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W・M・S (Warlock Magus System)  作者: 渡野さら
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第25話 新領主

 

 神殿を出て領主の屋敷に入る。門番は既に聖騎士団に代わっているので問題無い。

 敷地を奥に進み正面玄関近くで馬車を止める。


「あ!お久しぶりです、伯爵様!アーシャ様とターニャ様。宰相閣下ですか?

 ご案内致します。此処は少し任せる。頼むぞ」


「「はっ!」」


「「マリエッタさんもお久ぶり」」


「デッカー隊長もクロノス殿も久しいです!ニルヴァーナ騎士団は国内最強の噂で皆が注目しています!あの、入団基準の噂って、その、嘘。ですよね?」


「いえ、本当です。希望者全員が全身装備のまま、猛吹雪のアルマンド山脈を越えドラゴン討伐です」


「あれは楽しい思い出です。また行くようなので、マリエッタ殿も参加されますか?」


「いっ!わ、私、ええ。考えておきます…(そりゃ最強だわ)あ、此方です。ニルヴァーナ伯爵様をお連れしました!」


「うむ、ご苦労!こっちだ」


 通されたのは応接間で、綺麗に片付けてある。


「マリエッタ殿は同席して給仕もしてくれると助かる」

「はい!お任せを」


「捜索はまだまだだな。宰相閣下も大変だな」


「仕方あるまい、次々と悪事が出て来る。闇は深そうだ。さて、これでメルも晴れて領地持ちの大貴族に仲間入りだな。奥方の実家、ボルドーとも領地が近くなるし防衛は任せた。予定通りにアルテンメルンとナーフェルベントを頼む」


「「まあ!」」「「なっ」」


「デッカー殿には軍団長として期待している」


「は!宰相閣下!お任せ下さい!」


「これでヴァラント家は取り潰し。本人は斬首、財産は9割没収で無罪の家族は王都追放。

 何なら雇用してはどうかね?どうせ家名は名乗れんのだ。

 長男はまだ少年だし長女は文官か、妾にでもしておけば操縦は容易いぞ?」


「ん~余り増えてもなぁ。確かに、家臣は欲しいから領内からも募る予定だが」


「メル、貴殿は最早大貴族だ。これだけの領地を持つのだぞ?

 王宮老人倶楽部の企みとしては数年内に侯爵に昇爵して貰う予定だ。女の10人程度で騒いでどうする?非公式でもエリダ様が子を産めば順王家の資格も持つから公爵も可能になる。

 お前達の年代には悪い意味での小粒が多い。少し年上のイエネッタ位だ。

 ボルドー家の跡取りは有望株だが、後はまだ出ておらん。嫌でもニルヴァーナ家に期待が懸かるのだよ。貴族は家と家の繋がりだ。女性を娶るだけで済む。性格的に向かんだろうがな」


「「侯爵に公爵家なんて…」」


「ああ、向かないな。だが、有効なのは理解している。救済にもなる。考えるよ。

 所で、ウチはいつから動けばいい?」


「うむ、空白は産みたくない。余計な混乱が生じるのでな。明日、この地からの発信で領主交代を布告する。で、一緒に王都に戻る。

 ヴァラントの罪状及び正式な新領主は1週間を目処に発表する。何なら明日から動いても構わんぞ?」


「ああ、明日は下地作りだけして王都に戻ろう。色々整えてからにする。どの道ヴァラント家も訪問してくるだろうし、士官の宛ても殺到するだろうからさ。引き受けた以上、助力は頼むぞ宰相様」


