第10話 パートナー
「あ、あの社長!すごく良い機会だと思います!はい。」
「えっ?いや、明手君がそんなに乗り気になるとは思わなかったなぁ。」
頭をぽりぽりと掻く社長の横でタガルさんは
「で、俺にどーしろって?確かに廃業寸前だしまとまった仕事もらえるならありがたいけど。」
「今になって恨まれるのは百も承知だが、その廃業は私達ウニクロスを含めた大企業が起こした皺寄せだと思うんだ。
合理化、強靱化、利便性、持続性に快適性。
追求は止まらずそればかりに社会は目を向けて会社を発展させた結果、中小企業や無形技術はもはや風前の灯火となっている。
その利益優先主義がもたらした代償に報いる方法を考えた。
昔の技術を持つ君の知識で活路を見出せればと。」
タガルさんは少し目を細め社長を見つめる。
「じーちゃんへの罪滅ぼしって考えてるならやらなくていーよ。
じーちゃんは最後まで楽しそうに鍵屋の仕事をしながら死んでった。」
だめ!今帰られたらせっかくのチャンスが!
「いやいやいや!あります!もの凄くあります!需要しか無いですよ!」
と私は捲し立てる。というか早く外して!!
「具体的には?、、、って聞かない方がいいな。見たらわかる。」
とタガルさんは柿さんと同じ患者を見るような冷たい目で私を見やった。
社長は上手い事勘違いしているのか?
「おぉ!もうお互いに必要性を見抜いたのか!?凄いぞ若者達!」
とはしゃいでいる。そんな社長を尻目に
「俺の役目も今回の単発だけで、正直別に無いんじゃないか?」
「単発?いや、今回は修理じゃ無いぞ。」
社長は私のピンチを知らずにそう言う。
私は咳払いした。
「……ぎ、技術継承の観点からです。」
と無理やり話を続ける。
「現代の服って、着る研究は進み続けてるんです。でも外す研究って、ほとんど失われてます。」
タガルさんの目が少し動いた。
私はさらに続ける。
「解除、着脱、構造理解。技術として非常に高い価値があります。」
嘘じゃない。
社長は目を細め少し楽しそうに笑い、そして振り返る。
「じゃあ、君たちに任せるとするかな。私は少し用事を思い出した。」
扉の前で一瞬止まると、笑いながら出ていった。
◇
一通り私の部署の人達が寄ってきて社長に何を言われたのか心配すると同時に、みんなはタガルさんに興味が移る。
そんな部下達を振り払い研究室の部屋へ入るとすぐ、私はドアを閉めた。
エレクトロブラインド、起動。
窓が白く変わり外が消える。少し安心した。
振り返る。
タガルさんは研究室を見回していたが、特に何も言わない。
私は息を吸う。
「タガルさん。不躾ではありますが。」
少し服を見る。
「これ。解除してください。」
沈黙し少し目を逸らされた。
「……仕事の依頼じゃないじゃん。」
私は慌てる。
「いや、その、けっ、研究です!」
資料を出す。
「構造は解析済みです!」
「じゃあ自分で取れるんじゃ?」
「でも昨日から取れなくて!」
2人の声がほとんど被る。
タガルさんが諦めるように溜息をつきながら近づく。
私は少し固まるが見てるのは服だけだった。
縫製。
重なり。
構造。
それも数秒、私の後ろへ回ったあと小さく音が鳴る。
カチ。
急に息が楽になる
「え?なに? この感覚。」
あまりに早かった。
タガルさんは一歩下がる。
「あー……。」
少し部屋を見る。
「そのままだと目のやり場困るんで。」
また目を逸らす。
「あの、替えの服あります?」
私は一瞬恍惚とした感覚に襲われたがその声で気づいた、慌てて後ろへ下がり近くの羽織を胸元に抱える。
顔が熱い、何秒見てた?
パッと顔を上げるとタガルさんはもう反対を向いていた。
「あっち向くんで。」
私は動けない。
頭が回らないなりにVトップを探し棚を見る。
あ、届かない。
「誠に申し訳ありません、そこのVトップ取ってもらえますか?」
タガルさんは何も言わない。が取ってくれたようだ、あっちを向きながら手渡される。
心臓の鼓動が少し早い。その理由が彼なのか、それとも長い緊張から解放された反動なのか、自分でも分からない。ただ、さっきまでとは違う世界を見せてくれた人として、自然と視線だけがタガルさんを追っていた。
ハッと気づき背中を向け即座に着替える。
「……すみません終わりました。」
タガルさんはゆっくりと振り返りコチラを見た、
「あー。」
少し考える。
「じいちゃん、こういう時なんて言ってたかな。」
私を見て苦笑い。
「確か、吊り橋効果。」
なにそれ?私は首を傾げる。
タガルさんは肩をすくめる。
「緊張した時の脳の勘違いの事を言うんだ。」
少し窓を見る。
「いや、解除された時って、ちょっと世界が変わって見えるから。半分は本心なのかも。」
返事できずに立ち尽くすと意地悪そうな笑顔になり、
「で。」
「依頼内容、聞こうか。」
私の目を覗き込む。
「ビジネスパートナーになる?」
「……ならない?」




