7 あたしがいけなかったの
おしゃれに背を向けた日のことは、今でもはっきりと覚えている。
まだ残暑が残る秋の放課後。あたしは四年生だった。
その日の朝、あたしはパパにおねだりして買ってもらったプリーツスカートをおひろめしたくてウズウズしていた。
かなえには少し丈が短いわよ、とママは反対してたけれど、どうしてもほしかったんだ。
由美子も、杏も、きっとほめてくれる。見る目のきびしい凛花だって、いいのを選んだって拍手してくれるかも。
姿見の前でコーディネイトを確認し、胸を高鳴らせて登校した。
友達の反応は期待以上だった。
特に凛花は足が長くてうらやましいとか、スタイル良すぎてムカつくとか、ほめているのか怒っているのかわかんない顔でベタベタ触ってちょっとうざいくらいだったけど、いい気分だった。
そのころのあたしは凛花と比べたら頭一個分以上背が高かったし、夏休みにはもう生理が来てた。
クラスできている子を知らないし、不安だったけど、ママが順調に成長してくれて嬉しいって喜んでくれたからか嫌な思いをした記憶はない。うちに生理の話ができる仲間ができたわ、とも言ってたかもしれない。
ランドセルを背負っていなければ、中学生にまちがわれることもしばしばで、中身はともかく身体だけは大人と変わらなかった。
もう小学生には見えないあたしが人の目にどう映っているか、考えてみたこともなかった。
放課後、あたしは学級新聞作りに残らなくちゃいけなくて、いつもいっしょに帰っていた由美子には先に帰ってもらっていた。
メンバーにも同じ方面の子がいなかったから、帰りは一人だった。
道中、公園からバスケットクラブでいっしょだった上級生の男の子たちとばったり会った。顔は知っているけど、ほとんど口を聞いたことがない人たちだったから、特に挨拶もしなかった。
黙って彼らの前を歩いていくのは、ちょっとだけ気まずかった。
あたしはそこそこ運動神経があるほうだった。
クラブは男女混合で、休み時間もバスケをして遊んでいる高木や大葉なんかにはかなわなかったけど、あたしはたいがいの男子より背が高かったから、シュートが良く決まった。百瀬なんか当たると吹っ飛んでしまいそうだ。
男子からゴールを奪うと先生は「四年生の女子に負けるなんて、情けないぞ」とげきをとばした。
クラブで一番上手だった大葉のお兄さんはセンスがあると褒めてくれたけど、嫌な目を向けてくる子も結構いた。
「おまえさ。もしかして、自分のことかわいいって思ってる?」
後ろからとつぜん声がかかった。遠くまで聞こえるように張り上げた大きな声だ。
まわりには他にだれもいなくて、だからあたしに言ってるんだとすぐにわかった。
くすくす笑うのが聞こえて、胸が凍る。
「かんちがいしないほうがいいよ。イタイから」
笑われてる。そう思うと怖くて、ふり返ることもできなかった。
相手がどんな顔をして言っているのか見る勇気がなかった。
情けなく首を落として歩く私を見て気が大きくなったのか、上級生たちはぴたりと後をついてきた。つぎつぎと意地悪な言葉を投げつける。
「そんなかっこうまでして、女子あつかいされたいのか。だったら、ゴリラみたいなバスケすんのやめろよ」
「調子に乗ってたって、どーせ、いつかはかなわなくなるんだからな」
誰かがウホッウホッとゴリラの真似をして、はじけるように笑う。
あたしはただ、楽しんでいただけだ。したいかっこうも、クラブも。
なのにどうしてそんなこと言われないといけないの? 女だから、なんなの?
みじめで、悔しくて、何より思いもよらない悪意におびえた。
「ちょい。ゴリラに失礼だろー」
「今頃、みんな笑ってんよ。ゴリラが女装みたいでキモいって。鏡見て考えろや」
「後ろ姿は悪くねーけどな。残念!」
今度は内緒話をするように声をひそめてくすくす笑う。
あたしはかわいくない。
キモいくせに勘違いしているイタイ女。
かわいい服なんて、あたしには似つかわしくない。
だから、こんなふうに言われるのも仕方がない。急に自分の体が恥ずかしくなる。
ごめんなさいママ。ママのいうとおり、人からどう見えるかもっと考えるべきだった。
あの人たちの言うように、調子にのらないように、かんちがいしないように、気をつけないといけなかったんだ。