「何となく、息子のようで放って置けんのだよな。仕方あるまい」

「「お願い致します、宰相様」」


「これからどうするね。此処か、何処か宿を借り上げるか…」

「いや、要塞馬車でいい。アーシャ達は良いか?」

「はい。旦那様に従います。不自由はありませんから」


「宰相もイエネッタもこっちに来るか?馬車が敷地内なら問題無い」

「うん?良いのか?どの道帰りは頼もうと思ったが」

「私はアーシャ様と仲良く出来るから嬉しいがね?一度乗りたかったんだよ!」

「では、頼もうかの。夕食はどうする?」

「ここだと手間が掛かるだろ?馬車の食堂にしよう」



 全員で馬車に移動して談話室でお茶にする。準備が整うまでに時間が掛かる。

 屋敷の捜索は聖騎士団が主導で行い、宰相とイエネッタ。付き人でマリエッタも此方だ。

 取り敢えず、断罪するだけの物証や書類に証言者は確保しているので、余罪がどれだけ出るかだけだ。



「なんと!こんな事になっておるとは驚いたぞ!屋敷と変わらんでは無いか?」

「メルの非常識には慣れてたつもりだけど、これは……女性には助かるけどね!」

「あの、私、恐れ多いのですが……」

「大丈夫ですよ?予備の部屋は沢山有りますから。ルジェアンテ様ともお話したかったのです」


「今回は大筋、これで良いとしてアソコがな。中々進まん。各国が譲らん」

「呪われた地、元オストラバかい?そりゃ欲しいだろうさ」

「だが、浄化して呪いを解くのも容易じゃ無い。小国に出来るのか?」

「そんな時だけ支援しろ!とか言って来そうだねぇ」

「難民が各国に押し寄せたのですよね?」

「ボルドーでも少数ですが受け入れております」

「ポルンガ、スパンダル、ロマーノ。中でも南のロマーノに多くの難民が向かった。今も国境線で難民生活者が多い。そこを突いて来る」


「難儀な話だな。俺は領地の話で十分だ」

「実家とお隣は治安も含めて悩ましい様ですわ」

「難民達は国境でのテント暮らしが長い。ロマーノは支援せず放置状態でスラム化と聞いている」

「良い状態じゃ無いねえ。何とか助けてあげたいわね。病人や女子供だけでも」

「武力で介入するのは容易いが、民を救いながら土地を開放し再建するのが骨だ。本来は4国が共同で事に当るべきなのだ。我が国とポルンガは略、合意しているがスパンダルとロマーノが揉めている。戦争も辞さないだろうな。難民も男手は裏で奴隷に売られ、女は国境の兵士相手に売春だ。パンと引き換えにな。病人は死ねばその場に埋めるだけ。一切れの肉で殺し合いと言う地獄だそうだ。疫病が流行るのも時間の問題だろう」


「お館様。用意が整いましたので食堂へどうぞ」



 宰相が来たからか、女性陣が頑張ったようだな。調理に力を入れたのが分かる。悪い事をしたな。

 まあ、驚きながら嬉しそうだったので頑張った甲斐が有ったのだろう。

 食後はマッタリと男女別で雑談してから風呂に入り、就寝。

 アーシャとターニャは其々自室でねているので、俺は眠る必要が無い。

 どうしようか考え、外を見回る事にした。



 先ずは屋敷と敷地を見て回る。

 今後は我が家の館になるのだから改修を考えての事だ。随所に悪趣味が見える。

 騎士団の連中も不眠不休の大捜索だな。一気にケリを付ける思惑か。

 門を出る所で声が掛かる…ジェシカだな。困った娘だ。


「お、お館様。あの…どちらに」

「お前な。年頃の女が1人で出歩く時間では無いぞ?」

「………出て行かれるのを見て、気になって…」

「仕方無いヤツだ。早目に切り上げるから着いて来い」

「は、はい」


 春とは言え、夜の外は寒いので俺のコートをジェシカに掛ける。

 一応剣帯を巻いてショートソードの魔法剣を2本差す。

 人気の少ない路地を選んで歩く。辺りは暗い。


「あの、お、お館様はどうして」

「ん?自分の領地になる領都だからな。少しでも見ておくさ。夜は様々な輩が徘徊する。離れるな」

「はぃ。あ、上着、嬉しいです。お優しくて」

「ジェシカは好奇心が強いのか?」

「え?い、いえ、その、お館様が気になって、つい」

「危険な行動だぞ?俺が居るから良いが。ん?怪しいな。付けるぞ」


 小柄な人影が周囲をキョロキョロしながら暗がりを進んで行く。

 ジェシカが居るのに気配に気づかない。素人だな。子供か?こんな時間に何をしている?


