第15話 林の教会
旦那様がお出掛けされた後、私達は化粧室に籠もります。
おめかしの時間ですね。私の母とお義母様が来られますから身嗜みは整えませんと。
私には、ボルドー家から一緒だった侍女のナターシャと侍女長のマリアンヌ。
彼女は王宮の女官だったのを移籍で屋敷に来て貰いました。何でも地獄の選抜戦が有ったとか無かったとか。
ターニャさんにはクラリス、ソニアさんにはエメラ。この2人も王宮からです。
やはり、身元が確りしていて意識の高い人は安心してお任せ出来ますからね。
メイドは総勢40名居ます。なぜこんなに大所帯かと言いますと、このお屋敷と敷地が巨大なんですの。
私達が住み、普段使う本館。別館と、それを繋ぐ位置にダンスホール、そして旧館。
旧館は建物も内装も調度品も骨董品で、扱いにも注意が必要なので年配を中心に手入れをして貰ってます。
これらと別に使用人棟と警備隊の宿舎と詰め所、厩舎、林に囲まれた教会、池や泉まで有ります。
クリーナーメイド、ランドリーメイド、キッチンメイド、パーラーメイド、バスメイド。それらの部門にオールワークスのベテランに面倒を見て貰って、メイド長が管理してます。
そのメイドと侍女を統括する女性陣の頭がマリアンヌです。
警備や庭師、大工、御者、料理、其々に頭は居ますが執事を含めて屋敷の一切を仕切るのが家令のジェームズで、彼は男爵位を持つ渋い中年です。
昼食会はその、林の教会で。
ここは、このお屋敷に越して来た時に創神教が建ててくれた物なんです。
私が名誉司祭だからですね。此処には住み込みで神道女が2人、常に詰めていますの。
なぜ教会で?と言うとお義母様が負担無く、自由に現れる事が出来るのは神域らしいので、定期的に女だけの会合を、ここで行う事にしたのです。
と、言う事でバタバタしてますの。
ドレスと宝飾品は用意されているので、それに合わせたお化粧と髪型に造って貰ってます。うふふ
私は首までキッチリの黒のドレス。金髪が映えるのです。ターニャさんは赤のオフショルのドレスで髪は上に纏めてます。ソニアさんは水色のドレスで少し可愛い感じ。昔は短かった黒髪を伸ばして、後ろに流しています。
私のお母様が屋敷に到着したので、皆でお出迎えです。
「ようこそ御出で下さいました、お母様。あら?」
「こんにちは、アーシャ。ターニャさんとソニアさんも。本日はナンシーとミランダも居ますよ?」
「そうでした。ごきげんよう、ナンシーお義姉様ミランダお姉様」
「ごきげんようアーシャさん。出来るだけ、この会には参加しないとね」
「アーシャは今日も可愛いわね?お人形さんみたい!」
「さあ、お待ちしておりました。中へどうぞ」
私を先頭に皆で屋敷の中へ入り談話室に行く。
テーブルを挟んで3対3の様な恰好でソファーに座るとパーラーメイドのジェシカとダイアナがお茶を配って壁に控える。
「メルさんは入らっしゃらないのね?商会かしら?」
「いえ、冒険者準備学校ですわ。教師の様な事もなさるそうです」
「あれ、今王都でも話題よね」
「軌道に乗ってくれればね。死者の数も減るでしょうし、冒険者の数が安定すれば街道の安全も増しますしね」
「そうですわね。剣術や魔術の学校も検討して欲しいと、様々な所から打診されているようです。旦那様としては幼い子供達に読み書きや算術を教える場が提供出来ないか考えているご様子です。そこで1食でも出せれば更に貧しい子供達には救いになります」
「凄い事を考えているのね?国が行う様な事じゃない」
「ええ。剣術と魔術の学校は国との共同で、と話が来ているみたいですわ」
―――そろそろ移動しましょう。
