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BHR タガル  作者: ドスコイK
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第19話 外し屋

工事現場の喧騒の中で。

二人の視線が、ようやく重なった。


「タガル……さん?」


星の声は、鉄骨を打つ音にかき消されそうなほど小さかった。


タガルはしばらく何も言わなかった。

ヘルメットの下から、少し驚いたように星を見ている。


「……危ねぇぞ。」


最初に出た言葉は、それだった。

星は一瞬きょとんとした。

そして、少しだけ笑った。


「久しぶりに会った第一声が、それですか。」

「工事現場の前でぼーっと立ってる方が悪い。」


タガルは視線を逸らす。

その横顔は、少し日に焼けていた。

以前より髪も伸びている。


作業服は土埃に汚れ、手には細かな傷がいくつもあった。


けれど、その声も、そのぶっきらぼうな言い方も、

間違いなく、タガルだった。


「会いたかったです。」


星は、逃げずに言った。


タガルの手が止まる。


「……そうか。」


それだけだった。


けれど、その短い返事の奥に、ほんの少しだけ動揺が見えた気がした。


「おい、ハズシ!」


現場監督の声が飛ぶ。


「知り合いか?」


タガルは振り返る。


「休憩行ってこい。」


「はい!ありがとうございます!」


タガルはフェンスの外へ出てきた。


二人の間に、少しだけ沈黙が落ちる。


星は深く息を吸った。


「戻ってきてください。」


タガルは答えない。


「アドバイザーとして、もう一度。」


「……。」


「あなたが必要です。」


タガルは静かに星を見た。


「会社は?」


「条件付きで、企画案は再審査になりました。」


「世間は?」


「きっと、簡単には受け入れてくれません。」


「叩かれるぞ。」


「はい。」


「会社も、あんたも。」


「はい。」


「売れる保証もない。」


「はい。」

星は、まっすぐタガルを見た。

「それでも、私はやりたいです。」

タガルは目を細める。


「誰かに言われたからじゃなくてか。」


「はい。」


「研究室の連中に押されたからでもなく。」


「はい。」


「社長さんの遺言だからでもなく。」


星は一度、言葉を止めた。


そして、静かに首を振った。


「全部、きっかけではあります。」


「でも。」


「選んだのは、私です。」


タガルは少しだけ笑った。


「なら。」


「君が選んだのなら、喜んで。」


風が二人の間を通り抜ける。


「社会のバッシングを受けよう。」


星の胸が熱くなる。


「ありがとうございます!!」


「まだ礼を言うな。」


タガルはヘルメットをかぶり直す。


「俺が必要って事はまだ完成してねぇんだろ?」

星は慌てて端末を開いた。


「はい。タガルさんのデータを再現しても、他人が外す成功率が12.6%から上がりません。」


「87.4%は離せない、か。」


「……はい。」


タガルは少しだけ懐かしそうに笑った。


「昔から、そういう数字だけは妙に正直だ。」

「原因、分かりますか?」

「見ればな。」


「今から来られますか?」


タガルは現場の方を見る。


監督が腕を組んでこちらを睨んでいる。


「監督。」


「なんだ。」


「早退していいですか。」


「理由は。」


タガルは少し考えた。


「本業っす。」


監督はしばらく睨んでいたが、やがて大きくため息を吐いた。


「・・・。今日までの給料。明日にゃ振り込むから。解体ん時はたまにバイトに顔出せや。」


「はい。」


「あとハズシ。」


「はい。」


「今度は逃げんなよ。」


タガルは何も言わず、軽く頭を下げた。


星はそのやり取りを見て、小さく笑った。


「ハズシさん、なんですね。」

「今さらか。」


「社長が言っていた葉寿司って……。」


「俺の名字だ。」


「タガルさんは、葉寿司さんだったんですね。」


「あぁ、葉寿司 タガル。外し屋だ。」


「……葉寿司、タガル。」


星はその名前を口の中で繰り返した。


ずっと探していた答えが、目の前に立っている。


胸の奥が、また少しだけ震えた。


「行くぞ。」


「はい!」


二人は走り出した。



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