「きゃっ!」

「おら!逃げらんねんだよ!」

「今日の分、さっさと払えや!身体で払うかぁ?おら!」


 小柄な影が殴られて倒れる。ジェシカの手を取り急いで間に入る。

「ジェシカ。その子と下がれ。貴様等、随分子供の扱いが酷いな」

「あ~?こっちゃ集金してるだけだろが。すっこんでろ!」

「い~女連れてんじゃん!そいつが肩代わりでもい~ぜ~?男は死んでろ」


 そう言ってナイフを出して来たので、2人纏めて殴り飛ばし気絶させた。


「娘、怪我はどうだ?ジェシカ?」

「頬が腫れて口から血が…」

「じっとしろ――――治癒を掛けたから心配いらん。アレは何だ?」

「…………」

「どうしたの?心配いらないわ。お話してくれる?」

「………かあさん。母さんが……病気なんだ。アイツら、返せないの分かってて、高い薬を押し付けるんだ」

「お館様………はい。ね?お姉さんとお館様が家まで送るから。教えてくれる?」


 やはり俺は怖いのか。地味にショックだ。ジェシカと手を繋いで歩いている。

 何処にでも有る話だが、何とかしてやらんとな。もう領主だしな。

 こうして見ると、ジェシカは面倒見の良い優しい娘なのだな。

 使用人の事も、ちゃんと1人1人見ないとな。定期的に面談や慰安を考えないとな。


 着いた先はやはりスラムの一角で、貧しい長屋だった。


「邪魔するぞ?娘、薬は有るか?見せてみろ」


 ジェシカが受け取り見せて来る。一口舐めたが予想通りにアボンと言う麻薬だ。


「これは麻薬だ。いずれ死ぬぞ。母親は隣か?」


 ジェシカと娘を伴って部屋に入ると薄い寝間着にシーツ1枚でうなされている女が寝ていた。

 ステータスを見るとかなり衰弱しているし、麻薬の常習反応が出ている。

 女の胸に手を当てて、治癒を掛ける。

 5分程で毒気が抜けて、容体が安定した。


「おい娘、食事はちゃんと出来ているのか?」

「………」フルフル


 時空術から、肉と野菜を多めに出して簡単なサンドイッチを作ってやった。

 母親には肉と野菜のスープをジェシカが作っている。

 ジェシカに促されて、娘は凄い勢いで食べ始めた。水を飲め!詰まるぞ?


「んぐ!ごほ、ごほ」

「ほらほら。ゆっくり食べるのよ?誰も取らないから」

「お姉さん、コックのオジサンありがとう」

「うふふ。いいのよ?」

「ジェシカは優しい娘なのだな。お前達の事も1人づつ、ちゃんと見なければな。お館失格だ。実家は王都か?両親はどうしているのだ?」


「わたくしを………実家は王都の外れです。貴族ですが父は無爵で最下級官吏なので暮らしは平民と変わりません。幼い頃から見目は良かったので、11歳から王宮の下働きに入れまして、成人からメイドに上がれました。実家には何の力も無いので、兎に角一生懸命真面目に働く以外に無かったものですから、面白い話も出来ませんし遊びもお洒落も知らないのです。つまらない女だと思います。

 姉は商屋の次男を婿に貰って、父に着いて官吏見習いです。

 私は嫁に行くにも持参金も有りませんし、実家を助けたいので」


「皆、色々と有るのだな。俺など、フラフラ大陸横断しただけだ」

「そんなっ!お館様は英雄です!お仕え出来て幸せです!……屋敷に仕える娘で私みたいに貧しい子は居ないと思いますよ?」

「そうか?英雄は名前に過ぎん。ジェシカは幾つになった?」

「19歳ですが……?」

「食べ終わったか。母親が目覚めたらコレを渡しておけ。ではな」

「じゃあね?危ない人に関っちゃダメよ?困ったら領主の屋敷に行きなさい」



 娘の家を出て、領主館に戻る道を2人で歩く。ジェシカに合わせてな。


「お前の父はこの領地で、ジェームズの下で官吏をヤル気は有るか聞けるか?俺も一緒に行く」

「!!ほ、本当、ですか?願っても無いと思います!大出世です!宜しいのですか!?」

「それは言い過ぎだが、来て貰えると助かるんだがな」

「本当に有難う御座います。一生、お館様のお傍でおつか……お慕い申し上げます」

「大袈裟だ。が、その気持ちに応えてやりたいのだがな」


 ジェシカが寄り添って来て、俺の腕を抱き締めた。これ位はいいか。

 ゆっくり歩いて馬車まで戻った。相変わらず騎士団は家宅捜索中だった。ごくろーさん!

 自室に戻るとジェシカが茶を入れてくれたので、2人で静かに飲んでいた。

 ~のだが、気付いたらソファーに座ったまま寝ている。どうするか?

 仕方が無いので、メイド服を脱がせて俺のベッドに寝かせた。勿論1人だぞ?

 ジェシカの寝顔を見ながら頭を撫でて治癒を掛けてやり、部屋を出た。


 談話室で1人、これからの事を考えながら武器の手入れを始めた。





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 んう。ぁ――――いい匂い。気持ちいい寝心地だゎ。


 少し眠いけど、起きなきゃね。


 お館様にお茶をお出ししないと。え?おやかたさま?