そう、声を掛けて席を立つと皆さんも。
マリアンヌが先頭で廊下を進み、別館と繋ぐダンスホールの廊下へと進み、そこから中庭に出ます。
後は林を目指して石畳みを歩いて行くと――――ひっそりと教会が建っています。
中に入り、神道女と屋敷の使用人達に声を掛けて中央のテーブルに腰を掛けます。
「シリアお義母さま、アーシャです」
すると、御神体の前を煌めく粒子が集まり女性体を形作って徐々にお義母様になってゆく。
「皆さんご機嫌如何かしら?楽しみでしたぁ!あら、奥様?お肌がツヤツヤしてますよぉ?」
「分かっちゃうかしら!?実はアーシャに勧められた物が良い様で、あ、奥様。ごきげんよう」
「もう、お母様ったら。御挨拶が先でしょ?」
「でも、お肌がいいのは確かなのよね」
「そうなんです。開発に苦労しましたから」
「実は今日の話題の中心はそこです」
「…」コクン
用意が整いました。と、言ってマリアンヌがメイド達とランチの配膳を始めます。
裏では皆も自分達の食事の準備をしている事でしょう。
前菜が運ばれて静かに食事が始まります。スープと入れ替わる時に、二言三言と言葉を交わして魚が出て来ます。ニシンの酢漬けは私も好きなので嬉しいです。お義母様も美味しそうな表情ね。
食間の品として無花果のシャーベット。ここでは普通に会話をしながら。
会話の切れ目にメインの豚腿の炙り焼き。美味しくて、皆の反応を見るのを忘れそうでした。
後は生野菜が出て、仕上げの甘味。今日は苺のタルトです!紅茶と一緒に。
漸く色々なお話が出来ますわね。
「お母様方、お姉様方、お口に合いましたでしょうか?」
「ええ、とぉっても美味しかったわよ!」
「そうですね。今日も流石でした」「「うんうん!」」
「実は、御相談がありますの。邪竜討伐から最近まで、忙しかったのも有り、旦那様が商会をお作りになったのも有り、考えていた事を私達で実行に移せないかと思っている事が有るのです」
「どんな事なのアーシャ?」
「アーシャちゃん?創世神としては無理だけど、貴女達の義母としてなら助力しますよ?」
「はい。その、女性向けのお店が作れたらと思いまして。私が旦那様と冒険者として活動した実体験なのですが、トイレ事情です!あれ、困るんです!とは言え出すモノと出す場所はどうにもならないでしょうから諦めるにしても、隠したいので軽量で邪魔にならない案が有れば、と思いました。
それから匂いです!野生動物や魔物は特に女性の匂いに敏感で、お小水は特になのです!そこでコレです。これは香袋と名付けた袋ですが中にハーブや樹皮が入っていて、身に着けるだけでも肌に擦るでも良しです。実地検証済みです。後は普段やデート、パーティーでも使う香水と言うのを作りました。まだ種類は多く無いのですが、取り敢えずこれ、ゴージャス(ローズ)・フェアリー(ラベンダー)・ベビーデビル(シトラス)・ラブ(ピーチ)の4種!」
「私が受付嬢時代も女性冒険者からは悩みの種として挙がっていたのです」
《農村部では普通に困ります》
「そうよね。確かに当事者には切実かもね?」
「香袋?は良いんじゃない?香水もオシャレにはいいわよね。どれどれ…」
「香水は遥か昔の人間の世では使っていましたし、流行っていましたよ?良いと思うわぁ」
「そうなのですね………あら、いい香りね」
「後2つ有ります。1つは化粧品です。外でお仕事される方を、冒険者をやってみて実感したのですが肌が荒れるのです!これを何とかしたくて色々試しました。この化粧水と、美容液。化粧下地のファンデーションです!マリアンヌ?お湯とクレンジングオイルとタオル。化粧品と侍女達も」
