人を見る目じゃなく。
変化を見る目だった。