 そ~っと、身体を起こしてみるの。


 お館様のお部屋?あれ?えっ―――――!わ、私、下着!え?どうして?


 はっとして、パンツを見る。股に指を……大丈夫。いえ、残念。ふぅ~


 理由は分からないけど、お館様が寝かしてくれたんだわ。

 兎に角支度をしなきゃ!

 急いで顔を洗い、戦闘服メイドに着替えて髪の毛を整えてから、こっそり出ます。

 多分談話室なので、顔は赤いと思うけど平静を装い入室します。



「お、おはっ!にょうごじゃりましゅ」


 全然言えてません。最悪です。ジェシカ駄目駄目です。


「おはようジェシカ。良く眠れたか?脱がせたのは悪いが、何もしてない。安心しろ」

「ざんね、いえ、大丈夫ですお館様。お茶をお入れしますね?」


 別にお手付きの方が嬉しいのですけど。おねだりなんてしませんし。何も望みません。


「お、お手付きで大丈夫です」

「ん?なに?」

「大丈夫です」

「そうか………か、考えておく」

「はいっ!嬉しいですわ!」


「あ、お館様。父には何時伝えれば宜しいでしょうか?」

「早い方がいい。ジェームズも早く欲しいだろうし、父上殿も準備が有るだろうしな」

「分かりました。王都に戻ったら直ぐに」

「――――ジェシカ。良く考えろ」

「考えるまでも有りません。大丈夫です」

「嫁にも行けんぞ?アーシャ達はどうする」

「お傍なら、何も望みません。奥様の公認なら安心ですが、出来れば内密に。

 望みはお傍でお仕えする事ですから」

「お前の気持ちは分かった」

「有難う御座います」


 その後は2人で雑談してました。お館様にも以外と可愛い一面が有ったりして。

 何だか、恋人のような関係?って錯覚しそうだわ。




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 宰相やイエネッタ達と朝食を済ませて領主の屋敷に入ると、粗方の捜索は終わった様で落ち着いていた。

 それと街中に建てる立て札が幾らか出来上がっていた。仕事早いな。

 昼迄にこれを建てて回り、中央広場にて聖騎士団が発表する手筈なのだ。

 俺は正式に王都で布告されてからで良いらしい。


 取り敢えずは館の内外装を変えておきたいので大工の手配と旗や描かれた家紋も変更しなくてはならん。

 商業ギルドに顔を出して説明と注文。

 冒険者ギルドにも顔を出して、各ギルドと警備隊に召集を掛けて新代官が赴任したら挨拶と、現状の説明を行うように伝えておいた。



 昼になり、中央広場に詰め掛けた民衆は、聖騎士団からの新領主、ニルヴァーナ伯爵領になった事に大歓声でもって歓迎を表した。

 前領主と司祭による重税と無法に苦しめられていた者が多かった事が見て取れた。

 ついでとばかりに、俺が演壇に立ち声を出した。


 無法な重税は廃止、適正に対処する。

 弱きを助け強きを挫き、皆が笑顔で助け合える街にしたい。

 孤児やスラムの救済、仕事の創出と斡旋。

 創神教との低価格な治療院の開設。

 識字率を上げる為の学校の建設と教員の募集。

 隣のユルテンベルクとの総合的な仕事と流通。

 新領軍を結成し2領纏めての求人と防衛。等々を説明した。


 一斉に地響きの様な大歓声に街は包まれて、挨拶は成功した。




 場所は変わって帰りの馬車の中。

 昼は街で食べて出たのでお茶と甘味の時間だな。妻達は喜んでいる。

 休憩の使用人達にも分けているから、騒いでるだろうな。



「暴動が起きるかと思ったぞ。肝が冷えたが、演説は成功だったな」

「それだけ”前”が酷かったんじゃないか?」

「いえ、旦那様にはカリスマがお有りですから」

「そうだな。メルに魅力が有るのは違いない。女性にもな?くくく」

「まあ!宰相様ったら!うふふ」

「旦那様は人たらし。ですわね?」

「まあ、メルが上手くやれば遣る程、あたしらは楽になるってもんさ」


「しかしこの馬車は早くて快適だな。私がそうそう出る事も無いが」

「昔は俺が身一つで何処でも行ったが、今はそうも行かないんでね」

「そうだな。だが、下手な宿より快適なのは助かる」



 王都までの道のりは快調に進み、宰相とも色々と相談事が出来たのは良かった。

 先に王宮へ2人を送り届け、我が屋敷に帰ったのは2日後の夕方だった。


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