5 どうしていつもこうなっちゃうの?
ラインによろしくとスタンプを送り合うと、凛花が腕を組んでうなずいた。
「由美子もようやく告白する気になったか。大葉を追って柄でもなくバスケットクラブに入ったり、けなげだったもんね」
困ったように微笑んでいる由美子の代わりに、あたしが答える。
「なんで告白するなんて話になってんのよ」
「ラッピング見てるってことは、そういうことじゃないの」
凛花はしれっと決めつける。
「違う。たまたま可愛いのがあったから、見てただけで……」
「かなえは百瀬くんよね! お似合いだったなぁ。イケメン女子のかなえと、かわいい系男子のももちゃん」
凛花のいきおいにのって杏まで決めつけトークを始めた。
「は? やめて。勝手にくっつけんの」
いくら言ってもニヤニヤするばかりで二人は聞く耳を持たない。
そうだ。あたしは昔からこれにうんざりしてきたんだ。
それほど本気とも思えないしょっちゅう変わる杏の推しの話とか、凛花の演じるちっとも似てない高木のモノマネとか、二人の恋バナならいくらでも聞いてやるのに、どうして嫌がるあたしたちに話をふるかな。
杏は心底興味津々といったように目を輝かせている。
「ねえねえ、中学入っても、変わらずももちゃんとキャンキャンやってんの?」
「やってません。だいたいなんで百瀬が出てくるわけ」
「そらぁ、出るでしょ」
「あのねえ。あたしはっ……」
興奮してつい声が大きくなった。由美子がくちびるに人差し指を当てる。
「かなえちゃん。しーっ」
買い物客が大騒ぎするあたしたちを見ているのに気づく。周囲の視線が痛い。
フォローするつもりか、凛花があたしをひじでつく。
「もームキになって。かなえったらおとめなんだからぁ」
いや、あおっているんだ。反応しちゃいけないってわかってるのにあたしの口は止まらない。
「あんたたちが変なこと言うからじゃん。ももちゃんなんてありえない。ばっかじゃないの」
「ばっかじゃないの、だって。それ、ももちゃんが王子に向かってしょっちゅう言ってた」
「ほーら。くちぐせが移るなんて意識してる証拠」
杏が同意すると凛花がオニの首を取ったように得意げになる。あたしの言うことなんかぜんぜん聞いてない。
思い返せば高木も百瀬に対し、凛花や杏とよく似た絡み方をしていた。
顔を真っ赤にした百瀬に「ばっかじゃないの」と捨て台詞を吐かれても、きょとんとした顔をして「怒らせちゃった」と舌を出している。なにひとつこりないのだ。
高木も、凛花も、杏も、どうして相手の気持ちを無視するんだろう。
友達だと思ってくれているなら、ちゃんと聞いて欲しい。
ほんとにイヤなのに。好きな人なんかいないって言ってるのに。
ふと頭に不機嫌そうな百瀬の姿が浮かんで、くちびるをかむ。
百瀬は大葉のおさななじみで、色素の薄い猫っ毛の髪と白い肌に桜色の頬をもつ、女の子みたいにかわいい見た目の男の子だ。
男女どちらとも取れる薫という名前や、「ももちゃん」というあだ名のせいで、知らない人からも女子と間違われ、しょっちゅうぷりぷり怒っている。
あたしは自分のしっかり張った骨格も、肉付きも、みんなコンプレックスに感じていたから、百瀬がうらやましくてしかたがなかった。
百瀬みたいな薄い胸やきゃしゃな手足、無駄のないきれいな身体が欲しかったんだ。
本人にとっては美点でもなんでもない、むしろ私と同じコンプレックスの種なんだろうけれど、百瀬が側にいると、あたしはあたしがどんどん嫌いになってしまう。
好きどころか、どうしても目について無視できないのに見るとイライラしてしまう因縁の相手なのだ。
「お。かなえ、顔赤くない?」
凛花が下から顔をのぞきこんでくる。
「もういい。チョコ作りなんかやんない。三人で勝手にやれば」
「あっ、かなえちゃん。待って」
あたしはパーカーをつかむ由美子の手を振り払った。
「好きじゃないって言ってんのに、しつこいんだよ」
「かなえ!」
凛花の声を無視して走り去る。
だれにも顔を見られたくなかった。心をかき乱されているのが悔しかった。
ちょっとからかわれたくらいでおとなげない。そう思えば思うほど、のどがきゅっとつまった。
あたしはだれも好きじゃない。
人の気も知らないで、みんな勝手なことばっかり。
*
「ごめんね、かなえちゃん」
自転車置き場で呼吸をととのえていると、由美子にパーカーのそでを引かれた。さがしにきてくれたんだ。近くに杏と凛花の姿はない。
「寒いでしょ。いっしょに、帰ろ。ね?」
「杏と凛花は?」
「このあと塾だって。二人とも心配してたよ」
顔を合わせずにすむことにホッとする。
「あたし、百瀬なんか大っ嫌いだよ。あんな、大葉南朋のひっつき虫。由美ちゃんが大葉と話すきっかけになるから、いつもべったりなあいつともしょうがなく話してたんじゃん。なのに、勝手にくっつけられて、ホントめいわく」
「うん。ごめんね」
八つ当たりしたのに謝られて、もうしわけなくなる。由美子はなにも悪くないのに。
「でも、百瀬くん、ぜんぜん悪い子じゃないと思うけど」
「そういう問題じゃない。ムリやりくっつけられるのがイヤなのっ」
「あ、うん。そうだよね」
あたしの気持ちなんて関係なく、無責任に。
腹を立てながら自分も由美子に同じようなこと言ったじゃないかとも思う。
昔から二人とも学校でも平気であんなふうにやるから、百瀬だってきっとめいわくしてた。
恥ずかしくて、惨めで、悔しい。
隣に並んだ由美子がつぶやく。
「やっぱり二人だけで作ろうか。トリュフ」
せっかく再会したんだ。みんないっしょにやりたいと思ってるはず。こんなことくらいで意地を張るなんておとなげない。二人のことを許してあげるべきだ。
そう思うのに由美子の提案にうなずくことも、首をふることもできなかった。
「心配かけて、ごめんね。バレンタインはあたしぬきでやってよ。みんなとちがってあたしにはあげたい人もいないし、作らなきゃいけないわけでもないから」
「ううん。かなえちゃんとやりたいの。凛花ちゃんたちにはそれとなく言ってみる」
由美子の提案に胸がちくりとする。せっかく復活しようとしていた仲があたしのせいでこわれるんだって。
だけどすんなり自分のいうとおりになっても、きっともやもやしてた。
「いいよ。ほんとは、別にやりたくなかったし」
「かなえちゃん……」
由美子がそっとあたしの肩に頭を寄せる。
どうしてこんな言い方しかできないんだろう。由美子の顔が見られない。
あたしはどうすればよかったのかな。