かしこまりました。と言いながら即座に用意されていました。流石ですわ。
それから皆さんにお化粧を落として貰って化粧水を試して貰いました。
反応は―――
「何これ凄い!」
「え?肌が、肌が、吸ってる!」
「どうなってるの!お肌が蘇る感じよ!」
「ですわよねですわよね」
私達3人は顔を合わせて頷き合う。お義母様は分かっているらしく”うんうん”頷いていました。
「更にこの美容液とファンデーションを塗って下さいまし。全っ然、違いますから」
侍女達に施して貰う事、暫しお茶を飲みつつ待ちます。
「すごいわ…確かに乗りと言い軽さと言い肌の感触と言い、別世界だわ」
「アーシャ!凄いわよ!貴方達で考えたの?」
「これは、もう手放せないわ……」
「お義母さんは賛成ですよ。中々に良く出来てると思います。他も増やして行くのでしょう?」
「はい!それで、この会を商品開発も兼ねた会合にしたいので週に1度集まれないかと」
「「「賛成!!」」」
「そうですね。私は大丈夫よぉ」
「で、最後の1つはデリケートな部分なのですが……一番外に出て困ったのが”月のモノ”の時です。他の女性冒険者の方に聞いてもそうでしたし、普段使いも出来る物を考えて出来たのがコレです。このパッド、中にコレを入れるだけです。使用後は捨てて外のパッドだけを洗っても良いですし、中のコレは布に綿を詰めただけなので洗う事は出来ますが清潔を考えて廃棄がいいです。洗う場合は洗浄後に薬草に浸しておくと安心ですね。これも試験済みです。大小有れば夜も大丈夫ですしね」
「アーシャちゃんの発想はいいわねぇ。これも遥か昔に技術が今より進んだ世界では似た物が使われていたのよぉ。女性全体の事だしねぇ」
「何で今迄無かったのかしら?」
「コレは良いと思う!」
「私達3人で色々と試してみたのですけど、現状は布技術や紙、綿、価格を考えるとこの辺が限界かと」
その後はお茶やお菓子をお供に7人で色々と話合って、もう少し詰めてから商品化する事にしました。
店舗の準備は実際どうにでも出来るので、店員の数と販売体制、価格帯、素材の入手と製造工場。決める事は沢山有るので、その辺りは旦那様にもお願いしようと言う事になりました。
で、どうせなら喫茶もどうか?と。
化粧品等を購入した隣の店が甘味を出すお茶屋で、テーブルには卓上小鏡が付いていて、顔や髪の毛を見て化粧品を試せるのです。
当然そのお店で出す商品の食材はボルドー産ですわよ。
「あと…木綿、いえ、綿をもっと色々な物に生かせないか考えてます。まだ構想段階なので、研究所を作って試してみたいんです」
「アーシャ様、別館で一部屋を研究室にしてみては?」
「どんな物なの?」
「それは多岐に渡るんですけど、今の物より更に加工をして、肌触りが大切な物や繊細な部分とか。先程の月用品や下着類、化粧道具、様々に使えそうなのです」
「その内容ならお義母さんも賛成だから進めましょ?」
「ええ。その研究?は進めましょう。喫茶の方も良い案だと思うわ」
「珈琲よりは紅茶かしら?フレーバーティーも良いですね」
「そう言えばメルさん達は林檎のお酒も造るのかしら?」
「はい、お母様。旦那様とジェームズで試作を進めています。商品化はもう近々と伺ってますから、ボルドー産の高品質な林檎なら高級酒として人気が高まると思います」
「そうですね。試飲しましたがとても美味しく上品な味でした」
「……」コクンコクン
この女性の会の事、旦那様のメルシャー商会の事、ボルドーの事、弟の事、孫はまだかとか、色々話せて楽しい時間でした。
ただ、弟のセバスの事は気掛かりなのです。
旦那様にご相談出来ないかしら……




